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■ロボサムライ駆ける■第1章胎動(1)

2005年08月29日 | SF小説と歴史小説
■ロボサムライ駆ける■第1章胎動(1)

■ロボサムライ駆ける■
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://w3.poporo.ne.jp/~manga/pages/
■第1章  胎動

  (1)
 巨大な島が動いている。その島が瀬戸内海を航行しているのだ。まろやかな陽光たなびく中、その島は動く。空母ライオンであった。「風光明媚なところでございますなあ」
 バイオ空母ライオン、排水量一〇万トン。甲板の幅五〇メートル、全長四〇〇メートル。ロセンデール卿の私物である。
 ロセンデールの秘書官のクルトフが、ライオンの鑑橋から、瀬戸内海を見渡しながら言った。
 今年六十になるクルトフは、鷲のような顔付きをしている。赤く思慮深い眼、大きない鼻梁は高くいかつい感じをましていた。長い白髪は仙人を思わせる事がある。
 ヨーロッパの首相級を思わせる華麗な宮廷服を着ていた。
「クルトフ。ここ、日本が手にはいるわけですから。心して計画にかかねばなりませんね。それでどうですか。大阪シティの受け入れ体制は」ロセンデールは言った。
 ロセンデールはいかにもヨーロッパ的な顔立ちであり、言葉使いも優しく、一見やさ男であるが、よく観察すると、野望を秘めた目と高貴な育ちを表す高い鼻と、力強い意志をもつ顎が見えて来る。そして、体全体からは権力を持つ男のオーラが発されているようであった。今年三七才になるが、二〇代後半にしか見えなかった。
 長い金髪を後ろで束ねて垂らし、ビロードでできた古代ペルシア風のチュニックとショートコートを来ていた。
「万全のようです。これも卿の深慮遠謀のお陰」
「くくくっ、ともかくも、世界史上誰もなし得なかったことをしようとするわけですからねえ。ところでクルトフ、例の霊能師の方は大丈夫なのですか」
「その方の準備も万全でございます。西日本都市連合議長の水野なりが、餌をまいておりましょう」
「ロセンデール様、皆の用意ができました」
 聖騎士団長シュトルフが言った。
 シュトルフは、戦のなかで生まれたような男だった。赤ら顔で首は太く、胴は樽のようだった。その樽の上に乗っている顔はどちらかというと愛嬌があった。眼は小さく、鼻は団子鼻で大きく、口もまた大きかった。ロセンデールいわくジャガ芋顔である。
 大きな戦いを生き残ってきた四五才の精鋭だった。
 光る電導師の制服を着ていた。そのコスチュームは、昔の十字軍を思わせた。
「よーし、お前たち聖騎士団、電導師たちの力を見せてもらいましょう」
 ロセンデールは剣を引き抜いていた。
 ゲルマンの剣である。切っ先が陽光を受けてきらりと光る。
「殿下、さすがに見事でございます」
「ほれぼれとするお姿じゃ」クルトフが言った。
 ロセンデールの後ろには、うすぎぬを着た巫女たちが戦いの歌を歌い始める。一五才から一八才の美女ばかりだった。
 ロセンデールの歌姫たちだ。
 ゲルマンの剣はわざわざ、ルドルフがロセンデールに渡したものだった。
「皇帝ルドルフ猊下、この剣にて帝国の土ひろげましょうぞ」
 こう見栄をきったロセンデールだった。
 ロセンデールはヨーロッパの某国で生を受け、霊戦争後のし上がってきた貴族である。現在、神聖ドイツ帝国ルドルフ大帝の右腕とすらいわれている。
「シュトルフ、例のものを合体してみせて下さい」
「殿下、ここでですか」
「まだ大阪港へつきません。ここで、姿と力を見てみたいのです」「わかりました。殿下のおおせのままに」
「飛行士の諸君、甲板にバイオコプターを集めよ」
 バイオコプターは生体を形どった機械飛行機で、大きな羽根で羽ばたくことにより揚力を得ていた。この生体とは、とんぼとか兜虫とかの昆虫である。
「よーし、動かせ」
 バイオコプターが一点に集まっていた。
 そのバイオコプターの群れが別のものに変化した。何か巨大なものが、ロセンデールたちの前に立ち上がっていた。瀬戸内海の陽光を受けて、それはきらきら輝いている。
「まことに見事です。これで日本人どもの肝を冷やさせるでしょう」     ◆
「大仏様が、大仏様が、こちらへ動いて来るぞ」
「ああ、ありがたいことじゃ」
 都市にいる人々は、空母上の大仏を見て大騒ぎとなっていた。海岸のほうへ人々は繰り出していた。人もロボットも。
「ありがたい、大仏様じゃ」
