クリス/リックマンという名の箱船第7回
(1976年)「もり」発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
少女はオリエント風のコスチュームをつけていた。
私は少女を担ぎ上げ、ともかくも前部にある運転席へ向かった。
むろん、冷たい磯器で囲まれた運転席には誰もいない。 コックピットのマイクロコンピューターがセンターのメインコンピューターの指令を受けて動いているのだ。
運転席の医療コアで私は少女の手当てをした。その間も運搬トラックはセンター。を目ざ
し、時速80』でヽヽヽユーダ砂漠を突進している。
やがて、少女は目を開いた。不信の表情だったので私は言った。
「こわがる事はない。私はシティ・ディザスターーだ」
私は、彼女の顔を見て、以前どこかで見た事があるような気がした。それもずっと前に。
彼女は私の顔を見て、それから胸のシルバスターを見た。
「お願い。シティ・ディザスター、あの市を、あのラグーン市を破滅させて下さい」彼女は
嘆願した。私は静かに言った。
「わかっている。もう処分したあとだ。あのラグーン漑は死の町と化しているだろう」
「そう、そうですか」彼女は一気に肩の荷を落したようになった。
「君はラグーン市の者ではない人だね」
私。私はもちろん、違います。あ、いい忘れています。ごめんなさい。私はイーダ。メ
ルダ市の人間です」
そのメルダ市の人間がなぜ、ラグーン市にいたのかね」
「ラグーン市と取引にいったのです。しかし彼らは……」
彼女は急に泣き出してしまった。
「ざあ、落ち付くんだ。一体何があったというんだね」
「彼らは私達の隊商が。ラグーン市の前まで来た時、ビーグルが攻撃してきたのです。皆
殺しです。私はサイボーグラクダの体の下にいたので傷を受けただけで助かったのです。
そして、牢屋から逃げ出す事ができました。
「彼らは、何の目的で、君達を役したのだ」
私達の体が欲かったからです。それにもし杢き残った私みたいな体があれば。ラグーソ
市の複合パーソナリテ″の一部を送り込んでいるのです。そして七の体をメルダ市へ送
り帰すつもりだったのです。メルダ市を乗っとるためにね」
腐り切った奴らめ。私はまた悲しくなった。
黄金像の一件以外にも、他の都市を支配する方法を考えていたのか。
地球が侵略者に『大侵略』を受けて数10年、新しい人格と新しい種ができあがっ。だと思っ
ていたのに何んてことだ。
悪の種はとぎれる事なく、人類に受けつがれているのだ。くそっ、私は私を恨んだ。 こ
の私の体が持っている、内に秘めている悪の種子を。かわいそうな私の子孫たちよ。
「どうしたのです。ご気分でも悪いのですか」
イーダが心配そうに私の顔をのそき込んだ。
これでは立場が逆というものだ。
しまった。
大事な事を忘れていた。と同時に、私の心に一つの疑問がわいていた。
なぜ、イーダは大丈夫なのか?
