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ロボサムライ駆ける■第1章 胎動(2)

2005年08月30日 | SF小説と歴史小説
■ロボサムライ駆ける■第1章 胎動(2)

■ロボサムライ駆ける■ (93年同人誌発表原稿)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/


  (2)
 漆黒の闇の中、小さな明かりが灯された。何やら呪文が繰り返されている。
 京都、中央区にある広大な屋敷、足毛布博士の屋敷である。
 度の強いメガネをかけ、白髪まじりの蓬髪の五〇くらいの男は、なにやら独り言をつぶやいていた。
 足毛布博士は秘密の地下室で祈りを捧げていた。この儀式のことは、誰も知らなかった。それを知れば、足毛布博士を、西日本都市連合も放っておかない。
 足毛布博士は、日本古来の着物を脱ぎ捨て、彼が信じている大義のための服装に着替えていた。
 何かの祭壇がある。日本古来の神棚ではない。
『古来より、日本へ飛来しました我々足毛布一族、ついにその目的の貫徹はちこうございます。願わくば、私の世代にその願いを叶えられんことを』
 祈る足毛布博士であった。
 足毛布博士は、京都市内に広大な土地を占めていた。この本宅以外にロボット製作所が近畿エリアに四十ヵ所ある。
 足毛布人造人間製作所といえば、泣く子も黙る西日本の大企業である。が、最近、足毛布博士は政府の要職も、会社の経営も他人に譲り渡していた。
    ◆
「博士、博士はご在宅か」
 八足移動ビーグル、クラルテに乗った武士が、玄関先で呼ばわっていた。足毛布博士の屋敷は、博士が人嫌いのため、使用人は雇っていない。全自動ロボットシステムで構築されていた。
「これはどちらさまでしょう」
 玄関に設置せれているロボットボイスが答えていた。
「水野都市連合議長の使いの者じゃ。足毛布博士、至急にご登庁をお願いしたい。火急のこととあり。以上を足毛布博士にお伝えいただけるか」
「わかりました。至急お知らせ致しましょう」
 足毛布博士の情報モジュールは、都市連合からの連絡情報を一切入力させない設計になっている。それゆえ、わざわざクラルテに乗った使者が現れるわけである。
 博士は書斎兼図書室にいた。古書籍がずらっと並んでいた。一冊の本を取り出す。タイトルは『西洋の没落』となっている。
 博士は誰かにしゃべっている。
「貴公はシュペングラーの『西洋の没落』という本の名を聞いたことがあるかね」
「いや、そのような本、耳にしたこともない」
「ふふん、まあ、ロセンデールなら知っていよう。あれは第一次大戦の前だったか、このページに書いているのだが。文明が没落する兆候はテクノロジズムとオカルティスムの流行と言っておるのじゃ」「ふふぉ、我々のことか。予言しておったのか、そのシュペングラーとか申す霊能師」