 大仏が、空母ライオンの甲板上に、座を組んでいる。ロセンデールのライオン丸であった。その上には天女が竪琴をもって演奏している。先刻のロセンデールの歌姫たちが服装を変えて違う歌を奏でているのだ。演出効果バツグンである。
「ふふう、見てごらんなさい、クルトフ。大仏とやらは、日本人によく効くシンボルですねえ」
「タイのバンコクで手に入れたのも、この効果があれば安い買い物でしたな」
「それに、この大仏のもう一つの目的を知れば、水野たちも驚くに違いありませんねえ」
 大阪港に接岸した空母ライオンに、人々が群がり集まって来るのだった。大阪は、いや、近畿エリアはまさに平野であった。かつて存在していた山並みは、霊戦争のおり消滅している。
「これ、斎藤、落ち度があってはなりませぬぞ、あの方には」
 二メートルの大身の水野は、ネズミのような小男、斎藤にいった。 二人とも日本の礼服である裃に身を固めている。上下二本の刀をさし、草鞋ばき。当然頭は丁髷を結っている。この二人だけでなく、一般人も、和服、丁髷である。人間だけでなく、ロボットも同様の風体だつた。
「わかっております、水野様。あの卿の取り扱いいかんでは、我々の手に日本が…」
「しっ、斎藤。それは禁句じゃ。誰が聞いておるやもしれん」
「が、水野様。わざわざあのロセンデールとか申す神聖ドイツ帝国の手の者を、日本に入れる意味がありましたでしょうか」
「何を今頃申しておる。足毛布(あしもふ)博士の強制ロボット動員策でも、あの場所がみつからんのだぞ。ヨーロッパ随一の心柱(しんばしら)発見の著名人であるロセンデール卿を招くのは当たり前だろうが」
「が、心柱を発見された各国、いずれもルドルフ大帝の支配下に入ったと聞き及びます」斎藤は不安げに言った。
「お主も心配症じゃのう。支配下に入った各国はヨーロッパぞ。東洋の一国である我々には関係ないわ。よいか、これからの時代で俺は織田信長、お主は豊臣秀吉じゃ」
 水野は、織田信長。斎藤は、豊臣秀吉そっりの顔をしていた。
「が、水野様。東京には本当の徳川公がおわしますぞ」
「本当に心配症の奴じゃのう。心柱さえ見つかれば、そのようなこと取るに足りぬ」
 大笑いする、水野。西日本都市連合議長である。
 自らの未来が、鮮やかに脳裏に浮かび上がっているのだろう。
 一方、斎藤は大阪市長だが、顔色は優れなかった。ともかく、秀吉も信長も外国の力を借りはしなかった。と斎藤は思った。
「それ、ロセンデールが現れよった。斎藤、笑顔じゃ、笑顔」
 ロセンデールが、ケープをひるがえせて降りて来た。あとには鷲顔クルトフ、ジャガ芋顔シュトルフが続いている。
「これは、これは、ロセンデール卿、遠い道程、お疲れ様でございます」
「水野どの、日本は美しい国ですね。とても欲しくなりました」
 憂いを秘めたロセンデールは、簡単に言ってのける。
「えーっ」
「いえ、冗談ですよ、外交辞令ですよ」
 にこやかにほほ笑みながら、ロセンデールは言った。
「では、早速、現況をお伺いしましょうか」
「化野と呼ばれる地下エリアが、我々の掘削機械やロボットの侵入を防いでおります」
 水野は汗を吹きつついった。先程のロセンデールの言葉が心に残っているのである。疑いが少しずつ水野の心にひろがっていく。
「と、いうことは、それより先は、あきらかに心柱、そして古代都市というわけですねえ」「そういう可能性がかなり高かろうと思われます」
「我々が、日本じゅうから、多くの霊能師を持ってきても、その化野エリアを突破できまないのです」
 斎藤がいった。
「この方はいったい。水野さんの小姓ですか」
「いえ、紹介するのが遅れました。大阪市長、斎藤光三郎です」
「斎藤です。以後お見知りおきを」
 斎藤は怒りを隠しながらいった。
「水野さんだから、私はお土産を持ってきたのです」
 ロセンデールは、水野とその閣僚連中に向かって胸を張った。
「あの大仏です」
「何ですと、あの大仏」
「が、あの大仏は、空母の上に置かれております。それを化野までどうやって」
「心配ご無用です」
「まさか、運搬機械が必要とか、おっしゃるわけではありますまいな」
「あの大仏、実は戦闘用ロボットなのです」
 ロセンデールは嬉しそうに言った。
「何ですと」
「我々が、タイランドの軍隊と戦ったおりの戦利品なのです。賠償金がわりに受け取った訳です」
 聖騎士団長シュトルフが誇らしげに語った。
「あのロボットならば、あの化野の霊を打ち破れると」
「そう考えております」ロセンデールが言った。

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