「イーダ、大変だ。君を至急に減菌しなけれぱならない」
「どうしてですか」
「私は、あのラグーン市を細菌で汚染させた。君はわずかでもあのラグーン市の空気をすっ
ていたわけだ。汚染されている。威眉チューブに入りたまえ」
「という事は、すでに、あの都市ラグーン市が死の都市となっているのは確実なのですね」
「そうだ」
私はイーダを瞰に装備してある減菌チューブに寝こませた。
まだ間に合うはずだった。
当然、私も減菌処置を受けなければならなかった。
その時運搬車に衝撃が襲った。
運転席のコンソールがうめき声をあげ、作動中のモニタースクリーンのいくつかが死んだ。
車体がきしみ、ストップした。何だ。何が起こった。
車内が急激に熱くなった。
私は減菌チューブから飛び出し、運転席へ戻った。イーダはチューブにはいったままに
しておいた。とりあえず生さているモニター・スクリーンをチェックした。
食橿運搬トラックのかなり前に、装甲車が2台止まっていた。。
車内のディスプレーには20綸の車輪のうち片側8輪が吹き飛ばされている事を示してい
た。
彼らは超小型核弾頭を使ったらしい。そうでもなければ、この食糧トラックがびくとも
するはずがないのだ。
彼らは車外スピーカーからどなっていた。
『でてこい、シティ・ディザスター。お前がその車の中に隠れているのはわかっているん
だ。
お前もわかったと思うが、我々は原子砲を装備している。今は小型のものを使用したが
もっと大きな原子弾頭を所持している。お前の体もろとも運搬トラックは消滅するぞ。聞
さたい事がある。車から顔を出せ』
しかたがなかった。でていく他はない。イーダが減菌されるまで、まだしばらく時間が
かかるだろう。
私は杖を持ち、運転席横のハッチを開けて砂漠砂上に立った。
「君達は何者だ」
一台の装甲車から男が上半身を出している。彼は肩に小型陽子砲をかかえていた。砲
口はまちがいなく私に向かっている。男は車から降りこちらへ歩いてきた。
「何者だと、ふふん、決まっているだろう。賞金かせぎだ」
古代のソビエト軍の戦車帽と偏光サングラスで相手の顔ははっきり見えなかったが、笑っているのは事実だった。
おまけに彼は背中には小型ウイポン・パックを背負っている。
「それじゃ?、どうぞ殺したまえ、私がシティ・ディザスターだ。20万クレジットの賞金がかかっ
たな」
「待て、待て。あわてるな。死に急ぐ必要はない。聞きたい事があるんだ。答え方によっ
ちゃ、『都市連合』本部に生きたまま、連れていくという手もおるからな」
「ありかたい筝だ。命を助けてくれるわけか」
私は少し持っていた杖を動かぞうとした。
「待て、動くな。その杖を捨てろ。その杖についてはラグーン市のベー‘ムから聞いている。
遠くへ捨てろ」
私は杖を投げ出した。
「もう一台の装甲車がねらっている事を忘れるなよ。さて質問だ。最初は、お前のような
シティ=ディザスターが何名いるかだ。答えろ、何十名か、何百名か」
「一人だ」
「何だと、笑わすな、一人だと、一人で今まであんなに数多くの都市を滅ぼしただと」
「そうだ。邪悪の根ざす都市はすべて私が地球上から抹消した」
「それじや、クルー市を原爆で吹き飛ばしたのも、ソルダ″卜市を焼き払ったのも、キル
ス市を「リケーンで消滅させたのもお前だというのか」
「そうだ。ところで、私がこの食糧トラックに乗っていると連絡したのはラグーン市の連
中か」
「そうだ。ラグーン市市長のベームからな」
「ほう、ベームがハルに変わってラグーン市市長になったわけか。ラグーン市最後の市長にな」
「何だと」
「ラグーン市は、先刻、私がばらまいた細菌でもう死滅しているはずだ」
男にひるんだ。私は運転席のマイクロコンピューターにテレパシーで連絡を送
った。
食糧トラックの中央からニケ所、砲塔が急激に突出した。その二連プロトン砲は各々、
二台の装甲車を一撃で消滅させた。
瞬間、私を射とうとした男へ、私は念動力で杖を投げつけていた。
男の背中を杖が突き抜け、男はトリッガーを引くひまもなくくずれ落ちた。
私は男の体に近づいた。側に立った時、急激に男は飛び上がり、銃を私の頭に当てた。
男は体半分アンドロイドだった。
「くそっ、仲間と、装甲車をよくも吹き飛ばしてくれたな」
男は私の頭に銃身を突きつけたまま、左手で背中のウィポン・パックから核手榴弾を2個とりだし、食糧トラックの砲塔へ投げつけた。
クリス/リックマンという名の箱船第7回
(1976年)「もり」発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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