■ロボサムライ駆ける■第七章 血闘場(3)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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(3)
「マ、マリア」
主水は倒れて身動きできない。
「ああ…、マリア…」
「ねえさん」
思わず、鉄が倒れたマリアの方に走っていく。マリアの体に触る。その時、鉄の脇腹に何かが突き刺さった。電磁ナイフである。そのナイフは、マリアの手から鉄の腹に深々と突き刺されたのだった。
「うっ、ま、まさか、ねえさん」
信じられないものを見たような鉄。
「そうです、今頃気がついたのですか」
マリア、いやリキュールは、ゆっくりと起き上がる。
「今までのすべての情報はそれじゃ…」
つぶやく鉄。膝をつき、苦しげに鉄はマリアを見る。
「そうです、私リキュールがロセンデールに伝えてたのです」
「そ、それじゃ、あんまり主水のだんながかわいそうだ」
「黄色いロボット風情から、そんな言葉は聞きたくないですね」
リキュールは、
「それから、私を姐さんと呼ぶのも気に食わないのです。私の嫌いな黄色いロボットからねえ」
と言い置いて、握っている電磁ナイフのつかをぐっと押した。電磁波が鉄の体を貫く。ビクッビクッと鉄の体が動く。恨めしげに鉄がマリアの顔を見上げる。
「ねえさん、そいつはあんましだ…」
鉄の下半身が吹き飛んで転がる。
「鉄…」
主水が唸る。
「夜叉丸、マリア=リキュールを倒せ」
観客の中から声が上がる。
レイモンが夜叉丸に命令していた。
「御前、わかり申した」
夜叉丸が、背中から「鉾」を引き抜いて、祭壇に立っていた。
「異国の女ばら、私が退治してくれよう」
「ほほう、魔道師風情が何をおっしゃる。私の腕をとくとごろうじろ」
「マリア」
倒れた主水が、とぎれとぎれにしゃべる。「ふふん、気安くお呼びでないですわ、このアジアの黄色いロボット」
「お前…」
冷や汗がしきりと主水の顔を流れ落ちる。「ふふ、そのとおり。彼女リキュールは、昔から我々聖騎士の一員だったのですよ、主水くん」
後ろから、リキュールの肩を抱き、ロセンデールが勝ち誇って続ける。
「貴様、先刻…。くそっ、背後で糸を引くのは、やはり、ルドルフ大王か」
「陛下を、呼び捨てにしないでください!」 ロセンデールのハンサムな顔は赤くなる。「そうよ。ルドルフ大王は、ユダヤの血と黄色い血が一緒になって、白色帝国を脅かされるのを嫌っておいでなのよ」
リキュールは吐き捨てるように言った。
「夜叉丸、薬を投げろ」
レイモンが夜叉丸に、自分の薬タンクを示した。
「ですが、御前」
「よい、このさいじゃ。後は何とかなろう。心柱をあやつらヨーロッパ勢に取られては後の祭りじゃ。まず、わしの体をより、あやつらを倒すことじゃ」
レイモンも青い顔をしていた。
「それでは、御前、許されよ」
夜叉丸は、そう叫び、レイモンの背中に張り付いている薬タンクを掴み、最上段から投げ降ろす。
「やーっ」
夜叉丸が、落合レイモンの薬をばらまいた。祭壇は薬のほこりでまいあがっている。
「ロセンデール、ここは私にまかせて。この夜叉丸とかと、勝負します」
「OK、リキュール、君にまかせよう」
ロセンデールはしりぞいた。
夜叉丸とマリア・リキュールが対決していた。
「マリアとやら、私の鉾は特別なのだ」
夜叉丸は無表情に告げる。
「ほう、どこが特別なの。聞かせてほしいわね」
「それはこうだ」
夜叉丸が、力を込めて鉾を投げる。意外な展開だった。
「何よ、これは」
