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超人ナイチンゲール 栗原康

本屋さんで見つけた一冊。題名や表紙がただの教養書としての伝記と違う感じなので店先でパラパラとめくってみた。内容的にはクリミアの天使ナイチンゲールの評伝で間違いなさそうなのだが、どうも普通とは違う雰囲気を漂わせている。それが気になり、「まあ普通の伝記でもいいや」と思って読んでみることにした。読んでみて、内容、文章とも、予想をはるかに超える面白さ。面白さの半分は全く知らなかったナイチンゲールという人物の面白さなのだが、残りの半分は著者の独特の語り口の面白さだった。ナイチンゲールについては、まずものすごい大金持ちの出身ということにびっくりした。38名の部下を連れてクリミア戦争の戦場に赴いた際、政府からの支出や寄付金では資金が不足し1億円以上自腹で支払ったとのこと。彼女の実行力の背景には、手続きの面倒な公費に頼らず自分で即決できる金銭的な余裕があったということらしい。また、彼女の思想については、かなり大胆な神秘主義の持ち主だったとのこと。彼女の行動力の源泉は、善悪の判断、合理性、損得、更には主体性などではなく、ひたすら自分自身の直感だった。善悪は人によるよって異なるから、それに従うことは結局は教会などの権威に支配されることになるし、合理的か非合理的かの判断、損得も言い換えれば他人に左右されることになる。こうした考えを突き詰めていくと「主体的に行動せよ」ということすら、直感による行動の妨げになる。まさに、ニーチェの超人思想そのものだ。また、彼女が小説家でもあり、統計学者でもあり、発明家でもあったというのもびっくり。彼女の書いた小説に「次のキリストは女性だろう」というキリスト教徒とは思えない一節があり、これはこの著者のナイチンゲール像の見立てが正しいことを表しているように思える。ナースコール、配膳エレベーターは彼女の発明、カーディガンはクリミア戦争の際に負傷者の着替え用に考案されたなど、トリビアもたくさんで、大変面白い一冊だった。(「超人ナイチンゲール」 栗原康、医学書院)
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