■ガーディアンルポ01「最終列車」■第1回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yama-kikaku.com/
http://ameblo.jp/yamadabook/
■第1回 ■
サイトウはいつものローカル線に乗り込んだ。まだはっきりとは目がさめていない。い
つものことだ。頭がはっきりするまで一時間くらいかかるだろう。
サイトウの住んでいるX市からO市までは電車で約一時間半くらいの道のりだ。残念な
がらX市まで私鉄は通じていない。JRのローカル線F線に乗る他はない。
まさに、毎日山を通りトンネルを抜け、谷を渡りディゼール車はようやくO市にたどり
逆にありかたいこともある。ゆっくりと腰をかける事ができる。私鉄のラ″シュ時のよ
うな事は全然ない。その代り、列車の本数はとても少ないのだ。そのため、毎日乗り合わ
せる人達はかのずから決まってしまう。
その日も、S商事に勤めているイヌイと話をしながら列車へ乗る。イヌイのとなりにす
わった老婆もよく見る顔だ。サイトウは軽く会釈をする。
いつもなら、会社の事やら、SFの事やらとりとめのない話をし、時間をつぶすのだが、
今日は違った。限石事件がもっばら話題になっている。
「変な事を聞いたぞ」
イヌイが小声で言った。
「え、伺だね」
「ニ人の人間が限石から出てきたという話だ」
「まさか。ひ、ひょっとして円盤では」
サイトウはおどけて言った。
昼の日中に、X市に隣接したM市山中に限石が落下したのだ。
初夏の山中をディーゼル車は進んでいく。T駅に近づいたようだ。
「サイトウ、見てみろ」
イヌイがひじでつついた。窓から外をながめている。サイトウも同じように身をのりだ
す。ブラットホームに人が鈴なりになっているのだ。
いつものT駅なら、この時刻ではせいぜい十名がいいところなのだが。
それなのに今日は何んて事だ。百人近い人間がひしめいているのだ。
「何だろう」
「かそらくどこかの団体旅行だろうさ」
しかし団体旅行にしては、彼らは手荷物を持ってはいない。小さな棒を手にしているだ
けだ。
彼ら、そう文字通り彼らは何か一定の共通点があった。それにぎこちないところが感じ
られるのだ。現代に適応していない感じだ。
彼らはー糸みだれぬ行動をしている。
列車が止まるやいなや、その集団は分裂し、車輛へ乗り込んでくる。
いつも乗っている人達はその数十人の集団に圧倒され、隅の方で小さくなっている。
中へはいった彼らは前後左右の出入口の扉に一名ずつ立った。それから残りの人間は列
車内へと散らばる。彼らはすわろうともしない。
車掌が通路を歩いてきた。不思議な行動の彼らに気がついたようだ。開いている席につ
くように頼んでいる。しかし彼らは押し黙っている。車掌も困り果てたようだ。
この列車は二人ずつ向い合わせにすわる席だ。サイトウのとなりでは大学生が眠りこけ
ている。前の席のイヌイのとなりにはぱあさんがすわっている。
イヌイはしきりに男達を観察している。
「おい、あまりそんなに見るなよ」
車掌かいまだにすわるように男達に懇願している。意地になっているようだ。
一転して、男達は開いている席にすわりだした。車掌はホツとした。
イヌイはその瞬間、首肯したようだ。
同一の行動だった。一斉に男達はすわった。しかし扉の前の男はその唾ま立って、ドア
をふさいでいる。
駅長の笛が吹かれ、列車が動き始めた。
線路の下を流れている川の幅が段々広くなっていく。川の中に突き出している岩にくだ
ける水しぶきが涼しさを感じさせる。
ぞくぞくと続くトンネルを列車は通りすぎる。この山中のトンネルを総てすぎると唐突
に、開けたO平野へと出るのだ。
トンネルに入り際、サイトウは何かしら不安にかられた。
一つ、二つ、トンネルをすぎていく。
三つ目のトンネルがサイトウにはやけに長く感じられた。長すぎる。いつもなら、こん
なに長く時間はかかりっこない。
人々が騒ぎ始める。
「どうなっているんだ。事故か」
しかし、列車はトyネルの中で停車しているわけではない。確かに前方へと動いてはい
るのだ。こんなに長いトンネルはこのF線にはないはずだった。
車内アナウンスが聞こえてきた。
「少々、訟待ち下さい。ただいま原因を調べてかります」
あわてて、車掌が前の方へ走っていった。
