「SOSの出し方に関する教育」~子どもたちが生きる道を選ぶ一助に
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/「SOSの出し方に関する教育」~子どもたちが生きる道を選ぶ一助に
ざっくり言うと日本全体で自殺する人が減少している一方で、未成年の自殺率は上昇している抽象的に「相談して」と言うのではなく、具体的な相談先や方法が伝わる支援を2019/10/23 「三宅民夫のマイあさ!」 三宅民夫の真剣勝負! ゲスト:清水康之さん(NPO法人 ライフリンク 代表)
安心・安全
2019/10/23
前半の放送を聴く
2019年10月23日(水)放送より
後半の放送を聴く
2019年10月23日(水)放送より
【出演者】
三宅キャスター:三宅民夫キャスター
清水さん:清水康之さん(NPO法人 自殺対策支援センター ライフリンク 代表)
大久保キャスター:大久保彰絵キャスター
三宅キャスター:
子どもの自殺について、子どもたちの声なき声に向き合う専門家と考えます。2018年度1年間に自殺した小中学生と高校生は332人。昭和63年以降、最も多かったことが、文部科学省の調査で今月(2019年10月)明らかになりました。一方で、亡くなった理由については6割近くが「不明」とされています。
きょうの「真剣勝負」のお相手は、NPO法人「ライフリンク」代表の清水康之さんです。清水さんは元NHKのディレクターで、自殺の問題に取り組もうと、NHKを辞めてNPOを立ち上げました。どうしてNHKを辞めようと思ったんですか?
清水さん:
2001年に当時担当していた『クローズアップ現代』という番組で、親を自殺で亡くした子どもの取材をして、自殺というのは、残された子どもたちや家族にも大きな影響を与えると。もちろん亡くなっていく人たちに過酷な死を強いるわけですけれども。そうした社会的な問題であるにもかかわらず、当時、自殺は「個人の問題」とされていて、対策が全く動いてないという状況でしたので、仲間たちと一緒に対策を動かしていこうということで。番組作りを通してというのにも限界があると感じたので、自分が現場に入って、ということで2004年にNHKを辞めて「ライフリンク」を立ち上げて活動してきました。
三宅キャスター:
今度は、児童・生徒の自殺数が増えている。清水さん、これをどういうふうに感じていますか。
清水さん:
極めて深刻な状況だと思います。日本では、10歳から14歳、15歳から19歳、20代、30代の若年世代の死亡原因の第1位が「自殺」という状況です。平成元年ぐらいから児童・生徒の「自殺率」が、これは人口10万人あたりの自殺者数を表すんですけれども、じわじわと増加を始めて、当時と比べると約3倍にまで上昇している。この上昇は“子どもたちの生きる基盤が地盤沈下している”というぐらい、非常に深刻だろうと思っています。
三宅キャスター:
生きる基盤が地盤沈下している?
清水さん:
一般的には、人は生きていくのが当然、生きていれば何かいいことがあると人生に期待をして、きのうよりもきょう、きょうよりあすということで生きていくわけですけれども、今の子どもたちは必ずしもそういうふうになっていない。むしろ自分の人生を生きている意味を実感できない。生きていて、存在していること自体がつらくなったりしんどくなっている子たちが、例外的にではなく増えてきてしまっているのではないかと思います。
三宅キャスター:
自殺される方の「数」は減っていましたよね。そういう中で、「子どもたちの自殺が増えている」っていうことは、どういうふうに受けとめればいいですか?
