読者から寄せられた質問に回答したものです。
※現在はこのコーナーは停止しています。
Q1:天気予報をみると、全般的に夜から朝にかけて風は弱いが、日中になると強くなるのはなぜですか?
A:風の一日内の規則的変化(日周期)は、天気には影響が少ないので、天気予報でも説明されない現象です。
ここに注目されたとは、立派な観察眼です。
風(空気の移動)は、気圧(空気の圧力)の差(高気圧→低気圧)のほかに、温度(空気の軽重)の差(重→軽=低温→高温)でも起こります。
風=Δ気圧+Δ温度 (Δは差異)
ただ前者はポンプのように能動的に起きるのに対し、後者は受動的に起きるので前者の影響(気圧配置)の方が大きいです。
でもおだやかな高気圧におおわれた晴天時など、気圧の勾配がない場合だと、後者の影響が表に出ます。
つまり、日中陸地が温まると、海との温度差が大きくなって、海風が強くなります(昼、海岸の風が強い理由)。
内陸では地表が温まると空気が軽くなって上昇流が強くなります(好晴積雲=綿雲の発生)。
するとその上昇流を補う意味で上空の比較的強い風(大ざっぱには西風)が下降して地表に達します 。
この二つの理由で(沿岸でも内陸でも)、日中の風は強くなります。
逆に地表の気温が下降して最低になる夜から朝にかけては、陸地が放射冷却でどんどん冷えるので昼間のような上昇気流も海との気温差もなくなり(海の方が暖かくなると陸風になる)、上空との気温差が小さくなるので、下降流もなくなります。
その結果、無風状態になります。
こういう日周期があります。
太平洋高気圧が日本をおおう夏(台風の接近時以外)は、ご質問のような風の日周期が表に出やすくなります。
ただ真夏では上空まで暖かくなるので下降流が降りずに、内陸の日中ではジトっとした暑さになります。
風がないと熱中症の危険が高まるので注意が必要です
(さらに気温35℃以上での風は熱風となり冷却効果がありません)。
Q2:「空気が膨張すると温度が下る」というのがピンときません。
圧力と体積と温度の関係は、熱力学の第一法則、すなわち膨張のための仕事のエネルギー=熱エネルギーという関係です。
これを実感できるのが、圧縮空気が入っているスプレー(エアーダスターなど)です。
スプレーを噴射すると、缶が非常に冷たくなりますよね。
缶の中は圧力が減った分、中の圧縮された空気が膨張し、それに使用したエネルギーが熱エネルギーの減少となっているのです。
Q3:成層圏には水蒸気量が少ないために温位の変化があまり無いように思えるのですがどうなのでしょうか?
温位は、「空気塊の中で水蒸気の凝結が起こらない限り(=乾燥断熱変化)保存される量」(≠相当温位)と説明されることから、水蒸気がほとんどない成層圏の上部でなぜ温位があがるのか(もしや水蒸気の凝結が起こっているのか)、ということですね。
実際、成層圏下部では等温層になっています。
温位=温度+標準大気圧への断熱圧縮による昇温分
と解釈すると、
まず対流圏上部は右辺の左項の温度は低いものの、右項の効果によって地上の気温より温位が高くなります(静力学的=鉛直的安定を示しています)。
大気の鉛直分布図では、成層圏上部は対流圏上部と違って温度そのものが高くなっています(当然温位も高くなります)。
それは、水蒸気以外の要因によるもので、成層圏内のオゾン層による紫外線(太陽エネルギー)の吸収です。
つまり成層圏の温度分布は、水蒸気とは別のオゾンによる影響なので、水蒸気との関係だけを言及した上の温位の説明では疑問となるのも無理ありません。
気象予報士レベルでは、温位はエマグラムのような対流圏内での問題のみに使うので、上の説明でよいのでしょう。
ちなみに成層圏には、「準二年振動」や「突然昇温」などの固有の現象があり、これらは対流圏にも影響し、また予報士試験にも出ます。
Q4:対流圏上層では温位が下層より高いというのがピンとこないのですが。。。
逆に言って、上空の空気は一般的に冷たい=重いのになぜ下降してこないのでしょう。
この現象の方が不思議でないですか?
