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ことばの番人 高橋秀実

何人もの校正のプロたちにインタビューをして「校正のあり方」を語ってもらうことにより、「言葉とは何か」を考えていくという内容の一冊。言葉というものの正誤は時代によって変化していくもので、彼らが参照する辞書の内容もそれに従って変化していく。ある校正のプロは、こうした変化を確認するために版や刷の異なる広辞苑を100冊以上、言海を270冊も所有しているという。そうした変化は辞書に載っている単語だけでなく助詞の使い方や表記の仕方にも及ぶし、さらに文学作品では、敢えて一般的ではない表記をしたり、確信犯的に間違った表記をする場合もある。また、言葉の使い方や漢字の表記は、行政によって効率化や教育的思惑から標準語という形で歪曲されることもある。こうした要素が、ある意味単純な間違い探しと思われがちな校正という作業の背景に無数に存在しているという。氷という漢字は本当は「ニスイに水」だった、校正の専門会社がある、AIに校正をやらせてみた、人体中での遺伝子複製の際に校正を担うDNAポリメラーゼという校正を行う仕組みがある、アメリカ占領軍から提示された日本国憲法案の日本語訳を巡る国会内でのやりとりなど、興味深いびっくりするようなエピソード満載の一冊だった。なお、本書は著者の遺作だが、あとがきに著者の奥さんの病気の話が書かれていて、人生どうなるか分からないものだと痛感した。(「ことばの番人」 高橋秀実、集英社インターナショナル)
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