清水さん:
自殺者全体で言いますと、長らく3万人を超え続けていたものがここ9年ほどは減少傾向にあって、昨年は2万人近くまで。ピーク時から比べると40%ぐらい減っているんですね。
三宅キャスター:
かなり減ってきているわけですね。
清水さん:
ただ、児童・生徒・未成年の自殺率だけが上昇しているという現状です。
三宅キャスター:
未成年のほうは増えているわけですね。
清水さん:
これは大きく2つ原因があると思います。1つは、これまでは中高年の男性の自殺が日本で非常に深刻だったので、「中高年男性の自殺をどう防ぐか」ということで、2006年の「自殺対策基本法」ができて以降、取り組みも割とこれに特化した形で進んできました。子ども・若者の自殺は人数的には少ないので対策が後回しになってきた、ということが1つ。
あともう1つは、子どもや若者の自殺の場合は、具体的に何か「生活支援をやればいい」とか、「借金の対策をとればいい」とかで問題解決するということではなくて、生きていくモチベーションが削られてしまっている。単純に生活支援や借金の解決では防ぐことのできない自殺が非常に多いということだろうと思います。
三宅キャスター:
本当に子どもたちが苦しい状況にいることが分かって、なんとかしていかなければならないのですけど、自殺って「個人の問題」っていうふうに捉えられることもあるけど、今の話を聞いているとそうじゃないですよね。
清水さん:
人の生き死に、命に関わる問題なので、極めて個人的な問題であることは間違いないんですが、個人的な問題のみならず社会的な問題であって、もっと言うと、社会構造的な問題。社会によって、自殺で亡くなる人の人数も違えば自殺で亡くなる人の率も違う。あるいは自殺で亡くなる人の特性だとか、労働者が多く亡くなる国があれば失業者が多く亡くなる国もあると。国の中でも都道府県や市町村によって、若い人の自殺が多い地域もあれば高齢者の自殺が多い地域もあったり、地域や社会の特性によって自殺で亡くなる人の属性は異なってきますので、これは社会的な問題と捉えるべきだと思いますね。
三宅キャスター:
日本で増えている未成年の人たちの自殺。どうしていけばいいですか。
清水さん:
まず今、危機にある子どもたちがいるわけなので、そうした子どもたちが「生きる道」を選べるように支援をしていく、子どもたちの自殺対策を喫緊の課題として強化していく、ということ。加えて言えば、自殺の危機に陥る子どもたちを、そもそも減らしていくことも重要だと思います。近視眼的に今、危機にある子どもたちを支援するだけでなく、子どもが生きて行こうと思える地域や社会を作っていく。「生きるに値する」と思ってもらえるような社会にしていく。裏を返すと、今は多くの子どもたちにとって、すべての子どもたちにとってというわけでありませんが、この社会で生きていくことが魅力的でなくなってきているという側面があると思いますので。
三宅キャスター:
とても重い課題だと思うけど、そこをどうしていくかということはなかなか大変なことで、何か「こういうことができそうかも」という事例はあるんですか。
清水さん:
今まさに長野県で、危機にある子どもたちへの支援と、そもそも子どもが危機に陥ることのない地域づくりというのをセットでやっていこうという動きが始まっています。これは長野県と日本財団が協定を締結して、日本財団のプロジェクトとして「子どもの自殺危機対応チーム」というのを10月1日に立ち上げました。知事がトップとなって全庁的な取り組みとして大人がスクラムを組んで、危機にある子どもたちへの直接的な支援も含めてやっていくと。今、自殺のリスクを抱えている子どもたちへの支援を通じて、なぜ子どもたちがそうした危機に陥っているのか、その背景の把握もしっかりと行って、把握した実態を踏まえて地域づくりに生かしていこうといったような、それがようやく地域をあげて県単位で、長野県で始まっているという。
三宅キャスター:
長野が取り組んだのには、理由があるんですか。
清水さん:
まだ理由ははっきりと分かっていないんですが、実は長野県は未成年の自殺率が全国でも最も高い。「長寿県」、「教育県」として知られている長野県ですが、未成年の自殺率が非常に高いということで、これに知事が非常に危機感を持って、「子どもの周りには、必ず大人がいるはずだ」と。ですから、そうした大人が子どもたちの支え手になれるようにするために、例えば学校でも、自殺の恐れがあるのではないか、危機的な状況に陥っているのではないかということを先生が把握している場合も少なくないんですね。ただ、先生もどうしていいか分からない。養護教諭だったり、あるいは「スクールカウンセラー」と言っても自殺の専門家ではありませんから、対応に苦慮したときにアドバイスを請うことのできる特別なチームを、弁護士や精神科医、あるいは臨床心理士、われわれNPOであったりが組んで、「リスクを抱えている子どもの周りにいる大人たちを支援する」という仕組みを作って、今まさに始めているところです。