携帯ラジオをイヤホーンで聞いていた男がつぶやいた。
「かかしい、急にラジオに雑音が・・・・:」
車内灯が急に消え、サイトウはめまいを感じ、気を失なってしまった。
サイトウか気かつくと、列車は見知らぬ平原を疾駆していた。
「大丈夫か」イヌイがサイトウに話しかけた。
「どうなっているんだ」
「わからん、俺は少しだけ早く目をさましただけさ」
本来なら、もうO市の町並が見えるはずなのだが。窓の外に広がっているのは赤茶けた
平原なのだ。
「これは一体全体」
サイトウは二の句が告げなかった。あまりに異常な出来事なのだ。これは夢ではないか。
サイトウは自らのほかをつねってみた。痛い。これは夢ではない。現実なのだ。
陽が高くあがっている。空気が少し違うようだ。サイトウは窓から首を出して、今まで
通りすぎてきたであろう線路を見ようと思った。
窓が開かない。
ざわめきがかこっていた。’しかし先刻T駅で乗り込んだ連中は少しも騒いでいない。
車内アナウンスが響いてきた。
『乗客諸君、我々はスペシャルコマンド部隊だ。我々はこの列車を支配下においた。我
々の命令K従わない者は射殺する。くりかえす。射殺する。これ以後、我々の指示K従っ
てほしい。以上だ」
騒ぎの中で、T駅からの男達が立ち上った。彼らはふところから銃の部品をとり出し、
組み上げた。
「静かにしろ」
彼らは冷たい声で言った。各車両でも同じ事がかこっていた。
「ここはどこたんだ」
「だまれ」
山並みが遠くみえる。ところどころに小さな岡と、潅木が散在する。
T駅の次の駅Sでは、連絡電話をかけていた。
「列車がまだつきません」
「しかし列車は定刻に発車しtしたが」
「事故の報告は受けていない」
F線と川をはさんで国道が走っている。
駅員がS駅からT駅まで線路を観ながら車で駆けてみた。しかし列車の姿はどこにも発
見できなかった。ふと、彼は空を見上げた。空は円盤で満ち満ちていた。
(続く)
■ガーディアンルポ1「最終列車」■第1回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yama-kikaku.com/
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■第1回 ■
サイトウはいつものローカル線に乗り込んだ。まだはっきりとは目がさめていない。い
つものことだ。頭がはっきりするまで一時間くらいかかるだろう。
サイトウの住んでいるX市からO市までは電車で約一時間半くらいの道のりだ。残念な
がらX市まで私鉄は通じていない。JRのローカル線F線に乗る他はない。
まさに、毎日山を通りトンネルを抜け、谷を渡りディゼール車はようやくO市にたどり
逆にありかたいこともある。ゆっくりと腰をかける事ができる。私鉄のラ″シュ時のよ
うな事は全然ない。その代り、列車の本数はとても少ないのだ。そのため、毎日乗り合わ
せる人達はかのずから決まってしまう。
その日も、S商事に勤めているイヌイと話をしながら列車へ乗る。イヌイのとなりにす
わった老婆もよく見る顔だ。サイトウは軽く会釈をする。
いつもなら、会社の事やら、SFの事やらとりとめのない話をし、時間をつぶすのだが、
今日は違った。限石事件がもっばら話題になっている。
「変な事を聞いたぞ」
イヌイが小声で言った。
「え、伺だね」
「ニ人の人間が限石から出てきたという話だ」
「まさか。ひ、ひょっとして円盤では」
サイトウはおどけて言った。
昼の日中に、X市に隣接したM市山中に限石が落下したのだ。
初夏の山中をディーゼル車は進んでいく。T駅に近づいたようだ。
「サイトウ、見てみろ」
イヌイがひじでつついた。窓から外をながめている。サイトウも同じように身をのりだ
す。ブラットホームに人が鈴なりになっているのだ。
いつものT駅なら、この時刻ではせいぜい十名がいいところなのだが。
それなのに今日は何んて事だ。百人近い人間がひしめいているのだ。
「何だろう」
「かそらくどこかの団体旅行だろうさ」
しかし団体旅行にしては、彼らは手荷物を持ってはいない。小さな棒を手にしているだ
けだ。
彼ら、そう文字通り彼らは何か一定の共通点があった。それにぎこちないところが感じ
られるのだ。現代に適応していない感じだ。
