外苑前でひろった個人タクシーは、
運転手の風貌からして変わっていた。
白髪まじりの長い髪を後ろで結んでいた。
乗った瞬間、
車内には大音量でロックが流れていた。
見ると、
運転席の前には何やらいろいろな装置が並ぶ。
なんだ、あれは?
メーターの前に設置されているのは、
どう見てもディスクマンだ。
しかも二つ。
カーステレオではなく、
通常のディスクマンをそこに設置し、
後方のスピーカーと繋いでいるようだ。
行き先を告げると、
運転手はディスクマンを操作した。
音楽が消える。
だが、しばらくすると、
沈黙の中にかすかな金属音が響いていることに気づいた。
なんの音だ?
ミラーの傍に吊るされた、
風鈴の音だった。
釣鐘式ではなく、
金属の棒が何本か吊るされた形式の風鈴。
それが車の振動で揺れ、
かすかな金属音を奏でつづけている。
なんであんなものを吊るすのか?
ヒーリング効果のつもりなのか?
風鈴の音に耳が慣れてきた頃、
運転手が再びディスクマンを操作する。
音楽が流れ始める。
アンビエント風のイントロから始まって、
ギターのフレーズが続く、
インストの曲だ。
まるで風鈴の音にあわせたような選曲。
あの一連の流れは、
ねらってやっているのか。
それにしても不思議なタクシーだった。