中途半端に冷めた浴槽は、上ほど温かく、下ほど冷たくなっています。
これが本来の温度成層です。
大気も上が温かく、下が冷たい時に「安定」しますよね。
「不安定」な場合は、安定化するために対流が起こりますよね。
以下、予報士受験生のバイブル 小倉義光氏の『一般気象学』の第二版では50-54ページを参照しながら読んでください。
温位というのは、温度のような実測値ではなく、気体の内部エネルギーのポテンシャル(潜在性=実現していない状態)量(正確には温度+ポテンシャル量)です。
たとえば落下という運動エネルギーを実現していない上空の物体や水力発電用のダム湖の水は、
落下した場合の運動エネルギーに相当する位置エネルギーというポテンシャルをもっています。
温位はどういうポテンシャルかというと、その気塊を1000hPaの気圧まで下げた場合に実現する温度です。
なぜそうなるのかは、熱力学の第一法則によります。
すなわち、Δ熱量=Δ仕事量+Δ内部エネルギー(温度)という式 Δは増分という意味
気体は気圧(圧力)が低いと膨張します。
この膨張による容積の増大が仕事量です。
熱力学の第一法則は、予報士にとっては、熱量の加減(外部から暖められる・冷やされる)がない断熱変化の場合、気塊が膨張すると内部エネルギー(温度)が減少すること、と理解します。
今、地上の気塊を対流圏上層に持上げたとします。
すると乾燥断熱変化によって、温度は下ります。
なぜかというと、上昇によって気圧が下るため、膨張という仕事を余儀なくされるために、断熱変化なので左辺は一定(Δ増分=0)なので、内部エネルギーがその分減少するからです。
なので、上昇した空気は低温になりますが温位は変化していません(温位は高度=気圧の変化に対して保存量)。
では今度は、上空の空気を乾燥断熱変化で地上1000hPaに降ろしてみましょう。
すると断熱変化なので左辺は一定で、圧縮という負の仕事によって、その分内部エネルギーが増大します。
これが「断熱圧縮による昇温」というやつです。
でも温位は変化していません。
気塊が上下しても温位が保存量であるのは、断熱変化だからです。
では実際に上空にある冷たい空気はなぜ温位が高いのでしょう。
大気の成層は安定した状態ということです(静力学的安定)。
すなわち上空ほど、圧力がひくいため、膨張した(気体密度が低い)状態になっています。
膨張しているので、ポテンシャル的には、すなわち1000hPaまで断熱圧縮した場合(可能性的)には、高い温度になる能力=温位をもっています。
地上付近、たとえば実際の1000hPaの空気は、当然ながらポテンシャル部分は0なので、温位=温度です。
もし、地上に周囲より温かい(=温位が高い)空気があれば、断熱上昇、すなわち温位を保存して、上昇します。
また上空に冷たい空気(=温位が低い)があれば、やはり断熱下降、すなわち温位を保存して、下降します。
その結果、上空には温位の高い空気が集まり、下層は温位が低い空気が集まって、これが安定した成層となるわけです。
気温ではなく、熱力学の第一法則による変動を含んだ温位でみることによって、上層は高温・下層は低温という「安定」が実現されているのがわかるのです。
これで温位(乾燥断熱変化、鉛直断面図の解釈)が理解できたなら、次は「相当温位」(湿潤断熱変化、梅雨時期の850hPa面)の解釈も必要です。
Q5:約2平方メートル四方で、沢山の野焼きをし、周囲は高温になる。気温は、約23度、瞬間最大風速6.5m/s
この環境で、つむじ風が生じる現象はありえますか?
A:渦状のつむじ風は、「雲のない晴れた日に地面が熱せられて生じた上昇気流が、まわりの風に風向や風速の違いがあるときに渦を巻いてできる」と言われています。
なので原理的には可能性はありますが、2平方mだと炎や煙が渦を巻く程度の微小な規模の渦しか発生しないはずです。
運動会の季節に学校のグラウンド規模などでつむじ風が発生します(あと大規模火災)。
「角運動量保存の法則」によって、大きな気塊が小さい回転体に収束する場合に強い渦が発生するためです。
あるいは、ビルや地下道の入口のような内外の気温差のある狭い開放空間で、そこが風の通り道になる所だと、そこだけ強風になります(渦にはならない)。
その風が一般風と同じ方向だと一方向の強風となり、しかもかなり持続します。
この問題を詳しくみるには、さらに当時の天気(日射)と一般風の風向、野焼きによる上昇流の方向(水平面・鉛直面での)の情報が必要です。
A: 「雲が近い」と感じたのは、最上位にある巻雲が低いためでしょう(飛行機だとすぐ頭上に見える)。
地球では緯度が高くなる(極地に近づく)につれ、地上の空気が冷たく=重くなって、 空気を上昇させる力がなくなるため、
対流圏と成層圏の境である「対流圏界面」が低くなります。
すなわち、緯度が高いほど、雲を発生させる「対流圏」の天井が低くなる(対流圏が厚さが減る)ので、 積乱雲の頂上や巻雲も高さが低くなります。
逆に言えば、雲が一番高く(遠く)見えるのは対流圏が厚い赤道地帯です。
ただ以上は緯度の違いによる説明なので、例えば北緯と南緯がほぼ等しい日本とニュージーランドの比較には使えません(季節は正反対なので、季節による対流圏の高さの違いはあり得る)。
ちなみに積雲など低い雲の雲底の高度は、大気湿度と気温で決まるので、ニュージーランドと日本の差はありません。