三宅キャスター:
なんとかしようと地域で立ち上がったと。
「いじめ」についてはいろいろ対応が考えられてきていますけど、「自殺」って、いじめに比べるとそういうのってあんまり……。
清水さん:
やはり「自殺は起きてほしくない」ということもあって、起きることを想定した対策がなかなかとれていないというのは現実だろうと思います。ただ実際に子どもの自殺は増えているわけですし、いつどこの学校で起きても不思議ではないという現状ですので、「起きるかも・可能性がある」ということを前提にした対策をやっていかなければならない。それがようやく今、始まろうとしているということですね。
三宅キャスター:
先ほどの話を聞いていると、根本的なところに課題がありますよね。
清水さん:
いくら、今、危機に陥っている子を支援しようと思っても、危機に陥る子の数が増えれば支援しきれるわけではないので、やはり子どもたちにとって、自分の人生を生きている意味がある、あるいは生きていこうと思えるような状況を、社会づくりとしてやっていく必要があると思いますね。
三宅キャスター:
苦しんでいる子がいるかもしれない。今、一番求められていることは何だと思いますか。
清水さん:
子どもにとって身近なツールと言うと、電話よりもSNSだろうと思うんですね。ですから、SNSを使った自殺の悩みを受けとめる「相談」を、厚生労働省が事業として行っていて、「厚労省 SNS相談」と検索していただくと、LINEやSNSを使った相談機関の一覧が出てきますので、そうした中から相談先を見つけていただければと思います。
三宅キャスター:
とにかく困っている子が、なかなか声を上げられないから周りも気付けないんだけど、それにどう気付けるかということは大事ですよね。
清水さん:
子どもが声を上げるハードルを下げるためには、電話でなければならない、面談でなければならないということではなくて、「子どもにとって使い勝手のいい“ツール”で、声や相談を受けとめる」という仕組みが必要ですし、併せて子どもたちには、「SOSを出していいんだよ」ということを伝えていく必要がある。これは「SOSの出し方に関する教育」ということで今、全国に広がり始めています。
三宅キャスター:
声を上げることを教えてあげる、ということなんですか。
清水さん:
「声を上げてもいいよ」ということと、「どこに声を上げればいいのか」ということの具体的な相談先をしっかりと伝えてあげるということです。抽象的に「相談して」と言うのでなくて。
三宅キャスター:
みなさんからの声もたくさん届いています。ここからはそれを紹介しながら、何が求められているのかを考えていこうと思います。
大久保キャスター:
<自殺というのは1人でもあってはならないこと。私たちは自殺に慣れっこになってしまっているのではないかと思います>
<少子化・高齢化の中、未成年の自殺が増加しているとは「国難」ですね>
<私には中学1年と小学5年生の娘がいます。たまに学校であった嫌なことなどを帰ってきてから話してくれるので、親で済むことは親がしていますが、「学校の中のことやお友達のことはやはり先生に相談してみれば」と私が言うと、どちらの娘も「先生に言ってもむだ」と返ってきます。学校の先生方が多忙だというのはニュースなどで見聞きしますが、少なくとも子どもからの信頼を得られる関係作りは、子どもたちの手本としてももう少し考えてもらいたいと思います>
学校の先生からも頂戴しました。
<中学校の教員です。とにかく人と時間が足りません。今の中学校の状況では、自信を付けさせるような指導や支援はできません。親はわが子にスマホを与えておいて、何か問題があったら学校に頼ってきます。家庭での見えないことを相談されても学校は困ります>
三宅キャスター:
親御さんとしては学校に期待をし、先生方は大変な事情もあると。どうしたらいいんですかね……。
清水さん:
これはもう「家庭か学校か」ではなくて、家庭も学校も、さらには地域も一体となって子どもを支えていく状況を作る必要があると思います。先ほど、「SOSの出し方に関する教育」という、子どもが命や暮らしの危機に直面したときに、「誰にどう助けを求めればいいか」を教える授業が全国に広がっているという話をしましたけれども、これで想定されているのは、地域の保健師が学校に出向いていって、それぞれの地域のそれぞれの問題に対して、どういう支援策や相談機関があるか。そこにどうやって相談すればいいのか。仮に相談して声を受けとめてもらえなかったときには、「私のところに相談に来てね」というふうに、授業をする保健師さんが子どもたちに呼びかけるということが広がっていってるんですね。「家庭や学校で相談できないときには、地域のこの人に」ということを、ちゃんと子どもたちに伝えていく。