   (3)
 機械城。ロセンデールによって、極めて短時間に作られていた城である。
 ロセンデールが、日本に到着した六カ月がたっている。
 この時期、古来からあった城は霊戦争のおりなくなっていた。それゆえ大阪城の場所にその機械城は建てられていた。
 外見上は日本の城に見える。城壁、天守閣、櫓などを見ても変わっているようには見えない。が、すべて機械でできているのだ。城壁の石垣の一つ一つも、窓枠の一つ一つも、すべて機械なのだ。
 それもロセンデールの命令どおりに作動する一つの機械生命体であった。城壁の四隅に櫓があり、中央部に天守閣、小天守閣がある。 この天守閣のみ、少しばかり形が変わっていて、西欧の寺院風にも見えた。
 一階から五階まで、吹き抜け部分が作られていた。小天守閣には、心柱を探るための研究機材が集中していた。
 天守閣は、ロセンデールの居城であり、そして何か別の目的で建てられているのであった。
     ◆
「斎藤殿、水野殿、ご覧ください。もうここまで進んでおります」 ロセンデールは、機械城の中央、天守閣にあるコントロールルームの巨大なモニターを二人に示した。
 この画面には、心柱があると思われる位置がコンピュータグラフイックスで描かれ、その心柱に向かって進む地下坑道が数多く表示されている。この地下坑道のすべてで、数百体のロボットが作業を行っていた。
「西日本がロボット奴隷制でようございました。東日本ならロボットを強制労働させるわけにはいきませんからね」
 ロセンデールがいった。
「さようでござる。ロセンデール卿も運のいいことじゃ」
 水野がほくそ笑む。
「しかし、やはり足毛布博士がいなければ、こうもいきませんでした」
「さようで。で、足毛布博士は」
「ああ、彼は人に会いたくないとおっしゃって坑道A-五〇に入っておられます」
「博士の人嫌いにも困ったものじゃのう」
「いやいや、それだからこそ、このようなロボット強制労働ができるというものです」
「ほほ、博士の性癖に感謝せぬといかん訳ですな」
「そのようですな、はっはは」
「が、ロセンデール卿。みはしらが発見されたあかつきのこと、よろしくお願い申しあげますぞ」
「日本統一のことですね」
「しっし、ロセンデール卿。声が大きすぎます」
「何しろ、これは我々だけの秘密でございます」
「まさに、まさに。それにしても、落合レイモン殿があように易々と我々に協力していただける意向をお持ちとは思いもしませんでした」
「レイモン殿も何か考えるところがあるのでござろう」
「斎藤、それゆえ、レイモン殿の監視、努々怠るではないぞ」
 水野は、隣に控えていた斎藤にいった。
「さように取り計らいます」
「水野殿、斎藤殿。珍しいものをお目にかけましょうか」
「ロセンデール卿、それは一体どのような」
「ご両公とも眼を回されるに相違ない」
「ほほう、卿がそう言われるくらいなら」
「期待いたそう」
 巨大な空間が機械城天守閣の中にある。高さ三十メートル、広さは縦横とも百二十メートルはあるだろう。その真ん中に真紅のカーテンで仕切られている。
「いったい、これは」
「お見せしよう。カーテンを開けよ」ロセンデールが命令した。
「こ、これは」
 二人は絶句した。黄金の大仏であった。
「どのようにしてここへ」
 水野と斎藤は叫んでいた。
「それはね、企業秘密です」
 ロセンデールはにこりとした。
    ◆
 聖騎士団長シュトルフが駆け込んできた。
「どういうことですか、殿下。機械城の警備を日本側のロボ忍に任せろとは」
「シュトルフ怒るな。これも殿下の深慮遠謀なのじゃ」
 鷲顔の秘書官クルトフが言った。
「どういう理由か、お教え願いたい」
「よろしいですか、日本側は我々の動きを完全に信じてはいません。この機械城に仕掛けがあると考えておる節があるのです。その疑いを少しでも取っておきたいのですよ」
「それでは殿下は、機械城すべての警備をロボ忍に任せろとおっしゃるのですか」
「シュトルフ、そのとおりです。彼らに任せなさい」
「任せろとおっしゃられても」
「よいですか、シュトルフそれでは、教えてあげましょう。機械城全体が大きな罠なのです」
「その罠に落としますのは、一体?」
 シュトルフは怪訝な顔をした。
「我らの目的の邪魔になるもの、すべてのものですよ。日本の政府関係者、氾濫ロボットどもとかね」
 ロセンデールの青眼は残酷にきらりと光った。
     ◆
 霊戦争は地球の浄化作用であった。当時、地球の文明全体が機械化文明に犯されつつあった。
 情報公社「リンクス」や機械化会社「ロボテック」などのコングロマリットが、地球の全体のほぼ利益及び生産資材を握りつつあった。世界初の企業による世界帝国である。霊戦争が始まりを、今となってははっきり記述することは不可能だろう。結果的には地球の文明は少し後退したように見えるが、地球全体の生命体から見ればそうもいえない。緑が地球の全てを覆いつつあり、河川、海の汚染度も下がりつつあった。
 地球上空何千キロの部分には監視衛星「ボルテックス」が数個設置されていた。これらの衛星はいわば、神の剣であった。
 すでにこの時期、自然類は地球外に影響を及ぼしつつあった。外惑星は、この地球の状態を理解できないでいた。ボルテックスはこの地球全体に結界を引いていたのである。
しかしながら、機械化文明は退歩した訳ではなかった。地球にはロボットや機械がうじゃうじゃ存在し、減少する傾向は出ていなかった。

    (4)
 地下坑道。巨大なトンネルがうがかれていた。ともかく天井が異常に高い。
 鑿岩ロボットたちは、手を休めていた。皆へとへとに疲れている。これから先は人間、霊能師の役割なのだ。彼らは霊能師たちを見守っていた。
 多くの人間が円陣を組み、何かを唱えていた。すべての人間が汗をかいていた。
 その円陣の向こうの壁が光り出している。
「おおっ、あれは」
 何人かが、驚きの声をあげた。
 壁という壁は、石仏、仏像、寺社の建物でひしめいていた。そこから先数キロは異様な空間を作り出している。
 うしろから、巨大な光る物体があるいてきた。
 大仏である。
 ゆるゆると、歩いてくる。ロボットたちの前をすぎ、人間の円陣の横をすぎる。
 が、その先が問題なのだ。
 バリバリと音がする。
 大仏は歩こうとするのだが、ある一定のラインを越すことができない。
 大仏がブルブルと震えていた。
 同時に壁にひっついている仏像も石仏もゆらゆらと震えているのだった。まるでその壁が揺らぎ、大仏の進行を妨げているようにも見えた。

(続く)
■ロボサムライ駆ける■ (93年同人誌発表原稿)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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