ロボサムライ駆ける■第33回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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「そうです、その通りです。あやつらのタコを叩き落としてほしいのです。何、すべてを落とせと言うわけではありません。この飛行船の通る範囲内でいいってことです」
当たり前のように簡単に、マリアは言う
「無茶だよ、私しゃ、高所恐怖症なんですよ」
鉄は冷汗をかいていた。
「さっきはそうは言わなかったでしょう。ほら、落ち着くために特別の機械茶を飲ましてあげるますから、がんばって」
「もし、私の乗ってるタコが切られたら」
鉄は、タコの落ちる姿を想像し、がたがた震えている。
「そりゃ、あなたごと落ちるでしょうね」
「ね、姐さん。本当にわたしに戦えっていうんですかい」
「当たり前じゃないですか。いいですか、鉄さん。あまり動くんじゃないですよ。縛れないじゃないですか」
鉄の体はタコに縛り付けられていた。
「いいですか、空軍のだんな方。絶対タコの糸を切り離さないでくださいよ」
「おお、心得ておる」
鉄と対照的に、話の経緯に、にこにこしながら答える兵士たち。
「で、お助けをしてくださらないんで」
鉄は足をがくがく痙攣させながら、マリアや空軍兵を一通り見渡した。皆知らぬ顔である。
「貴公、一人で充分だろう」
佐久間空軍大尉が言う。
「徳川の御前から、早乙女主水殿の配下優れた戦闘ロボットだ。そう聞いている。」
「鉄さん、震えているんじゃないでしょうね」
「え、姐さん、こいつは武者奮いって奴で」
「それじゃ、いいかですか。そうれ。外ですよ」
鉄の乗ったタコは飛行船から押し出される。
「ま、まってくだせえ。まだ心の準備があ…」
言葉を言い終わる前に、鉄はタコごと空中に浮遊していた。
真下は関が原らしい。雲の間から復旧しつつある東海道がぼんやり見えた。
「いっ一体、どうやって動かしゃいいんだ、これは」
鉄は独りごちた。
『鉄さん、早く敵の方へ行きなさい』
耳のレシーバーから、マリアの声が入って来た。
「あっ、姐さん。姐さんの声を聞けるだけでも、たくましい限りだ」
『いいから。ほら、奴らの方が、もうやって来ていますよ』
そういっているうちに、鉄のタコのまわりを、ロボ忍のタコが囲んでいた。
「や、やい。俺を誰だと思っていやがるんだい。東京じゃ、ちょっと知られたお兄さんだぞ」
ひびりながらしゃべる鉄。相手のロボ忍が笑いながら言う。
「ほほう、威勢だけはよいのう」
「あ、あっしの頭を聞いて驚くな。早乙女主水のだんなだぞ」
「何、早乙女主水だと」
ロボ忍の数人が、あきらかに顔色が変わっていた。
「どうだい、驚いたかい」
鉄はいばるが、逆効果だった。相手の様子が険しい。
「早乙女の使い番ロボとあらば、尚のこと、生かしてはおけぬ」
逆にロボ忍の殺意をたぎらせてしまった。
「早乙女主水の旦那は評判悪いねえ。いや、その、あの、生かしてはおけぬなんて。もちょっと…」
慌てて、何とかごまかそうとする鉄。
「各々方かかれい」
ロボ忍の一人が命令する。
「助けてくれ」
鉄はとうとう悲鳴を上げていた。悲鳴にもかかわらずタコが近づいて来る。刀を動かす音が数秒続く。
鉄は思わず、目を瞑った。
「うっ、ややられた。おいらもここで終わりか…。早乙女のだんな、許しておくんなさい。鉄は役に立ちませんでした」
「本当に役立たずですよ。鉄さん、目を開けてご覧なさい」
マリアの声だった。目を開く。まわりのロボ忍は、すべて倒され、タコの上でぶらぶら動いている。目の前にマリアが浮いている。
「こりゃ、一体、マリアのお姐さんが」
「当たり前ですよ。私のサーベル『ジャンヌ』の錆になっていただいたのです」
マリアは小型のジェット推進機を背中に背負っている。愛用のサーベル「ジャンヌ」を手に持っていた。
「じゃあ、あ、あっしは餌って訳ですかい」
鉄は気づいた。
「相手を油断させる、、、そういう訳ですよ」
「そいつは姐さん、あんまりだ」
「何いってるのですか。お陰でロボ忍を片付けられたのですよ」
徳川空軍・飛行船は、すでに西日本都市連合の領土上空に入っていた。
◆
「さて、さて、松前さん。あなたはどの試合に出るつもりですか」
西日本都市連合の御用商人大黒屋は、主水相手にどんどん話を広げていく。大乗り気なのである。
「いやいや剣闘士といっても、日本武道のことです。いろいろなコースがある。相撲、弓道、剣道、槍術、薙刀、鎖鎌など。なんでもござれだ。それにこの特殊技術を練習する道場があるのですよ。
道場の経営は西日本都市連合が当たっておるから、心配はしなくてもよろしいですよ。
そこらの偽者の「ロボット道場」とは違いますからね。さあ、どれを選びなさる。ロボット空手か、あるいはロボット柔道か。またはロボットレス(ロボットレスリング)か」
大黒屋は顔を真っ赤に興奮している。
「大黒屋どの、やはり私は…」
冷たく断ろうとする主水だが、
「何を選びなさる、思うとおりおっしゃってくださいな」
とうとう大黒屋に押し切られる形となった。
(続く)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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