そうすると、学校の先生も全部学校任せにするのではなくて、「命の危機に陥ったときに誰に助けを求めればいいか」ということを地域と連携しながらやっていく。子どもの悩みの背景には家庭の悩みが潜んでいる場合がありますので、そうしたときには学校だけでは対処できない。地域と連携していかなければならない。そうしたときに保健師が学校とつながりを持っていると、「子ども」と「子どもが属する家庭」とをセットで一緒に支援していくことができる。学校と地域が連携して支援していく“橋渡し役”にも保健師がなりうるので、そういうふうに学校と家庭と地域が連携をして、子どもたちを支えていく。そうした仕組みを作っていく入り口に「SOSの出し方に関する教育」はなりうるんじゃないかと思っています。
三宅キャスター:
ネットワークを作っていく必要はあるかもしれませんね。
大久保キャスター:
続いてのメッセージです。
<清水さんの言葉、「自殺したい子どもを救うより自殺したい子どもを出さない施策が必要」。このお話、重く受けとめました。子どもたちが今は苦しくても、将来その苦労が報われる社会にしなければいけないと思います>
<私の娘も自殺しました。「変わっている」と言われるのがつらくて、大人になって社会に出てやっていけるのか不安になって、生きていけなくなったみたいです。「変わってるね、どうしてふつうにできないの」ではなくて、「あなたの個性すてきね、苦手なことはお互い手伝おうね」と言ってくれる社会であれば、娘は死なずに済んだと思っています。「きっと受け入れてくれる人に出会えるよ」と励ましていましたが、娘には実感できず、空虚な言葉でしかなかったようです。個性を受けとめて、温かい心の社会であってほしいです>
三宅キャスター:
つらいお気持ちの中、メールをありがとうございました。今の声は、耳を傾けるべきものがありますね。
清水さん:
子どもにとって暮らしやすい、あるいは生き応えのある社会を作っていくとか、弱者に寄り添って社会づくりをしていくって言うと、何かセンチメンタルな、感傷的な意見じゃないかと思われがちなんですけれども、ほかの国々を見ていくと、「社会的に弱い立場の人たちや子どもたちにとって暮らしやすい社会を作っていくことが、結果として経済的にも社会全体の活力につながっていく」という例があるんです。
デンマークとかオランダとかフィンランドでは、大体中学校を卒業するぐらいまでは子どもたちに宿題を出さないんだそうです。その代わりに何をするかと言うと、子どもたちにいろんな「体験」をしてもらう。体験を通して子どもたちは「これをもっと知りたい、あれをやりたい、こういうふうになりたい」といったモチベーションを持つようになるわけです。ひと度モチベーションを持つと、子どもっていうのは大人が止めてもそれを一生懸命やっていく。
大人や教育の役割は、子どもにモチベーションを持たせて、持ったモチベーションをその子が追及していくのに基づいて、いろんなことを知ったり努力することを支えていくことだというふうに方針を大きく転換して、それまでは詰め込み型の教育だったものを、「子どもにモチベーションを持ってもらって、それを育んでいく、支えていく」という教育に変えた。
結果どうなったかと言うと、子どもたちは自分のやりたいことなので一生懸命やっていきます。一生懸命やっていくので、成果が出ます。この成果を経済的に1人当たりの生産性、GDPで言うと、デンマーク、オランダ、フィンランドは世界的に見ても極めて高いです。結果が出やすいわけです。自分がやりたいことを努力して結果が出ると、当然それは満足度にもつながる。フィンランド、オランダ、デンマークは、「幸福度調査」、国民がどれだけ幸せを感じているかということの調査で、軒並み上位です。
つまり、「生産性が高いこと」と「幸福度が高いこと」はコインの表裏。一緒にやっていけばこそ、そういうふうになっていくんだと。無理強いをして働かせる、あるいは規則で縛るっていうことは、一見するとそれで管理できている、それによって生産性が上がるかのように思いがちで、実際これまでそういうふうにやってきて、うまくいった部分もあるわけですけど、今の社会や世界はそういう状況ではなくて、もっとクリエイティブな発想でやりたいことを追求していく。それをしっかりと支えていくことによって、生産性と幸福度、国の活力や社会の活力にもつながっていく。子どもたちがどう過ごすのが、子どもたちにとって生き心地のいい社会なのかというのを、しっかりと子どもたちから学んで、学んだことを社会づくりに生かしていくという発想が必要だろうと思います。
三宅キャスター:
子どもたちが生きやすい社会は社会そのものが幸せな社会になると。そういう可能性があるということですね。
いやぁ、考えさせられました。ありがとうございました。
「聴き逃しサービス」でもう一度番組をお聴きいただけます。
番組
マイあさ!・三宅民夫のマイあさ!
