◎本稿は「沖縄の怒りとともに」うちなんちゅの怒りとともに!三多摩市民の会発行の116号に寄稿したものです。
本稿は、勝連分屯地に、対艦ミサイル部隊新設の動きを主に書いていますが、これ「島嶼防衛」の一端です。私は2011年からこの問題を取り上げ、書き、語り、報告し、警鐘乱打してきました。でも顧みてくれる人は、殆どいなかった。しかし、ここまですすんできてしまった。琉球諸島・沖縄島を見捨てたら、私たちは地獄に落ちることでしょう。(ヤマヒデ-20210919)
Ⅰ:沖縄島勝連半島に陸自対艦ミサイル部隊配備の報道
2021年8月20日、琉球新報がこう報じた。「勝連に地対艦ミサイル」。私はこれを見て仰天した。遂に、沖縄島配備の段階を迎えたのか。要は「琉球諸島防衛網」が完成段階に入るということだ。
このまま「琉球諸島防衛網」が完成していけば、沖縄・琉球諸島はどうなってしまうのか、日本・アジアはどうなるのか、私たちはこれを真剣に考え、必ず止めなければならない。本稿では、問題の所在を明らかにしたい。
陸自勝連分屯地第15高射連隊第2中隊ゲート前(20210821)
①陸自対艦ミサイル部隊とは?
陸自対艦ミサイル部隊とは、陸・海・空自衛隊の、陸上自衛隊の傘下にある地対艦ミサイル部隊であり、地上から沖合の敵揚陸艦隊などを撃破するものだ。88式地対艦誘導弾の有効射程は、「自衛隊装備年鑑」によると、100数十kmとあり、新式の12式地対艦誘導弾も、同様とある。同書本文によれば、後者は「有効射程は延伸している」とあり、詳細は軍事機密の闇の中。約200kmとの説がある。
問題は武器の性能ばかりではない。如何なる部隊が如何なる作戦を行うかにあるから、ややこしい。
②地対艦ミサイル連隊の配備状況と歴史
陸自対艦ミサイル連隊は、5個連隊が配備されてきた。北部方面隊(北海道)に3個連隊(第1、第2、第3地対艦ミサイル連隊)、東北方面隊に1個連隊(第4地対艦ミサイル連隊)、西部方面隊(九州・沖縄県)に1個連隊(第5地対艦ミサイル連隊)だ。北海道に3個連隊とは、対ロ防衛が目的だろう。東北(青森県八戸市)の第4地対艦ミサイル連隊は、奄美大島(2019年)、宮古島(2020年)、石垣島(予定)、そして沖縄島(予定)に移駐し、今後消滅するだろう。私たちは、西部方面隊の強化を、対中国部隊の強化として、注目しなければならないのだ。
この対艦ミサイル連隊の経緯を紐解こう。この国は、1991年から始めた「中期防衛力整備計画」(1991~95年度)の「主要事業の3」に「着上陸侵攻対処能力」として地対艦誘導弾の整備を打ち出した(91年版「防衛白書」)。「着上陸侵攻対処能力」とは、敵前上陸を撃破する武力のことだ。92年3月に第1地対艦ミサイル連隊が北千歳駐屯地に新編された。
これは歴史の皮肉なのか、先取りだったのか。世界史を見れば、1989年東西ドイツの壁が崩壊し、1991年ソ連が崩壊した。「冷戦」が終結したのだ。この時期に対艦ミサイル部隊が新編されていく。第5地対艦連隊が健軍駐屯地(熊本県)に新編されたのは1998年のことだ。私は2001年の宇都宮(栃木県)駐屯地祭で第6地対艦ミサイル連隊が新編されたと知り、この時初めて88式地対艦ミサイルをこの目で見た。
なぜ地対艦ミサイル連隊が、栃木県宇都宮に、対「テロ」戦争の時代に新編されたのか、私は全く理解できなかった。もっとも2011年に第6地対艦ミサイル連隊は廃止された。政府・防衛省は、「軍事的合理性」を検討していないのか。新たな武器を造ったから(88式も12式も三菱重工製)、配備するのか、部隊の数あわせだったのか。
③地対艦ミサイル連隊の指揮系統と部隊構成
