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源義経黄金伝説■第16回■東大寺の荘園である黒田。黒田悪党たちに京都王朝の人間から、平泉からの東大寺勧進沙金を奪えとの指令が。

2021年03月02日 | 源義経黄金伝説
YG源義経黄金伝説■一二世紀日本の三都市(京都、鎌倉、平泉)の物語。平家が滅亡し鎌倉幕府成立、奈良東大寺大仏再建の黄金を求め西行が東北平泉へ。源義経は平泉にて鎌倉を攻めようと
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源義経黄金伝説■第16回■東大寺の荘園である黒田。黒田悪党たちに京都王朝の人間から、平泉からの東大寺勧進沙金を奪えとの指令が。
 

源義経黄金伝説■第16回

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

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奈良にある黒田荘くろだのしょう(現三重県)は、東大寺の荘園である。

 

先月の東大寺があげての伊勢神宮参詣もこの地で、重源を始め多数の僧が宿をとっている。いわば東大寺の情報中継基地である。

 

 あばら家の中、どぶろくを飲んで横たわっている二人がいる。太郎佐。そこに弟の次郎佐が訪れていた。

「兄者、兄者はおられぬか」

「おお、ここだ、次郎左」

「何じゃ、なぜそんな不景気な顔をいたしておるのだ」

 

「これがよい顔をしておられるか。お主、何用だ。俺に金の無心なら、無用だぞ」

「兄者、よい話だ。詳しい話は、ここにおる鳥海から聞け」

 

蓬髮で不精髭を生やした僧衣の男が汚らしい格好で入ってくる。

着物など頓着していない様子だ。

顔は赤銅色に焼けてはいるが、目は死んでいる。

 

鳥海は興福寺の悪僧(僧兵)として、かなりの腕を振るった人間だ。

園城寺、比叡山との悪僧たちとの争いでも、引けを取らなかった。

 

が、東大寺炎上の折りから、腑抜けのようになっていた。

一人生き延び、この太郎左、次郎左のところに転がり込んでいいのである。

 

 鳥海は、話を始めた。

「太郎佐殿は、先年、東大寺が焼き払われたこと、ご存じだろう」

「おお、無論、聞いている」

「東大寺の重源、奥州藤原氏への勧進を依頼した。さて、使者は西行法師」

「たしか先月、重源ちょうげんと、、そうか、あのおいぼれ。確か数え七十ではないか」

「供づれはいないと聞く。いかに西行とて、この我ら黒田悪党のことは知るまい」

「ましてや、みちのく。旅先で、七十の坊主が死んだとて、不思議はあるまい」

 

「お前、それでは、平泉からの東大寺勧進の沙金を…」

太郎佐は言う。

「そうよ、奪えというご命令なのだ。この話しはな、京都のやんごとなき方から

聞いた。ほれ、このとおり、支度金も届いておる」

「さらば、早速」

 

「まて、まわりがおかしい」

太郎左が皆を圧し止めた。

動物のような感がこの男には働く。

「ようすを見てみろ」

次郎左が命令を聞き、破れ戸の隙間からまわりをみる。

鳥海も他の方向を覗き見る。

「くそっ、お主ら、付けられたのか。馬鹿者め」

 

 まわりは、検非違使けびいしの侍や、刑部付きの放免(目明かし)らが、十重二十重に取り囲んでいる。検非違使の頭らしい若侍が、あばら家に向かって叫んでいた。

「よいか、我々は検非違使じゃ。風盗共、そこにいるのはわかっておる。おとなしく、縛につけ。さもなくば討ち入る」

 

「くくっ、何を抜かしおるか」

太郎左、次郎左は、お互いをみやって笑った。

戦いの興奮の血が体を回り始めているのだ。

 

「来るなら来て見ろ。腰抜け検非違使め」

大声で怒鳴った。

「何、よし皆、かかれ」

若い検非違使が刀を抜き言った。

「ふふっ、きよるわ。きよるわ」

 

「よいか、次郎左。ここは奥州の旅の置き土産。一つ派手にやろうか」

「あい、わかった」

 

太郎左と次郎左は、小屋の後手に隠してあった馬に乗り、

並んで頭の方へ駆けていく。侍は、急な突進にのぞける。

「ぐわっ」

 

太郎左の右手、次郎左の左手に、握られていた太刀が交差した。

 瞬間、検非違使の頭が血飛沫を上げ、青空に飛びあがっている。

 

後の者共は蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。

 

「ふふっ、少しばかり、馬をいただいておこう」

 三人は逃げ去る侍たちの方へ目がけて駆けていく。

 

 

太郎左たちは、板東地方(関東)に入り、盗みを立ち働いていた。まず、第一の目的はよい馬を得ることである。

 近畿地方の馬と、阪東や板東の馬とは、種類が違っていた。

脚力、体長とも、板東の馬が勝っている。

 

武者の家が焼けている。

中には多くの死人。

そこから阪東の馬に乗り飛び出してくる三人の姿がある。

 

「さすが阪東の馬よのう。乗り心地や、走りごこちが違うなあ」

 次郎佐は叫ぶ。

「それはよいが、次郎左、屋敷に火を放ったか」 太郎佐が、その言葉を受ける。

「おお、それは心得ておる。この牧の屋敷は、もうすぐ丸焼けだ」

「行き掛けの駄賃とはよう言うな。

屋敷の地下に埋めたあった金品もすべてこちらがものよ」

 鳥海が言う。三人は走り去る

 

続く2016改訂

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

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