番組情報
番組名
マイあさ!・三宅民夫のマイあさ!
放送日時
[R1] 毎週月曜~日曜 午前5時00分~
キャスター
三宅民夫、田中孝宜、高嶋未希、大久保彰絵、吉松欣史、小澤康喬、渡辺ひとみ
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清水さん:清水康之さん(NPO法人 自殺対策支援センター ライフリンク 代表)
大久保キャスター:大久保彰絵キャスター
三宅キャスター:
子どもの自殺について、子どもたちの声なき声に向き合う専門家と考えます。2018年度1年間に自殺した小中学生と高校生は332人。昭和63年以降、最も多かったことが、文部科学省の調査で今月(2019年10月)明らかになりました。一方で、亡くなった理由については6割近くが「不明」とされています。
きょうの「真剣勝負」のお相手は、NPO法人「ライフリンク」代表の清水康之さんです。清水さんは元NHKのディレクターで、自殺の問題に取り組もうと、NHKを辞めてNPOを立ち上げました。どうしてNHKを辞めようと思ったんですか?
清水さん:
2001年に当時担当していた『クローズアップ現代』という番組で、親を自殺で亡くした子どもの取材をして、自殺というのは、残された子どもたちや家族にも大きな影響を与えると。もちろん亡くなっていく人たちに過酷な死を強いるわけですけれども。そうした社会的な問題であるにもかかわらず、当時、自殺は「個人の問題」とされていて、対策が全く動いてないという状況でしたので、仲間たちと一緒に対策を動かしていこうということで。番組作りを通してというのにも限界があると感じたので、自分が現場に入って、ということで2004年にNHKを辞めて「ライフリンク」を立ち上げて活動してきました。
三宅キャスター:
今度は、児童・生徒の自殺数が増えている。清水さん、これをどういうふうに感じていますか。
清水さん:
極めて深刻な状況だと思います。日本では、10歳から14歳、15歳から19歳、20代、30代の若年世代の死亡原因の第1位が「自殺」という状況です。平成元年ぐらいから児童・生徒の「自殺率」が、これは人口10万人あたりの自殺者数を表すんですけれども、じわじわと増加を始めて、当時と比べると約3倍にまで上昇している。この上昇は“子どもたちの生きる基盤が地盤沈下している”というぐらい、非常に深刻だろうと思っています。
三宅キャスター:
生きる基盤が地盤沈下している?
清水さん:
一般的には、人は生きていくのが当然、生きていれば何かいいことがあると人生に期待をして、きのうよりもきょう、きょうよりあすということで生きていくわけですけれども、今の子どもたちは必ずしもそういうふうになっていない。むしろ自分の人生を生きている意味を実感できない。生きていて、存在していること自体がつらくなったりしんどくなっている子たちが、例外的にではなく増えてきてしまっているのではないかと思います。
三宅キャスター:
自殺される方の「数」は減っていましたよね。そういう中で、「子どもたちの自殺が増えている」っていうことは、どういうふうに受けとめればいいですか?
