東京タウンウォッチング情報 & 経営コラム 「経営コンサルタント・安岡裕二」の情報とヒント

ホットな街、店の現場から“時代”が見えるタウンウォッチング。経営に関連するヒントを独善的に“切る”短文のコメント。

高齢者の楽園を目指す 栃木那須塩原の「芦野温泉」物語

2012-03-25 21:50:34 | おもてなしの心
高齢者の楽園を目指す 栃木那須塩原の「芦野温泉」物語


栃木「芦野温泉」物語



 
栃木の芦野温泉が、高齢者に絶大な支持を集めて連日賑わっている。その成功要因と次なる課題を考えてみた。
 3つの成功要因 
①“高齢者の楽園”というビジョン
②歌振り座「楽芸会」の超人気イベント
③徹底した“口コミ”のマルチメディア作戦

 ①“高齢者の楽園”というビジョン 
「経営者は、“高齢者の楽園”という夢を持ち続けている」(支配人)という。このキーワードは、コンセプトというより、「ビジョン」というに相応しい。なぜなら、従業員全員の行動規範にもなる、犯しがたい奥深い重みを持っているからである。それは、ターゲットを高齢者に絞った、徹底した優しさ、親切心、心配りになってアイデアを生み出す。例えば、騒がしい子連れを避けるため未就学児童のお客様お断り、膝、腰の痛みを和らげる薬草の湯、浴槽の縁に矢倉の形の手すり(*ここに掴まりながら浴槽に入ると極めて具合がよい)、石状の滑らない床タイルや浴槽床、寒い時期のほんわか暖かい毛糸の靴下「ちょいばき」(*使い捨てとあり迷わず貰って帰れる、ウラ面に“冷えは萬病の元”とある)、エレベーターの中に椅子(*ここまでヤルか)など。
高齢者にとって静かな環境こそ極楽、自然の裏山を借景にした露天風呂(*ここにもBGM)、はしゃぐ子供もおらず全館に流れる喜多郎らしき“癒し” のBGM、女性に優しいテーマカラーのワインレッドで統一した内装、木を主体にした落ち着く建築、内装、浴室に日本人の庭園感覚(木や石、花、水など自然を取り込む)、地元名工の手による石仏などの文化施設などなど…きりがない。
料理も、魚介類は毎日築地直送で鮮度を重視、勿論「使い回し懐石」と称する日本料理、朝食も手書き文字の献立表をつけている(*サービス係の名前を入れているあたり憎い)、サービスにつく珈琲とひとくちおはぎの“こだわり”にも脱帽モノでした。
   
②歌振り座「楽芸会」の超人気イベント
月一度「楽(ガク)芸会」と称するお芝居がまた、絶妙、爆笑の渦。番場の忠太郎ならぬ「芦野の忠太郎」こと、支配人の高久さん扮する「瞼の母」、出演する役者が全員従業員というから大したものである。素人のやる田舎芝居では失敗する…という声をよそに、遠く関西からもお目当てにやってくる名物行事に育った。おっかさんにひと目会いたい流れ者の忠太郎が、客席の方に向かって「おっかさーん」と叫んだら、「ここにいるよー」と混ぜっ返す声有り、館内爆笑!! これで「掛け合い芝居」の形、手応えが出来上がったという。掛け合いする方も堂に入ったもので、笑劇といった雰囲気が楽しい気分を盛り上げてくれる(*「芦野温泉~小さな物語」より・現代書林社1050円)。前段では、お客様と一体になった「故郷」の合唱やフラダンス、踊りなどがある。その他、花火大会、盆踊りなど地元行事への参加、滞在客へのウォーキングガイドなど楽しみを提案している。

 

③徹底した“口コミ”のマルチメディア作戦
芦野温泉は、いわゆる温泉場ではない。創業が1966年でテニス合宿施設としてスタートしたものである。その後、1984年の掘削で温泉を掘り当て、1996年「ホテル温泉館」としてオープンしたのが、温泉の始まりだったというから約16年、まだ若いと言える、この地にただ一軒の温泉なのである。この間幾多の苦労があったと思うが、大規模テニス合宿施設は縮小、別荘地として分譲を続けながら、芦野温泉の浴場施設拡充、宿泊施設新・改築(シングル館、本館)、関連商品の通販、娯楽・文化施設など積極的に投資を続けて今日の完成形に至っている。
経営としては、何と言ってもお客様を増やす事が第一、そこで選んだマーケティング戦略が商売の王道である“口コミ”に徹することだった。宣伝媒体として、栃木テレビのお客様出演、朝日・読売新聞広告、郵送DMなど“お客様の声”を実名で掲載、又、お客様の熱狂的支持を得ている個性が、地元新聞、全国テレビ、雑誌などに取りあげられ、パブリシティ効果を発揮している。
客が客を呼ぶというが、館内至る処に来館したお客様の感想文入り写真を掲示、今では1500人の方が掲示されているとの事。いや、もう壮観としか言いようがありません。忠太郎を演ずる支配人は、1000人のお客様のお名前を覚えているというから神業ですね。写真を掲示する事には初め抵抗があったそうだが、100人を超える辺りから薄れ、今では自分も是非撮って欲しいと申し出てくれる程になり、仲間に自分の写真を見せるために来館する方もいるとか。凄いですねぇ。
個人情報の管理も徹底、ホームページで法に触れないことを謳っています。

大きく3つに分けて、述べてみましたが、私の目にとまって釘付けになった掲示看板の文字、「こころの湯でありたい」  「年長者を無条件で敬う場でありたい」…以下略。
こころの湯でありたい…経営者の思いがこもっていますね。また、高齢者を無条件で敬う…“無条件で”というところが凄い。子供と同居せず(出来ず)疎遠になっていく現代社会、高齢者にとっては嬉しい言葉だ。高齢者を敬う、つまりは長幼序の儒教の精神ですね。凛としていいですね!
         
