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i 西加奈子

今年の本屋大賞ノミネート作品のうち未読だった1冊。日米国際結婚の夫婦の養子として育てられたシリア出身の主人公の成長を描いた作品だが、普通の子どもが大人へ成長するその心の動きのなかで、彼女自身の幸せな境遇に対する罪悪感が大きな影響を及ぼす。こうした罪悪感は、主人公だけでなく、今の日本人が何らかの形で持っている普遍的な感情のような気がする。それは、東日本大震災の衝撃と言っても良いが、生き残ってしまった自分への罪悪感だ。世界で起こっている様々な事件や災害の犠牲者の数を克明に記録し続ける主人公の姿は、どうしても自分を含む日本人のそうした感情と重なり合ってきてしまう。なお、アップル社の創設者スティーブ・ジョブスが、本書の主人公と同じように、シリア出身でアメリカ人の夫婦の元で養子として育てられたという話にはビックリさせられた。その事実があったからこそ、そうした設定にしたのだろうが、この事実こそが、本書に現実感を与え、かつ本書の読者に主人公の未来を信じさせる効果をもたらしている。ひとつの小説を読みながら、自分はジョブスの伝記も同時に読んでいたような気がした。それだけでも本書は凄い作品だと思った。(「i」 西加奈子、ポプラ社)

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