清水さん:
自殺者全体で言いますと、長らく3万人を超え続けていたものがここ9年ほどは減少傾向にあって、昨年は2万人近くまで。ピーク時から比べると40%ぐらい減っているんですね。
三宅キャスター:
かなり減ってきているわけですね。
清水さん:
ただ、児童・生徒・未成年の自殺率だけが上昇しているという現状です。
三宅キャスター:
未成年のほうは増えているわけですね。
清水さん:
これは大きく2つ原因があると思います。1つは、これまでは中高年の男性の自殺が日本で非常に深刻だったので、「中高年男性の自殺をどう防ぐか」ということで、2006年の「自殺対策基本法」ができて以降、取り組みも割とこれに特化した形で進んできました。子ども・若者の自殺は人数的には少ないので対策が後回しになってきた、ということが1つ。
あともう1つは、子どもや若者の自殺の場合は、具体的に何か「生活支援をやればいい」とか、「借金の対策をとればいい」とかで問題解決するということではなくて、生きていくモチベーションが削られてしまっている。単純に生活支援や借金の解決では防ぐことのできない自殺が非常に多いということだろうと思います。
三宅キャスター:
本当に子どもたちが苦しい状況にいることが分かって、なんとかしていかなければならないのですけど、自殺って「個人の問題」っていうふうに捉えられることもあるけど、今の話を聞いているとそうじゃないですよね。
清水さん:
人の生き死に、命に関わる問題なので、極めて個人的な問題であることは間違いないんですが、個人的な問題のみならず社会的な問題であって、もっと言うと、社会構造的な問題。社会によって、自殺で亡くなる人の人数も違えば自殺で亡くなる人の率も違う。あるいは自殺で亡くなる人の特性だとか、労働者が多く亡くなる国があれば失業者が多く亡くなる国もあると。国の中でも都道府県や市町村によって、若い人の自殺が多い地域もあれば高齢者の自殺が多い地域もあったり、地域や社会の特性によって自殺で亡くなる人の属性は異なってきますので、これは社会的な問題と捉えるべきだと思いますね。
三宅キャスター:
日本で増えている未成年の人たちの自殺。どうしていけばいいですか。
清水さん:
まず今、危機にある子どもたちがいるわけなので、そうした子どもたちが「生きる道」を選べるように支援をしていく、子どもたちの自殺対策を喫緊の課題として強化していく、ということ。加えて言えば、自殺の危機に陥る子どもたちを、そもそも減らしていくことも重要だと思います。近視眼的に今、危機にある子どもたちを支援するだけでなく、子どもが生きて行こうと思える地域や社会を作っていく。「生きるに値する」と思ってもらえるような社会にしていく。裏を返すと、今は多くの子どもたちにとって、すべての子どもたちにとってというわけでありませんが、この社会で生きていくことが魅力的でなくなってきているという側面があると思いますので。
三宅キャスター:
とても重い課題だと思うけど、そこをどうしていくかということはなかなか大変なことで、何か「こういうことができそうかも」という事例はあるんですか。
清水さん:
今まさに長野県で、危機にある子どもたちへの支援と、そもそも子どもが危機に陥ることのない地域づくりというのをセットでやっていこうという動きが始まっています。これは長野県と日本財団が協定を締結して、日本財団のプロジェクトとして「子どもの自殺危機対応チーム」というのを10月1日に立ち上げました。知事がトップとなって全庁的な取り組みとして大人がスクラムを組んで、危機にある子どもたちへの直接的な支援も含めてやっていくと。今、自殺のリスクを抱えている子どもたちへの支援を通じて、なぜ子どもたちがそうした危機に陥っているのか、その背景の把握もしっかりと行って、把握した実態を踏まえて地域づくりに生かしていこうといったような、それがようやく地域をあげて県単位で、長野県で始まっているという。
三宅キャスター:
長野が取り組んだのには、理由があるんですか。
清水さん:
まだ理由ははっきりと分かっていないんですが、実は長野県は未成年の自殺率が全国でも最も高い。「長寿県」、「教育県」として知られている長野県ですが、未成年の自殺率が非常に高いということで、これに知事が非常に危機感を持って、「子どもの周りには、必ず大人がいるはずだ」と。ですから、そうした大人が子どもたちの支え手になれるようにするために、例えば学校でも、自殺の恐れがあるのではないか、危機的な状況に陥っているのではないかということを先生が把握している場合も少なくないんですね。ただ、先生もどうしていいか分からない。養護教諭だったり、あるいは「スクールカウンセラー」と言っても自殺の専門家ではありませんから、対応に苦慮したときにアドバイスを請うことのできる特別なチームを、弁護士や精神科医、あるいは臨床心理士、われわれNPOであったりが組んで、「リスクを抱えている子どもの周りにいる大人たちを支援する」という仕組みを作って、今まさに始めているところです。
三宅キャスター:
なんとかしようと地域で立ち上がったと。