彼らはー糸みだれぬ行動をしている。
列車が止まるやいなや、その集団は分裂し、車輛へ乗り込んでくる。
いつも乗っている人達はその数十人の集団に圧倒され、隅の方で小さくなっている。
中へはいった彼らは前後左右の出入口の扉に一名ずつ立った。それから残りの人間は列
車内へと散らばる。彼らはすわろうともしない。
車掌が通路を歩いてきた。不思議な行動の彼らに気がついたようだ。開いている席につ
くように頼んでいる。しかし彼らは押し黙っている。車掌も困り果てたようだ。
この列車は二人ずつ向い合わせにすわる席だ。サイトウのとなりでは大学生が眠りこけ
ている。前の席のイヌイのとなりにはぱあさんがすわっている。
イヌイはしきりに男達を観察している。
「おい、あまりそんなに見るなよ」
車掌かいまだにすわるように男達に懇願している。意地になっているようだ。
一転して、男達は開いている席にすわりだした。車掌はホツとした。
イヌイはその瞬間、首肯したようだ。
同一の行動だった。一斉に男達はすわった。しかし扉の前の男はその唾ま立って、ドア
をふさいでいる。
駅長の笛が吹かれ、列車が動き始めた。
線路の下を流れている川の幅が段々広くなっていく。川の中に突き出している岩にくだ
ける水しぶきが涼しさを感じさせる。
ぞくぞくと続くトンネルを列車は通りすぎる。この山中のトンネルを総てすぎると唐突
に、開けたO平野へと出るのだ。
トンネルに入り際、サイトウは何かしら不安にかられた。
一つ、二つ、トンネルをすぎていく。
三つ目のトンネルがサイトウにはやけに長く感じられた。長すぎる。いつもなら、こん
なに長く時間はかかりっこない。
人々が騒ぎ始める。
「どうなっているんだ。事故か」
しかし、列車はトyネルの中で停車しているわけではない。確かに前方へと動いてはい
るのだ。こんなに長いトンネルはこのF線にはないはずだった。
車内アナウンスが聞こえてきた。
「少々、訟待ち下さい。ただいま原因を調べてかります」
あわてて、車掌が前の方へ走っていった。
携帯ラジオをイヤホーンで聞いていた男がつぶやいた。
「かかしい、急にラジオに雑音が・・・・:」
車内灯が急に消え、サイトウはめまいを感じ、気を失なってしまった。
サイトウか気かつくと、列車は見知らぬ平原を疾駆していた。
「大丈夫か」イヌイがサイトウに話しかけた。
「どうなっているんだ」
「わからん、俺は少しだけ早く目をさましただけさ」
本来なら、もうO市の町並が見えるはずなのだが。窓の外に広がっているのは赤茶けた
平原なのだ。
「これは一体全体」
サイトウは二の句が告げなかった。あまりに異常な出来事なのだ。これは夢ではないか。
サイトウは自らのほかをつねってみた。痛い。これは夢ではない。現実なのだ。
陽が高くあがっている。空気が少し違うようだ。サイトウは窓から首を出して、今まで
通りすぎてきたであろう線路を見ようと思った。
窓が開かない。
ざわめきがかこっていた。’しかし先刻T駅で乗り込んだ連中は少しも騒いでいない。
車内アナウンスが響いてきた。
『乗客諸君、我々はスペシャルコマンド部隊だ。我々はこの列車を支配下においた。我
々の命令K従わない者は射殺する。くりかえす。射殺する。これ以後、我々の指示K従っ
てほしい。以上だ」
騒ぎの中で、T駅からの男達が立ち上った。彼らはふところから銃の部品をとり出し、
組み上げた。
「静かにしろ」
彼らは冷たい声で言った。各車両でも同じ事がかこっていた。
「ここはどこたんだ」
「だまれ」
山並みが遠くみえる。ところどころに小さな岡と、潅木が散在する。
T駅の次の駅Sでは、連絡電話をかけていた。
「列車がまだつきません」
「しかし列車は定刻に発車しtしたが」
「事故の報告は受けていない」
F線と川をはさんで国道が走っている。
駅員がS駅からT駅まで線路を観ながら車で駆けてみた。しかし列車の姿はどこにも発
見できなかった。ふと、彼は空を見上げた。空は円盤で満ち満ちていた。
(続く)
■ガーディアンルポ1「最終列車」■第1回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yama-kikaku.com/
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