明日のない愛の関係は薬物のよう。そこから抜け出そうとする人の気力を愛という薬物の重力が人を縛りつける。愛は人に安らぎを与える薔薇の香り、しかし同時に心を乱れさせるアヘンの煙ともなる。
「ブエノスアイレス」はゲイカップルの物語りである。女性でいうなら悪女的ともいえるウィン(レスリー・チャン)、しかし本当は切ないくらいにファイ(トニー・レオン)を愛している。だが、ウィンの愛情表現は気まぐれで傍若無人。それはファイの気持ちををただ振り回すばかり。そしてそれはファイの心を擦り切れさせてゆく。
ファイは云う「出会ったことを死ぬほど後悔する」と。それは男女間にも同様に起こる愛のすれ違いによる心の磨耗。この関係の果てには、落ちてゆく『滝』のように何もない。そんなことはわかりながらもその関係から抜けれないファイ。
アルゼンチンの旅の途中で知り合った香港人の二人
何度も繰り返すすれ違い
やり直すために
二人で「イグアスの滝」へ向かう
そこでもまたおこる衝突
そしてそれが何度かめの別れとなる。
時をへた「ブエノスアイレス」で二人は偶然出逢う
ファイの部屋に傷ついたウィンがころがりこむ
しかし怪我から回復するにしたがいウィンはまた外出しがちになる
そんなウィンにファイの心は揺れ乱れる。
ファイの心を和ませるのは
同じ職場のチャン(チャン・チェン)
チャンは云う
「僕の耳はいい。声だけで相手がどんな人だとか何でも分かるんだ」。
しかしやがて旅人のチャンは
「世界の果てが見たい」と南米の最南端を目指して去ってゆく。
別れの夜、チャンはカセットテープにメッセージを吹き込むようにとファイに云う
彼の悲しみを捨ててくれるというのだ。
最南端の岬に着いたチャンは
ファイの吹き込んだテープを聴く
しかしそこには彼のメッセージはなく
ただ、すすり泣く声だけがあった。
そしてファイは香港へ帰る決心をする
彼は一人「イグアスの滝」へ向かう
最期に何かを捨てるために。
残されたウィンは泣き崩れる
なくしたものに気づく。
最初はいきなり男同士のベッドシーンから始まりぎょっとするが、次第にゲイ同士の愛の物語であるとは完全に忘れ、観るものはこの物語のもつ世界観に入り込んでしまう。
人は何がしら抜けだすことのできない何かを抱えている。明日の見えない恋愛関係、すれ違う人間関係、何かしらの悪しき習慣・・・それは薬物のように出口のない部屋に人を閉じ込めてしまう。幸せになるためには、そこから抜けだす痛みが常に伴う。だが、何かを捨てたとき、何かが見えてくるということがあるのだ。
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- ★『生きる』 黒澤明監督作品 【日本】 8ヶ月前
この映画で王家衛監督は、カンヌ映画祭で中国人監督として初めての監督賞を受賞した記念すべき映画。
ふと現れては、ふっと消え、失った時にその存在の大きさを改めて痛みとして気づく存在。
細かいところをすっかり忘れてしまっていたので、もう一度見てみます。
私のつたないブログにコメントをありがとうございました!! これからもyanさんの記事楽しみにしています。
yanさんのいただいたコメントが気になってこちらへ飛んでみたら「ブエノ~」の記事がアップされてたんで驚きました。
素敵なレビューですね。
ファイがテープに言葉を吹き込むシーンはカーウァイ監督がトニーに好きなようにやってくれって、アドリブで撮ったシーンならしいです。
言葉が出ずに自然に涙がこぼれた、それだけトニーは、ファイの気持ちに移入していたんでしょうか。
なんとも切ないシーンです。
>幸せになるためには、そこから抜けだす痛みが常に伴う
ぐっとくる言葉です。この映画のテーマですよね。
私にはうまく伝えられる言葉が出てこないんですが、私にとって思い入れの深い作品です。
ヤンさんのレビューにとても心を打たれました。ありがとうございます。
ありがとうございます。英語のタイトルHappy Togetherというのは、暗示的ですね。なかなかいいタイトルだと思います。王家衛監督の作品はどれも独特の感性がありどれも魅力的だと想います。特にこれといった展開はないのですが、繊細なニュアンスに惹かれます。
どうもありがとうございます。トニーレオンの切ない雰囲気が始終溢れ、(僕はゲイではありませんがw)細かに揺れるその感情に共感を覚えました。
この映画は人にその良さを伝えるのが難しいなとも思います。揺れるその感情が最初から最期までその中心になっているので。
レスリーの魔性の男っぷりが良いです。
どこかのサイトで「ウィンは、すごい麻薬のようだ」とあったけど、本当にその通り。
トニーの困った顔とテープの泣き声を吹き込むシーンも良かったです。ゲイ映画なのにカーウァイ作品では、「ブエノスアイレス」が一番切なかったように思います。
レスリーチャンとトニーレオンは男から見てもいい味もってるなあと思います。(ちなみに、僕はHGではありませんがw)。役者って凄いなあとこの作品みてつくづく思いました。
もう大丈夫なのですが、父が入院してバタバタしていたもので、こちらにおじゃまするのが遅くなりました
この映画はどう考えても切ないストーリーなのに、私は観る度に何故か元気になってしまいます。そしてウィンが今でも、ブエノスアイレスの街をウロウロしているような気がして…
コメントありがとうございます。ご家族の入院大変でしたね。
僕が思うに、どちら(トニーレオンかレスリーチャン)のどちらに視点をおくかで、ハッピーエンドかその逆か異なるように思いました。英語タイトルのHappy Togetherは少し皮肉につけたような気がしました。