谷中優の部屋(音楽教育・創作表現・文化・芸術・出版等)

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日本の戦争と平和について ・・8月の終戦記念日によせて

2021年08月05日 | 社会
日本における戦争と平和について
1. はじめに
2020 年 8 月 15 日は我が国の 75 回目の終戦記念日であった。それに先立つ 8 月 6 日の広島、続く 8 月
9 日の長崎において、それぞれ 75 回の原爆忌を迎えた。1945 年 8 月の原子爆弾(以下「原爆」と記す)投
下は歴史上類を見ない大惨事を引き起こし、原爆によって永く今に続く肉体的精神的苦痛・苦悩を背負
うことを余儀なくされた多くの人々がいた。それは地獄の苦しみであったであろう。現在なお被爆の苦
しみを背負いながら生きている人々、そしてその煉獄の中で亡くなっていく人々が存在している。
原爆の被害は、当時の人口/広島 350,000 人に対して死者 140,000 人、長崎 270,000 人に対して死者
70,000 人、合計 210,000。重軽傷者は広島 83,000 人、長崎 75,000 人、合計 158,000。死傷者の合計は
広島 223,000 人、長崎 145,000 人、合計 368,000 人。被害戸数については広島 67,400 戸、長崎 18,000
戸、合計 85,900 戸である。1 昭和 20 年のこの年、原爆によってこれだけの被害を受けたとある。
しかしながらこの被害数は正確なものではなく、例えば広島においては 1945 年 11 月 30 日に県警本
部が調査を指示し、12 月中旬、県内の原爆人的被害として下記のようにまとめた。この調査では県内に
いた軍関係者はカウントされておらず、今に至るも正確な全体像は不明である2。(一説には 10,000 人の
誤差があるともいわれる)
死者/78,150 人、重傷/9,428 人、軽傷/27,997 人、行方不明/13,983 人、災者/176,987 人、
合計/306,545 人
新しいところでは 2019 年 8 月現在、原爆による死亡者数(死没者登録数)は、広島 31 万 9186 名、長崎
18 万 2601 人、合計 50 万 1787 人3であり、これは被爆の後遺症で亡くなった人々を加えた数字で、その
数は毎年増加している。
例年 8 月になると、原爆忌と終戦記念日をきっかけに「戦争と平和」について、主に第二次世界大戦
(太平洋戦争・大東亜戦争)資料をベースにした議論と考察が行われるが、年とともに新しい資料(歴史的
事実)が発掘され、前の戦争とはどのような実態で、どのような意味があったのか、そしてまた、それが
現代に生きる我々を含む世界にどのような影響を与えるのかを問いかけている。
本論では我が国における第二次世界大戦終結前後に視点におき、「平和」「原爆」を根底にしつつ、2020
年 8 月現在におけるこれらの新聞・テレビ等マスメディアの報道や新しい資料に目を向けながら考察を
深化させ、現代日本が国際社会の中で歩むべき道について結論(提言)を導き出したいと考える。
2. 戦争と平和を考える
(1) 第二次世界大戦の終結と原爆について
第二次世界大戦と終結に関わるその前後の多々の複雑な出来事はここでは割愛する。但し「何故原爆が
投下されたのか」との問いに関しては端的に「連合国側が日本の戦争終結を早める目的で原爆を使用し
たのである」と述べておきたい。
この原爆計画と実行はアメリカによるものであった。大戦下の連合国側は、戦争被害の拡大を阻止する
ために早期の戦争終結を目指していた。日本も同様に早期停戦(但し連合国軍とは別の思惑による)を模索
していたが、国内の一方では戦争継続論が主流となり、頻発する大空襲や沖縄陥落で国土が悲惨な状況
にあってもなお、1945 年 7 月 26 日に英・米・中が日本に提出したポツダム宣言文書を無視し、徹底抗
戦=戦争継続の道へと突き進んでいくことになる。そうしてその結果が最終的に原爆の被害をもたらした
と言えなくもない。
特にアメリカの決断は日本本土(以後日本と記す)への直接攻撃がその手段であり、それは 3 月 10 日に
始まる東京大空襲(80,000 人から 100,000 人の死者が出ている)をはじめとする大阪、神戸等の 6 大都市