「いじめ」についてはいろいろ対応が考えられてきていますけど、「自殺」って、いじめに比べるとそういうのってあんまり……。
清水さん:
やはり「自殺は起きてほしくない」ということもあって、起きることを想定した対策がなかなかとれていないというのは現実だろうと思います。ただ実際に子どもの自殺は増えているわけですし、いつどこの学校で起きても不思議ではないという現状ですので、「起きるかも・可能性がある」ということを前提にした対策をやっていかなければならない。それがようやく今、始まろうとしているということですね。
三宅キャスター:
先ほどの話を聞いていると、根本的なところに課題がありますよね。
清水さん:
いくら、今、危機に陥っている子を支援しようと思っても、危機に陥る子の数が増えれば支援しきれるわけではないので、やはり子どもたちにとって、自分の人生を生きている意味がある、あるいは生きていこうと思えるような状況を、社会づくりとしてやっていく必要があると思いますね。
三宅キャスター:
苦しんでいる子がいるかもしれない。今、一番求められていることは何だと思いますか。
清水さん:
子どもにとって身近なツールと言うと、電話よりもSNSだろうと思うんですね。ですから、SNSを使った自殺の悩みを受けとめる「相談」を、厚生労働省が事業として行っていて、「厚労省 SNS相談」と検索していただくと、LINEやSNSを使った相談機関の一覧が出てきますので、そうした中から相談先を見つけていただければと思います。
三宅キャスター:
とにかく困っている子が、なかなか声を上げられないから周りも気付けないんだけど、それにどう気付けるかということは大事ですよね。
清水さん:
子どもが声を上げるハードルを下げるためには、電話でなければならない、面談でなければならないということではなくて、「子どもにとって使い勝手のいい“ツール”で、声や相談を受けとめる」という仕組みが必要ですし、併せて子どもたちには、「SOSを出していいんだよ」ということを伝えていく必要がある。これは「SOSの出し方に関する教育」ということで今、全国に広がり始めています。
三宅キャスター:
声を上げることを教えてあげる、ということなんですか。
清水さん:
「声を上げてもいいよ」ということと、「どこに声を上げればいいのか」ということの具体的な相談先をしっかりと伝えてあげるということです。抽象的に「相談して」と言うのでなくて。
三宅キャスター:
みなさんからの声もたくさん届いています。ここからはそれを紹介しながら、何が求められているのかを考えていこうと思います。
大久保キャスター:
<自殺というのは1人でもあってはならないこと。私たちは自殺に慣れっこになってしまっているのではないかと思います>
<少子化・高齢化の中、未成年の自殺が増加しているとは「国難」ですね>
<私には中学1年と小学5年生の娘がいます。たまに学校であった嫌なことなどを帰ってきてから話してくれるので、親で済むことは親がしていますが、「学校の中のことやお友達のことはやはり先生に相談してみれば」と私が言うと、どちらの娘も「先生に言ってもむだ」と返ってきます。学校の先生方が多忙だというのはニュースなどで見聞きしますが、少なくとも子どもからの信頼を得られる関係作りは、子どもたちの手本としてももう少し考えてもらいたいと思います>
学校の先生からも頂戴しました。
<中学校の教員です。とにかく人と時間が足りません。今の中学校の状況では、自信を付けさせるような指導や支援はできません。親はわが子にスマホを与えておいて、何か問題があったら学校に頼ってきます。家庭での見えないことを相談されても学校は困ります>
三宅キャスター:
親御さんとしては学校に期待をし、先生方は大変な事情もあると。どうしたらいいんですかね……。
清水さん:
これはもう「家庭か学校か」ではなくて、家庭も学校も、さらには地域も一体となって子どもを支えていく状況を作る必要があると思います。先ほど、「SOSの出し方に関する教育」という、子どもが命や暮らしの危機に直面したときに、「誰にどう助けを求めればいいか」を教える授業が全国に広がっているという話をしましたけれども、これで想定されているのは、地域の保健師が学校に出向いていって、それぞれの地域のそれぞれの問題に対して、どういう支援策や相談機関があるか。そこにどうやって相談すればいいのか。仮に相談して声を受けとめてもらえなかったときには、「私のところに相談に来てね」というふうに、授業をする保健師さんが子どもたちに呼びかけるということが広がっていってるんですね。「家庭や学校で相談できないときには、地域のこの人に」ということを、ちゃんと子どもたちに伝えていく。そうすると、学校の先生も全部学校任せにするのではなくて、「命の危機に陥ったときに誰に助けを求めればいいか」ということを地域と連携しながらやっていく。子どもの悩みの背景には家庭の悩みが潜んでいる場合がありますので、そうしたときには学校だけでは対処できない。地域と連携していかなければならない。そうしたときに保健師が学校とつながりを持っていると、「子ども」と「子どもが属する家庭」とをセットで一緒に支援していくことができる。学校と地域が連携して支援していく“橋渡し役”にも保健師がなりうるので、そういうふうに学校と家庭と地域が連携をして、子どもたちを支えていく。そうした仕組みを作っていく入り口に「SOSの出し方に関する教育」はなりうるんじゃないかと思っています。