自衛隊も軍隊(「自衛軍」)だ。上意下達の指揮系統が貫かれている。2018年度からこう変わった。「陸上総隊新編により、陸上総体司令官が一元的に陸上自衛隊の部隊運用を担い、統合運用の下、陸上自衛隊の師団・旅団を迅速・柔軟に全国運用します。また「陸上総隊が統合幕僚監部、自衛艦隊司令部、航空総体司令部及び在日米軍と平素から事態対処時までの運用などについての調整を一本化して行うことにより、運用の実効性が向上します」(防衛省のHPから転載)。
陸海空の自衛隊は、3軍が統合運用され陸自の総指揮を陸上総体指令官が執る。平素から戦時まで。第5地対艦ミサイル連隊は、陸上総隊―西部方面総監部(健軍)―西部方面特科隊(大分県湯布院)の指揮下にある。この傘下に、奄美大島・宮古島・石垣島・沖縄島の各地対艦ミサイル部隊が置かれることになる。
地対艦ミサイル連隊は、4個の射撃中隊を指揮下に置いている。第5地対艦ミサイル連隊も同様だった。一個連隊は、本部管理中隊+4個射撃中隊で組織されている。本部中隊が指揮統制装置やレーダーなどを運用し、各射撃中隊は、4基の発射機等を運用する。1基に6発入るのでミサイル24発を常備している。この地対艦ミサイル中隊が勝連半島にある勝連分屯地に来るというのだ。隊員は180名と報じられた。
Ⅱ:第6地対艦ミサイル連隊本部がやってくる
①新たな地対艦ミサイル連隊ができる
その後(9月2日)、地対艦ミサイル連隊の司令部が来るとの続報が入ってきた。第5地対艦ミサイル連隊は、熊本県の健軍駐屯地にある。4個中隊。同連隊の傘下に2019年3月、奄美大島の瀬戸内駐屯地に第301中隊を新編、2020年3月、宮古島に第302地対艦ミサイル中隊を新編した。
そして2023年3月、石垣島に第303地対艦ミサイル中隊を新編の予定。さらに勝連に第304地対艦ミサイル中隊を新編となると、中隊4つで連隊となる。琉球諸島の4個中隊は、健軍駐屯地(熊本県)を離れ、第6地対艦ミサイル連隊となるだろう。最前線に1個連隊が誕生する。2011年まで宇都宮にあった第6地対艦ミサイル連隊がもっていた「抑止力」と、こちらの「抑止力」(攻撃力)では、全く違う。その前に以下のことを確認したい。
②「島嶼防衛」の核心は、対艦ミサイル部隊と対空ミサイル部隊のセットのはず
奄美大島、宮古島、石垣島に配備された(計画を含む)のは、対艦ミサイル中隊と対空ミサイル中隊のセットだ。ところが、沖縄島にはこの話は浮上していない。何故かと言えば、配備済みだからだ。第15高射特科連隊だ。本部(発射機は置いていない)が八重瀬町富盛に、第1高射中隊が南城市知念に、第2高射中隊がうるま市勝連内間に、第3高射中隊が沖縄市白川に、第4高射中隊が八重瀬町安里にある。中部に2カ所(第2、第3高射中隊)南部に2カ所(第1高射中隊、第4高射中隊)だ。第1~第3高射中隊のミサイルは、03式中距離誘導弾であり、約50kmの有効射程を持つと推定されている。第4高射中隊は11式短距離地対空誘導弾を使い、短距離防空を担任している(「沖縄の米軍基地」―沖縄県基地対策課2018年刊)。彼らが守るのは、米軍嘉手納基地や普天間基地であり、自衛隊の那覇基地などだろう。勝連に対艦ミサイル中隊が配備されれば、ここへの攻撃にも備えるのだろう。
なお、いずれのミサイルもトラックに載っており、移動式だ。撃てば、居所を押さえられ、反撃されるからだ。実戦は分散・移動式となる。住民が知らないうちに、公園や隣の空き地がミサイル発射場になるかもしれないのだ。
ホワイトビーチ展望台から見た勝連分屯地。対空ミサイルのレーダーがグルグルと回っていた。(20210826)
Ⅲ:「島嶼防衛」網が稼働しだしたら、どうなるのだろうか?