や多くの地方都市への、列島への無差別攻撃=空襲とともに、沖縄への陸海による実戦部隊の投入であっ
た。そうしてその最終的手段が原爆投下であり、これをもって一気呵成に戦争終結に持ち込もうとした。
日本がポツダム宣言を受諾したのは原爆投下後の 8 月 14 日の事である。翌 15 日正午、昭和天皇によ
る玉砕放送によって日本の敗戦、戦争の終結が全国民に周知され、ここに長く続いた戦争は終焉を迎え
た。しかしポツダム宣言の受諾を決定付けたのは原爆が直接的要因ではないことはその後明らかになっ
ている。
1941 年 4 月 13 日に調印された日ソ中立条約(日ソ不可侵条約)を一方的に破棄し、1945 年 8 月 9 日未
明、ソ連が日本に対し参戦したことで日本は動きが取れなくなり、ついに無条件降伏を受け入れざるを
得なくなったこと、つまりソ連の参戦がポツダム宣言受諾の第一の要因であった。
(2) 原爆とは
ところで投下された原爆とはいかなるものであったのか。本項ではその一部を、長崎を例に下記に引
用(抜粋)する。ここでは原爆投下直後の現象のみが述べられている。
「爆発と同時に摂氏数千万度の火球が発生、体積が急速に膨張特に人体への熱傷は爆発後の 0.3 秒か
ら 3 秒までの間においての赤外線であった。一説では地上物質の表面温度は直下では 3,000~4,000 度
にも達したと推定。衝撃波と気圧変化は爆発直後異常な速さで衝撃波となって広がり物を破壊し押し潰
した。爆風は爆心地からの距離 0 km では最大風速(秒速)440m、同 1.0km では 160m、2km では
60m、3.0km では 30m、3.5km では 26m。原子雲の上昇速度は爆発約 30 秒後では 3,000m、同 8’30 秒
後で 9,000m の高さまで拡大。」4
(3) マスメディアにみる回顧と真実
ここでは今年 8 月の新聞・テレビの報道を幾つかピックアップすることによって、現状と新しい情報
(戦争体験の真実)の一部に迫りたいと思う。
(3)-1 広島・長崎の原爆忌
8 月 5 日読売新聞朝刊には「戦後 75 年 終わらぬ夏⑤」体験談が掲載されている。これは毎回異なっ
た人物による証言が連載される。社説には「惨禍の記憶を途切れさせまい」の見出しで原爆忌について述
べている。
他にも戦争関連の記述は多いが、同紙 27 面の「公文書焼却 負の歴史」は、国からの指示を受けて戦
争関係の多くの公文書が焼却されたことが述べられている。この事実は今回の戦争の多面的検証と次代
に繋ぐべき真実に暗い影を落としていることは残念なことである。
翌 6 日夕刊は「75 回目原爆忌 核廃絶への連帯 広島訴え」の見出しで平和祈念式典の様子が報じられ、
新型コロナウイルスの影響で約 800 人に限定された参列者により進められた。NHK テレビ放送番組を
はじめ他局のニュース番組も同様に式典を報じている。なお NHKBS1 ではその日国際報道番組にて「原
爆投下後の未公開写真」が提示されている。
またこの一年間の被爆者の死亡は 1943 人、死没者 324,129 人となり、全国の被爆者(被爆者健康手帳
所持者)は 3 月末現在 136,682 人となっている。
8 月 9 日の「長崎平和祈念式典」は「被爆 75 年・長崎の祈り 核なき世界を目指して」(NHK)のよう
な見出しで各局が報道。NHK スペシャルでは「渡辺恒夫・戦争と政治 戦後日本の自画像とは」と題し
て特番を組んでいる。BS-TBS では「THE 歴史列伝 悲劇の戦艦大和」を放映。毎回他の戦艦「武蔵」等
をシリーズで特集している。
10 日の朝刊には「核なき世界へ誓う 75 回目長崎原爆の日」の見出しで長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念
式典が報じられている。広島と同様、新型コロナウイルスの影響で参列者を約 500 人に限定しての式典
であった。その他原爆関連の多くのテレビ報道がなされた。
なお 31 面に次のことが報じられている。日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の各都道府県単位の加