三宅キャスター:
ネットワークを作っていく必要はあるかもしれませんね。
大久保キャスター:
続いてのメッセージです。
<清水さんの言葉、「自殺したい子どもを救うより自殺したい子どもを出さない施策が必要」。このお話、重く受けとめました。子どもたちが今は苦しくても、将来その苦労が報われる社会にしなければいけないと思います>
<私の娘も自殺しました。「変わっている」と言われるのがつらくて、大人になって社会に出てやっていけるのか不安になって、生きていけなくなったみたいです。「変わってるね、どうしてふつうにできないの」ではなくて、「あなたの個性すてきね、苦手なことはお互い手伝おうね」と言ってくれる社会であれば、娘は死なずに済んだと思っています。「きっと受け入れてくれる人に出会えるよ」と励ましていましたが、娘には実感できず、空虚な言葉でしかなかったようです。個性を受けとめて、温かい心の社会であってほしいです>
三宅キャスター:
つらいお気持ちの中、メールをありがとうございました。今の声は、耳を傾けるべきものがありますね。
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子どもにとって暮らしやすい、あるいは生き応えのある社会を作っていくとか、弱者に寄り添って社会づくりをしていくって言うと、何かセンチメンタルな、感傷的な意見じゃないかと思われがちなんですけれども、ほかの国々を見ていくと、「社会的に弱い立場の人たちや子どもたちにとって暮らしやすい社会を作っていくことが、結果として経済的にも社会全体の活力につながっていく」という例があるんです。
デンマークとかオランダとかフィンランドでは、大体中学校を卒業するぐらいまでは子どもたちに宿題を出さないんだそうです。その代わりに何をするかと言うと、子どもたちにいろんな「体験」をしてもらう。体験を通して子どもたちは「これをもっと知りたい、あれをやりたい、こういうふうになりたい」といったモチベーションを持つようになるわけです。ひと度モチベーションを持つと、子どもっていうのは大人が止めてもそれを一生懸命やっていく。
大人や教育の役割は、子どもにモチベーションを持たせて、持ったモチベーションをその子が追及していくのに基づいて、いろんなことを知ったり努力することを支えていくことだというふうに方針を大きく転換して、それまでは詰め込み型の教育だったものを、「子どもにモチベーションを持ってもらって、それを育んでいく、支えていく」という教育に変えた。
結果どうなったかと言うと、子どもたちは自分のやりたいことなので一生懸命やっていきます。一生懸命やっていくので、成果が出ます。この成果を経済的に1人当たりの生産性、GDPで言うと、デンマーク、オランダ、フィンランドは世界的に見ても極めて高いです。結果が出やすいわけです。自分がやりたいことを努力して結果が出ると、当然それは満足度にもつながる。フィンランド、オランダ、デンマークは、「幸福度調査」、国民がどれだけ幸せを感じているかということの調査で、軒並み上位です。
つまり、「生産性が高いこと」と「幸福度が高いこと」はコインの表裏。一緒にやっていけばこそ、そういうふうになっていくんだと。無理強いをして働かせる、あるいは規則で縛るっていうことは、一見するとそれで管理できている、それによって生産性が上がるかのように思いがちで、実際これまでそういうふうにやってきて、うまくいった部分もあるわけですけど、今の社会や世界はそういう状況ではなくて、もっとクリエイティブな発想でやりたいことを追求していく。それをしっかりと支えていくことによって、生産性と幸福度、国の活力や社会の活力にもつながっていく。子どもたちがどう過ごすのが、子どもたちにとって生き心地のいい社会なのかというのを、しっかりと子どもたちから学んで、学んだことを社会づくりに生かしていくという発想が必要だろうと思います。
三宅キャスター:
子どもたちが生きやすい社会は社会そのものが幸せな社会になると。そういう可能性があるということですね。
いやぁ、考えさせられました。ありがとうございました。
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番組
マイあさ!・三宅民夫のマイあさ!
番組情報
番組名
マイあさ!・三宅民夫のマイあさ!
放送日時
[R1] 毎週月曜~日曜 午前5時00分~
キャスター
三宅民夫、田中孝宜、高嶋未希、大久保彰絵、吉松欣史、小澤康喬、渡辺ひとみ
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