2021年9月の現段階で、「島嶼防衛網」は、10中8,9稼働していない。与那国島のレーダーは動いており、奄美大島の対艦ミサイル部隊はスタンバっても、1個中隊では如何ともしがたい。与那国島から石垣島・宮古島・沖縄島・奄美大島、そして九州各地の第5地対艦ミサイル連隊、水陸機動団、さらに全国各地の即応機動連隊などと連結してこそ、大きな軍事力になっていく。「島嶼防衛」が、「専守防衛」を旗頭にしていた自衛隊を、《攻守同盟軍》へと変えてきたのだ。
①「防衛計画大綱」と「中期防衛計画」にみる「島嶼防衛」の位置づけ
戦後日本国家が軍事のあり方を大きく変えたのは、2010年12月の「防衛計画大綱」だろう。従来の「基盤的防衛力構想」を廃止し、「動的防衛力」を打ち出した。お題目ではなく「実効的に対処しうる防衛力」(実力)だと。そして防衛力のあり方の2番目に「島嶼部に対する攻撃への対応」を掲げた。また、「中期防衛力整備計画」(2011-2015)に沿岸監視部隊と「初動を担任する部隊」の配備と「南西空域における早期警戒機(E-2C)の配備」、さらに陸海空の統合力の強化を打ち出した。これが「島嶼防衛」の始まりだった。
2013年末に安倍政権が「防衛計画大綱」と「中期防」を改訂した。動的防衛力を飛躍させる「統合機動防衛力」を打ち出したのだ。「機動」とは「常時継続的な情報収集・警戒監視・偵察活動を行う」と共に「部隊の機動展開」を行うことだとある。平時から不断に事に構えていく姿勢が示されたのだ。「島嶼部に対する攻撃への対応」も継続され、陸海空の協力態勢について具体的に示されている。「中期防」(2014-2018)に具体化されている。こうして与那国島、奄美大島、宮古島、石垣島と部隊配備が強行されてきている。
安倍政権は、2018年末、防衛計画大綱を大改定した。これは統合防衛力を遙かに超えた宇宙・サイバー・電磁波を初めとした抜本的な再編「多次元統合防衛力」と説く。なお、宇宙・サイバー・電磁波対応も米国からの指示による。そもそも「島嶼防衛」も米国のグアム再編から始まったのだ。
あたかも「島嶼防衛」が後景化したかと思ったが、「島嶼部を含む我が国への攻撃への対応」とある。 ここに安倍政権の本音が出ている。「島嶼防衛」を掲げ、対中軍事態勢を抜本的に強化し、中国とのつばぜり合いに本格的に乗り出そうというのだ。
中城湾入り口ドン真ん中は、津堅島沖訓練海域だ。この日、パラシュート降下訓練が行われ、その直後に、米国空軍CV-22オスプレイ(横田基地所属)が3機やってきた。2時間余りやっていた。パラシュート降下とロープで下りる敵地潜入訓練のミックスではないか。20210826
②このまま進めばどうなるか
多言を要しないであろう。沖縄島も含む琉球諸島の島々が戦場になりかねないのだ。米日政府は、こうなることを承知の上で事を構えている。これが「沖縄の負担軽減」の結末なのか。断じてあり得ない。
2021年4月、米日政府首脳は、「台湾有事」に言及した。こうなれば、本格的な戦争になる。沖縄がとるべき道は、米日にも中国にも加担しないことだ。ここで戦争を始めるのであれば、出ていけ! 私たちはこう言うしかあるまい。
夕方、出向する海自掃海艇。こうした光景は日常だ。中城湾や金武湾での掃海等の訓練(機雷の敷設)だろう。守ることと攻めることを重ねるのが今日進められている「島嶼防衛」だ。安穏としていられない今がある。(20210826)