盟団体は、被爆者の高齢化等によって 6 県が解散、残る 41 団体の内 1 件は休止状態、1 件は年内休止な
るという。被爆体験をどのように継承していくか今後の重い課題となっていることは憂慮すべきことで
ある。
(3)-2 8 月 15 日終戦記念日
当日の社説には「戦後 75 年 国際協調維持へ役割果たそう」の見出しで戦争の記憶を伝え、現在の社
会状況の不安定さを憂慮するとともに、アメリカに依存するだけの現行の防衛論に警告を発している5。
4 面には各党の談話があり、「戦後 75 年」シリーズは戦後から現在に至る歴史考察を継続している。
その他多くの新しい個々の記憶の発掘が掲載されているが、「遺族会高齢化で解散 各地で相次ぐ」に
続く「記憶残す行事必要」の見出しは、戦後 75 年目の戦争の記憶の風化の兆しを感じさせている。夕刊
では「終戦 75 年 平和を誓う 戦没者追悼式」の見出しでその様子を伝えている。
翌 16 日朝刊では 15 日の全国戦没者追悼式について「戦禍 次代へ語り継ぐ 戦後 75 年」の見出しで大
きく報じ、社説では「平和と繁栄への犠牲忘れまい」の見出しで戦争認識やコロナウイルスについても触
れ、先の戦争については「経験が風化しないよう、語り継いでいく取り組みがますます必要となる」と結
んでいる。
前後するが 8 月 15 日には TBS 系 TV で特別番組「女性たちの戦争」が放映。21 日 NHKBS1 で「果
てしなき殲滅作戦 日本本土上陸作戦」の放映を始め、テレビ、新聞、インネット等多様なメディアによ
って戦争に関連した多くの回顧や新事実が紹介されている。

3. 終わりに
戦争と原爆を考える時、大戦によって我が国の軍人・軍属約 230 万人、民間約 80 万人が亡くなった
事、また原爆では終戦当時 GHQ の対応は被災者の一切の救済に向けた治療をすることなく、科学的デー
タの収集に徹し、非人道的な行為を貫いた事実が頭をよぎる。
2019 年末現在、世界 9 か国では次に示すように合計約 13,865 発の核兵器が保有されているという。
(米 6,185 発、露 6,500 発、仏 300 発、中 290 発、英 200 発、印 130-140 発、パキスタン 150-160 発、
イスラエル 80-90 発、北朝鮮 20-30 発)
2020 年 8 月現在、日本は日米安全保障条約によってアメリカの核の傘の下にいる。それはある面メリ
ットを持つが、現在に続く沖縄の問題という大きなデメリットや、唯一の被爆国であるにもかかわらず
今なお核兵器禁止条約の批准さえ渋る有り様等は、世界平和に向かう国際社会に対する責任の放棄と見
なされても仕方あるまい。(因みに署名国 84 か国、批准国 44 か国であり、アメリカ、ロシア等大国の一
部は参加していない)
6
戦争体験と同時に、世界で初めての被爆国となり、原爆の悲惨さ、恐ろしさを、身をもって体験した
我々日本人は、今後世界の中でどのような歩みをしなければならないのか。そして我々に課せられた使
命とは何なのであろうか。
奇しくも 2011 年(平成 23 年)3 月 11 日に発生した東日本大震災は、津波とともに福島第一原子力発
電所事故を引き起こして未曽有の被害を発生させた。ここに永年の「原子力はクリーンで安全である」と
いう神話は脆くも崩れ落ち、世界は脱原子力の方向に傾いたものである。既に 1986 年 4 月にはチェルノ
ブイリ原子力発電所事故が発生し原発の脅威を世界に示していたが、日本はその脅威を大勢として理解
し得なかったことは残念である。
今日、世界はカオスの状態にある。アメリカに代表される自国第一主義の台頭、ロヒンギャ問題やアメ
リカの人種問題等に見る排他的差別の蔓延、中国・ロシアの多面的侵略的行為、北朝鮮の拉致問題や核の
脅威等に加え、今だ収束の兆しの見えない新型コロナウイルスの死者数は 82 万 180 人7にのぼっている。
日本においては前述の事項に加え日米安保による沖縄の問題や災害復興、インフラの整備等枚挙にいと
まがない。これらの諸問題に対し解決に向けた積極的な取り組みが今こそ必要であり、求められている
と考える。
最後に 8 月 6 日松井一実広島市長並びに 8 月 9 日長崎市長・田上富久両氏による平和宣言は、ともに原爆の廃絶
と連携、恒久平和の実現を誓い、全世界に訴えていることを胸に刻みたい。
