源義経黄金伝説■第33回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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「西行殿、こちらへ、」
西行は、頼朝の家人にいうがまま、競技場に向かっていた。
東大寺闇法師、十蔵は、この競技場にたどり着く前に姿を消していた。
競技場の飾り手照られた門をくぐり、その道は、観客関にあたる土壇をつ
ききっている、西行は、競技場の真ん中に立たされていた。
観客の目が西行に注がれ、500名はいると思われる観客の目の圧力が押し寄
せてきた。急な演目の変更に、観客はどよめいていたが、
やがて、それは一瞬の静寂を呼んだ。
西行は、くらくらと、緊張し、少しよろめいた。
やがて、中央土壇にいる人物がゆっくりと立ち上がり西行にかたりかけた。
源頼朝である。
最初に、西行を扇子で指し示す。
「高き所より、失礼いたします。今は私がこの祭事の主催者なのでのう。聞いて
下さい。御家人衆の方々。ここにおられるは、西行法師どの、元の名は、
佐藤 義清のりきよ 殿。鎮守府将軍、藤原秀郷ひでさと 殿、御子孫
ぞ。私の願いにて、ここ御祭りに来ていただいた」
驚きの声があがる。
平将門を討った藤原秀郷 は、この坂東地方でが、武士の鏡である。
「そしてまた、西行殿は、奥州藤原氏との御親戚だ」。
再び感動の声があがる。
「さらには、今、奥州藤原氏より、奈良大仏塗金用の砂金を運んでおられる」
三度、声が、ご家人からあがり、競技場に響きわたって。
源頼朝は、この御家人の歓声を受けてほんのり顔を赤らめていった。
「西行どの、ご安心めされよ。我々、鎌倉勢は、その砂金を奪おうとはいた
しませんぞ。このご家人衆の前で、西行殿と砂金の事をかたるは、道中の安
全をはかるため。この頼朝が、西行殿の安全をはかると言った以上、約定は
守らなければなりますまい」
頼朝は、さらに告げた。
「さらに、西行殿の弟、佐藤 仲清どのの所領、紀伊国田仲荘のご安堵をは
かりましょうぞ。佐藤 仲清どのは高野山との争いをおこしておられる。以前は、平清盛殿から、安堵いただいたそうだが、今は、平家ではなく、我が源氏にま
かせらるが常道。おわかりか。そうだ、西行殿は北面の武士であられた
ときは相国、平清盛殿と、また、文覚殿とご同輩と聞き及ぶ」
歓声は続いた。
佐藤 仲清の所領、紀伊国田仲荘、その土地の所有安堵に関して、鎌倉の源頼朝が握っている事を、知らしめている。この御家人衆の前で、西行の氏素性を、検めるは、頼朝に、目的があったのだ。
「西行どの、先の月、鎌倉にて、古式よりの弓馬の道を教えていただきま
した。それゆえ、我が源氏の平家への、戦勝を祝うこの祭りにて、その秀
郷流の兵馬の道を見せていただけぬか。この板東の武家にな、元々、佐
藤家ご出自は、板東下野と聞き及びます」
きっと、西行は、土壇段桟敷上の頼朝を見上げる。
「頼朝殿、黄金輸送を鎌倉殿が責任をもっていただけるというわけか」
西行はしばらく黙った。
「あの砂金は、大仏を完成させて、天下静謐てんかせいひつを願うために使うもの。きっと武士の約束を果たしていただけるか」
頼朝は、いらなぶ板東御家人もの前で、西行をにぎりつぶすつもりだ。
平将門を倒した、京都の武家、藤原秀郷の9代目子孫、その子孫、西行を、鎌倉
殿である、私、頼朝の前にひざまつかせるのだ。
また、奥州藤原氏の黄金の荷駄隊を見せる事により、これから握りつぶ
すべき、奥州藤原黄金王国が、黄金郷である事を示しそうとしていた。
武威ぶいの行為である。
頼朝は、平家を滅ぼしたその勢いをもって、奥州独立国を制服しょうと
する。
その象徴の儀式として、西行と、奥州荷駄隊、この板東の後家人に祭り
で見せたのだ。
奥州は、何度も、源氏の征服への挑戦を退けている。
かたわらにいる大江広元も、その証明。
彼の祖祖父大江匡房まさふさも、奥州へ攻め入る戦略案を考えている大学者である。前九年の役(1051年から1062年)、後三年の役(1083年から1087年)であった、
頼朝の4代前、源氏のス-パースターである八幡太郎義家がその有名人で
あった。
が、今現在、最大の難敵は、、、義経である。
奥州黄金と義経が結びついた時、それを恐れる。
うちそろい、鎌倉に攻め入る悪夢をみるのだ、
そのためには、西行をはじめ、奥州の守りのひとつ、ひとつ、を切り崩
しておく必要があった。
まづは、西行、そして砂金である。
「わかり申した。約定をきちりと守らしていただく」
内心は冷や汗が流れているが頼朝はそれを見せるわけにはいかぬ。
むろん、傍らの大江広元もまた。
「西行殿、ささ、こちらへ、」
西行の前に馬と武具が準備されえていた。
「どれでもお好きな馬と弓をお選び下さい」
西行は、かって北面の武士の頃を思い出し打ている。
そして出家して後、30年にわたる高野山の荒行も。高野の山々千尋の
谷、いまだにひやりとする。重源殿ちょうげんにお助けいただいた。
さらに、文覚もんがくにも、荒行中にあっている、重源殿は、奈良
東大寺で、西行、いや黄金の帰りをまっている。今、文覚は、この桟敷の
頼朝の隣にすわっている。
「佐藤家の名前を汚すわけには、いくまい」
この頃の家名は、絶対的価値である。
そして、頼朝が、西行を藤原秀郷の九代目を呼ばわった事は、ある種の
確認であり、西行の隠れた望みであった。藤原秀郷の正当なる後継者で
あると、ご家人どもが認めてのである。
この家名以外にも、西行が貫徹しなければならない約束がある。それ
は、慈円(じえんー藤原兼実の弟)や、藤原定家と行っている
「しきしま道」の完成である。これが完成すれば、言葉によっても、
日本は、京都王朝は、守られるであろう。
歌集の完成をみなければならぬ、それまでは、西行は生き述べなけれ
ばならないのだ。
そして、それは、京都の今はなきあの麗しい方への、生涯をかけた西
行の約束の貫徹である。
走馬燈のように、西行の頭の中に、京都の思い出が蘇る、、
しかし、今は、前には、的が準備されている。
1町は続く流鏑馬道がのびていて、観客の武家の人間がかたずを飲み、西行の秀郷流の腕前を見ようとする。
続く2010改訂
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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