目の前の出来事をマリアは信じられぬ表情で見る。鉾は、十倍に膨らみ突き抜ける。一瞬マリアの体をばらばらに吹き飛ばしていた。「ま、まさか」
ロセンデールが一瞬青ざめた。
「日本古来の鉾。この古代都市では、古来から、皆様方の霊気を集めて膨張する」
冷徹に夜叉丸が言う。
「そうじゃ、今回はわしの薬で膨張させたのじゃ」
「くそ、マリア=リキュールの敵、私が貴様を倒してやる」
主水は祭壇の所で倒れたままだ。
主水は無視され、最壇上はタッグマッチの様相を呈している。
「夜叉丸よ、お前の本当の力をお見せしろ」「よろしいので、レイモン様」
「よいよい、少しは皆を驚かせてやれ」
レイモンは甲高い声で言った。
「それではお相手申す。ロセンデール殿」
夜叉丸の姿が急に大きくなったような気がした。
「あやつは、霊人間、このおはしら様より預かった人じゃ」
レイモンが小さく呟く。
「ロセンデール、もう後がないぞ」
夜叉丸が呻いた。
「まだまだよな、私はまけぬよ。夜叉丸くん」「夜叉丸くん、レイモンを見たまえ」
レイモンをシュトルフがつかまえていた。「君の泣きどころは、レイモンでしょう」
「くそっ、ひきょうだぞ。ロセンデール」
ロセンデールが主水の方へ走り込み、主水の首にサーベルの切っ先をつける。
「夜叉丸くん、君のような、化け物は私が相手にするより、他の人間に相手させます。わたしの柄じゃない。その前に、主水君、君の生命の流れを止めてあげましょう。私一人が死ぬ訳にはいきませんからねえ」
「やめろ」
観戦していた群衆の中から飛び出して来る男がいる。足毛布博士だった。見る間に主水の体に取り付いている。
「そいつは私の息子だ」
先刻とは顔色が変わっている。
「助けてくれ、お願いだ。変わりに私を殺せ」 主水の上に覆いかぶさり庇う。ロセンデールに対して睨みをきかす。
「おやおや美しい愛情ですねえ。だが、足毛布博士、主水君一人を助けたところで流れは変わりませんよ」
ロセンデールは二人をコバカにしている。足毛布博士は、ロセンデールのしゃべりを聞きながら、気付かれぬように、主水の胸のある一点を、指で押していた。
嘘のように、主水の意識が回復する。渾身の力がみなぎって来る。どうやら、どさくさに紛れて、足毛布博士は主水の体にある、足毛布博士しか知らぬ回復点を押したようだ。「足毛布博士、おどきください。あなたを殺す訳にはいきません。あなたはこれからのヨーロッパ奴隷ロボット制確立にかかせない方ですからね。主水君をやれば、後の反乱ロボットは烏合の衆です」
「できるかな、ロセンデール卿」
足毛布博士がにやりと笑い、主水の体から撥ね跳んだ。
主水が、クサナギの剣を力強く掴み、すっくと立ち上がっていた。
「主水くん、き、君は」
あまりのことに驚くロセンデール。瞬間、ロセンデールに隙が生じる。
「と…っ」
渾身の力を込めて、主水はクサナギの剣を振り下ろす。クサナギの剣が、ロセンデールの首と胴をみごと切り離していた。
鮮血が飛び散る。ロセンデールの赤い血が、祭壇に花のように咲いたのだ。
そんなばかなという顔を、ロセンデールはしてよろけた。ゲルマンの剣は手からゆっくり離れ、床に突き刺さる。
「ロセンデール、仕留めたり」
主水が叫ぶ。右手高くクサナギの剣が差し上げられている。
が、ロセンデールの首が床に落ちる一瞬、拾いあげた者がいる。マリアだった。
「う…」
人々の間からどよめきが上がる。皆が知らない間にリキュールが復活していた。
「マリア=リキュール、お前、流体ロボットか」
主水が信じられないものを見るように言う。
続く)
■ロボサムライ駆ける■第七章 血闘場(3)
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