次なる課題(提案)
施設拡充の設備投資も終え、経営としての完成形に近づいているように見受けられます。しかし、経営は持続的成長を求めていく段階に至ってきたという認識が必要と考えます。
① 「3丁目の夕日」作戦へ
② 従業員満足(ES)と顧客満足(CS)のステップupによる顧客の創造
③ 社会的責任に目を向けて、安全、安心の追求

① 3丁目の夕日作戦へ
  月1回の掛け合い芝居「瞼の母」の絶好調が続いている。舞台背景は、母を慕う子の“義理と人情”の股旅ものである。大正から昭和にかけての世代の心情に訴えるものがあるのではないか。しかし、現代に立ち返ってみると、時代性のあるのは“戦後”の昭和レトロ感であり、今年から団塊世代65才の大量定年を迎える追い風がある。
提案は、この新高齢者に向けた「ALWAYS 3丁目の夕日」の心情を舞台にした芝居の開発と第2日曜の開催である。瞼の母が“義理と人情”を笑劇にしたものとすれば、3丁目の夕日は“絆と人情”を主題にした原体験の残る懐かしさと涙の感動劇である。
 経営は、常に伝統と革新のバランスにあると考えます。人気の定番品だけに頼っていては、いつの間にか“飽き”という大敵が潜んでいるかも知れない。新製品で次の新定番を創るのが定石である。伝統(瞼の母)=定番に対し、イノベーション(革新)=お客様の欲求を見つけ、新市場を創り出すという企業のミッション(使命)を充たす事にもつながります。
② 従業員満足(ES)と顧客満足(CS)のステップupによる顧客の創造
 数々のアイデアはいかにして生み出されているか? 「社長が発案する事が多い」(支配人)とのこと。多分、トップには「喜んで貰えることは何か」いつもお客様のことを考える“思い入れが強い”からであるまいか。お客様に直接接し、生の希望や不満を感じ取るのは従業員である。ここからカイゼンやアイデアの芽が生まれて来なくてはいけない。私は、全員が簡単なメモ用紙をいつも持ち歩き、お客様に言われたこと(良いことも悪いことも)をメモし提出、カイゼンに役立てる様にするのが良いと思っている。今の社会は、1人1人が知恵を出し目標に向かう、言ってみれば“新しいアイデア”(イノベーション)の競争になっている。しかも、一回り若い新定年組の高齢者の支持を取り付けられるかが成長へのカギとなる。芦野温泉はたった一軒で温泉場を創造した歴史をもつ。その時点で既にイノベーターである。トップダウンからボトムアップの経営へ、そして“お客様が参加して、高齢者の楽園を一緒に創り出す”そんな流れを創り出したい。お金ではない“1人1人の得意技を生かして、一緒に創る楽しさ”が生き甲斐となる従業員満足度の高い企業を目指すことである。簡単な事で、「笑顔」をモットーにしたり、「ありがとう」という言葉をどれだけ戴いたか?を顧客満足の指標にしたりとか、工夫は幾らもあると思う。
プロシューマーという言葉があります。トフラーという未来学者が書いた「第3の波」という本の中で、プロダクト(生産者)とコンシューマー(消費者)が一体となる“プロシューマー”時代が来ると予言しています。お客様が芦野温泉を良くするアイデアを出し、且つ消費する(楽しむ)…双方向型のサービス施設づくりが益々求められています。「瞼の母」の人気は、対話型の芝居になっているところに源があります。

③ 社会的責任に目を向けた安全、安心の追求
 3.11の大震災で人々の意識も変わった。国家に対する不信感が高まり、閉塞感が漂う世の中になった。将来への不安は増大する一方である。又、大企業の重なる不祥事も不信感を助長している。そんな中で、企業の社会的責任に人々の目が向かっている。身体に良いお風呂につかり、友達とお喋りを楽しみ、笑わせてくれるお芝居を観る…そんな芦野温泉は、既に“高齢者の楽園”の域である。現状に満足せず、お客様の背後にある不安を和らげることが第3の課題である。社会的責任と言って良い。高齢者にとっての“安心、安全とは何か?” 不測の怪我、病気に対する救急体制のネットワーク、安全な歩行路、歩行補助(手すりなど)の確保は勿論、身障者のお客様としての受け入れや雇用、など可能性を探る。食の安全も楽しみの要素として大きい。産地表示など可能なのではないか?

 以上 
※詳しくは 芦野温泉 ホームページからご覧下さい。
* 今日は、ハイテクの「初音ミク」と対極にあるようなローテクの事例を紹介しました。山の中の温泉かが人の心を癒すのが分かります。

 ドラッカーに学ぶ名店の条件(ドラッカー流×安岡流) に投稿しました。是非ご覧下さい クリック


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