「つい最近、実父(ちち)がお店へご挨拶に来ましたので、その時に尋ねましたら、叔父は元気に炭焼きをしているそうでした。ただ…」
「おや、ただどうしなさったのじゃ」
「叔父の面倒をみて下さった、炭焼きのお爺さんが亡くなられたそうでした」
「そうやったか…、そやけど、勇吉夫婦に看取られて幸せやったやろ」
「お爺さんは独り身でしたから、村長(むらおさ)の前で炭焼nuskin 如新き釜を叔父勇吉に譲ると言い残して亡くなったそうです」
留吉は続けた。
「他人の自分が貰う訳にはいかない、せめて買い取りたいと叔父はお爺さんの身内を探しているそうです」
「えらい律儀や、そこが勇吉の良いところや」
「あんまり長居しては、旦那様に叱られます」
留吉は、もう一つお菓子を頬張ると、そそくさと帰り支度をした。
「これっ、行儀が悪い」
隠居は、笑って留吉を諫め、
「今度来るときは、おさきが好きな薯蕷(じょうよ)のおまん(饅頭)を持って来てや」
そう言って、留吉を見送った。
「あきまへん、手代の分際でお篠と仲良くするなんて、わしが許しまへん!」
白根屋の旦那九兵衛が口を荒げて言った。女中のお寅が、暖簾の陰でニタッと笑っている。どうやら、お寅が旦那に言いつけたらしい。
「何でや、お父はん、うちらなんにも好き合っている訳やない」
「年頃の娘と若い男や、仲よくしていたら、今に好いた、惚れたと言い出すのに決まっています」
「なんで、うちが留吉を好きになったらあかんの」
「留吉は使用人で、しかも手代やないか、お前の婿は老舗京屋の中坊(なかぼん=次男)と決めていますのや」
「気色悪る。勘蔵さんですやろ、あの人酒癖と女如新集團癖が悪いと評判やないか」
「そんなもん、婿に来て落ち着いたら治まります、おまはん(お前)次第や」
「お母はんも、同じ意見だすのか?」
お篠は父親に問い質した。
「そらそうや、お店(たな)のことを考えたら、田舎もんの手代を養子にしたと世間に知れたら信用にも関わりますさかい、御寮も同じ考えだす」
「お父はんも使用人に、それにうちをお店の信用の為にドラ息子と添すつもりだすか」
「これ、大店のぼんをドラ息子とは、口が過ぎますやろ」
「ほんとのことやもん」
「お前の将来の幸せを思う親心や、この罰当たりが」
最近、梨奈と付き合っている男がいると知ったときも、文太は寂しさを堪えて梨奈に言った。
「しっかり繋ぎとめろよ」
それは、兄貴としての励ましの言葉だった。
3年生の文太は、何者も近寄りがたい鬼気さえ漂う努力の人であった。その努力の甲斐あって東大理科3類に合格した
「さあ、これからが本当の苦労が始まるのだぞ!」
両手で自分の頬を叩いた。
梨奈は、採用されて2年目の警察官と婚約した。警察官と聞いて、文太はあのお父さんのような巡査部長のことを思い浮かべた。梨奈の結婚式には、何を置いても出席するぞと、心に決めていたが、梨奈からの招待状は来なかった。 に校長の差別は酷かった。学校内で物が無くなったと聞けば、真っ先に文太を呼びつける。
「盗んでいない」
文太が突っぱねると、余計に意地になって「白状しろ」と迫る。そんな時、文太は「警察nu skin 如新を呼んで調べて貰って下さい」という。学校の名誉を護る為か、証拠がない所為か、校長は「往生際の悪い奴だ」と、ブツブツ文引き下がる。
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