直木賞受賞作だけあってすごく面白いエンタメ戦国小説でした。
表舞台に出ない石垣職人が主人公です。
読んでいて「村上海賊の娘」(和田竜)を思い出しました。こちらも直木賞受賞作で、脚光を浴びることのない瀬戸内海の海賊の娘が主人公でした。
どちらも歴史にあまり残っていないからか、作者のイマジネーションで想像を膨らませることができ、話の展開がスリリングでどんどんのめり込んでしまいます。
「塞王の楯」は石垣職人と鉄砲造りが、関ヶ原直前の大津城の戦いで火花を散らす話です。
城を攻める鉄砲衆を率いるのは国友衆の彦九郎。
対して城を守るため石垣を構築するのは穴太衆の飛田匡介。
それぞれ当時の日本では最高の技術を誇り、至高の矛vs最強の楯という構図の戦いになります。
一進一退、どちらが勝つか、どちらが正義か、著名な戦国武将とは別に、戦いを繰り広げる技術者集団の駆け引きが実に面白かったです。
大津城主の京極高次、妻の初、初の侍女夏帆などのキャラも魅力的で、700ページも長く感じませんでした。
石垣の積み方にも興味が湧いてきました。お城廻りをするのが楽しみです。
印象に残った文章をいくつか。
百年の平和というものは、人を弛ませるには十分だった。現実とは思えないのか、初め一乗谷の民はどこか夢の話を聞くような顔をしていた。しかし遠くから鬨の声や銃声が耳に届く段となり、民もようやく夢から覚めたように慌ただしく動き始めた。家財を纏める者、着の身着のまま逃げ出す者、まだその段になっても、
ーお城があるから心配ない。
と、余裕を見せていた者も少なからずいたのである。
「人は元来、自ら死ぬようにはできていない。生きろ。己の命を守るのだ」
「それ(おやじ注:一日で十万、百万が死ぬ砲)を使うほど人は馬鹿じゃねえ。泰平を生み出すのは、決して使われない砲よ」
人を守るには強さがいるが、その源流には優しさがある。
人はそれぞれ何かしら才を持って生まれ落ちる。だが人の生涯の中で、己の才が何かをいうことに気付くものは少ないし、たとえ気付いたとしてもそれを活かさぬまま一生を終えるものが大半である
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