【注】本論のネットからの参考文献や注釈は公的機関の HP もしくは出典が明確なものに限って掲載した。
<参考文献>
Wikipedia 日本の降伏 http://wikipedia.org/日本の降伏 2020.8.23
Ibid.日本本土空襲
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%9C%AC%E5%9C%9F%E7%A9%BA%
E8%A5%B2 2020.8.26
読売新聞(朝刊・夕刊)2020.8.5~同 8.27
ポツダム宣言について 朝日新聞朝刊 2015 年 06 月 28 日
「日ソ中立条約」の名称 レファレンス共同データベース
https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000076398
(提供/福井県立図書館) 2020.8.26
特集 戦争の代償と歴史認識 https://iwj.co.jp/wj/open/archives/161708 2020.8.27
外務省 軍縮・不拡散
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000041393.pdf#search='%E6%A0%B8%E3%81%AE%E4%BF%9D
%E6%9C%89%E5%9B%BD%E3%81%A8%E6%95%B0' 2020.8.29
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/52629 2020.8.29
朝日新聞デジタル社説 https://www.asahi.com/articles/DA3S14581407.html 2020.8.29
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A6%8F%E5%B3%B6%E7%AC%AC%E4%B8%80%E5%8E%9F%
E5%AD%90%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB%E6%89%80%E4%BA%8B%E6%95%85 福島第
一原子力発電所事故 ウィキペディア
チェルノブイリ原子力発電所事故
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%8E%E3%83%96%E3
%82%A4%E3%83%AA%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB%E6%89
%80%E4%BA%8B%E6%95%85
1 広島・長崎の記憶 被爆者からのメッセージ 長崎の声 https://www.asahi.com/hibakusha/nagasaki/n02-00010j.html
2020.8.24
2 http://www.hiroshimapeacemedia.jp/abom/97abom/peace/07/shisya.htm 2020.8.25
3 原爆による死没者数、50 万 1787 人 https://charitsumo.com/number/7663 2020.8.25
4 日本の原子爆弾投下 https://nagasakipeace.jp/japanese/atomic/record/scene/1102.html Wikipedia 2020.8.27
5 1950 年評論家・馬場恒吾の言 読売新聞社説より 2020.8.15
6 核兵器禁止条約(Treaty on Prohibition of Nuclear Weapons(TPNW))の署名・批准の状況(2020 年 8 月 25 日時
点)核兵器禁止条約の署名・批准の状況 国際平和拠点ひろしま https://hiroshimaforpeace.com/status-tpnw/
2020.8.29
7 8.27AFP AFP https://www.afpbb.com/articles/-/3301264?pid=22603046 2020.8.30


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