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ダラダラ残業の対処法

2010-12-07 | 日記
Q13終業時刻を過ぎても退社しないままダラダラと会社に残っている社員がいる場合,会社としてはどのような対応をすべきですか?

 残業するように指示していないのに,社員が終業時刻を過ぎても退社しないまま会社に残っているのが常態となっていて,それを上司が知っていながら放置していた場合に,当該社員から,黙示の残業命令があり,使用者の指揮命令下に置かれていたなどと退職後に主張されて,終業時刻後の在社時間について割増賃金の請求を受けることがあります。
 使用者としては,その時に帰りたいと言ってくれればすぐに退社させていた,今になって残業代の請求をしてくるのは不当だ,などと言いたくもなるかもしれませんが,残業してまでやらなくてもいいような仕事(所定労働時間内でやれば足りるような仕事)であったとしても,現実に仕事らしきものをダラダラとしていたような事案で労働時間性を否定するのは,なかなか難しいものがあります。
 使用者としては,終業時刻後も不必要に会社に残っている社員に対しては,速やかに退社するよう指示すべきでしょう。

 近年では,残業するように言っても残業してもらえなくて困っているといった相談はほとんどありません。
 朝早く会社に出てきてタイムカードを打刻し,新聞を読みながら会社でゆっくり朝食を取って時間をつぶしたり,大して必要もないのに遅くまで会社に残ってネットサーフィンをするなどして時間をつぶして遅い時刻になってからタイムカードに打刻したりして在社時間を稼ぎ,退職後,未払残業代を請求する内容証明郵便が届いたといった類のトラブルが多くなっています。
 社員が,所定労働時間外に長時間,オフィス内に残っている状態は,使用者にとって「リスク」であるということをよく理解する必要があります。

 平成13年4月6日基発339号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」では,「始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法」として,以下の2つが掲げられています。

ア  使用者が,自ら現認することにより確認し,記録すること。
イ  タイムカード,ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し,記録すること。

 使用者が毎日,社員全員の始業・終業を実際に確認することが現実的ではない勤務形態の会社が多いでしょうから,タイムカード等による労働時間の確認・記録を行うというのが,原則的方法になるものと思われます。
 なお,タイムカードにより出社時刻,退社時刻を把握した場合,タイムカードに打刻された時刻が直ちに労働時間の開始時刻や終了時刻になるわけではありませんが,使用者が特段の事情を立証しない限り,タイムカードに打刻された出社時刻から退社時刻までの時間から休憩時間を差し引いた時間が,労働時間であると認定されるのが通常です。
 タイムカードと異なる労働時間を使用者が主張したいのであれば,その立証ができるよう,紛争が生じる前に,客観的な証拠をしっかり残しておく必要がありますが,多くの会社では,タイムカードどおりの労働時間を全て認めることを前提として賃金額を設定し,タイムカードの管理,ダラダラ残業の防止・指導に力を入れた方が現実的なのかもしれません。


 平成13年4月6日基発339号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」においても,自己申告制により始業・終業時刻の確認・記録を行わざるを得ない場合は,自己申告制を採用することも認められていますが,あくまでも例外的方法と考えるべきでしょう。
 上記通達では,自己申告制を採用する場合には,使用者は以下の3つの措置を講ずることとされています。

ア  自己申告制を導入する前に,その対象となる労働者に対して,労働時間の実態を正しく記録し,適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
イ  自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて,必要に応じて実態調査をすること。
ウ  労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。また,時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が,労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに,当該要因となっている場合においては,改善のための措置を講ずること。

 使用者が出退勤管理を怠っている場合,割増賃金の請求をしようとする社員側としては残業時間の正確な立証が困難となりますが,使用者には労働時間の管理を適切に行う責務があること(平成13年4月6日基発339号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」)もあり,裁判所は,直ちに時間外労働・休日労働の立証がなされていないとはせず,当時の社員のメモ等の証拠から,時間外労働・休日労働時間を推認することになるのが通常です。
 他方,労働時間の管理を怠っていた使用者が,1年も,2年も前の社員の時間外労働・休日労働時間について,有効な反論をすることは極めて困難なため,社員の主張に反する客観的証拠さえ存在すれば使用者側が負けるとは到底思えないような事案であっても,社員の当時のメモ程度の証明力の低い証拠だけで社員の主張に沿った時間外労働・休日労働が認定され,社員による割増賃金の請求が認容されてしまうことも十分にあり得ます。
 タイムカードのない会社で,入社直後から出社時刻と退社時刻の記録をメモ書きやエクセル表に残してきた(と労働者が主張している)ケースも多くなっている現状(≒退職したら残業代を請求してやろうと考えながら,在職中は黙ったまま仕事を続け,残業している労働者が増えている現状)を,使用者はよく認識しておく必要があります。
 なお,労働者の手帳等の記載の信用性が不十分な事案であっても,民訴法248条の精神に鑑み,割合的に時間外手当を認容することも許されるとして,労働者請求の時間外手当の額の6割を認容するのを相当とした裁判例もあります。
 どのようなイメージかというと,250万円の時間外手当が未払となっていると主張して労働者が訴訟を提起したのに対し,労働者の手帳等の記載の信用性が十分ではないとしつつ,裁判官が諸事情を検討し,150万円の時間外手当の支払を命じたというようなイメージです。

 近年では,労働者の労働時間を管理する義務は使用者にある(平成13年4月6日基発339号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」)のだから,それを使用者が怠った場合の負担を労働者に課すのは相当でなく,使用者が負担すべきであるという発想が強くなってきています。
 労働者の労働時間管理を怠っていた結果,水増しされた残業時間を根拠として残業代請求がなされ,使用者が労働時間管理を怠っていなければ発生していた残業代よりも高額の残業代の支払が命じられるリスクが高まっています。
 社員から水増しした時間外労働・休日労働時間を主張されないようにして,使用者が負担する割増賃金の上限を画するためにも,使用者は,タイムカード,ICカード等の客観的な記録に基づいて,社員の労働時間を把握するよう努めるべきと考えます。


 ダラダラ残業については,割増賃金請求の場面で問題となることが多いことから,以上,割増賃金請求についてコメントしてきましたが,個人的には,割増賃金の問題よりも,長時間労働による過労死等の問題の方が重要な問題と考えています。
 割増賃金は所詮,お金の問題に過ぎませんが,過労死等はお金では取り返しがつかない問題です。
 くれぐれも,社員の健康を損ねないよう,十分な配慮をするようにして下さい。
 長時間,元気に働いている経営者の方々もたくさんいらっしゃることと思いますが,自分ができることだからといって,他の人もできると考えるべきではありません。
 精神的に弱い方,体力のない方も多く,元気な方と同じように働いたのでは,鬱病になったり,身体を壊したりしてしまいます。
 一般の社員の残業時間については,休日労働時間込みで,1か月45時間程度までにとどめておくのが適切なのではないかと考えています。
 長時間労働が避けられない場合であっても,せめて,残業時間を休日労働時間込みで,1か月80時間未満にとどめるようにすることを,強くお勧めします。

 平成22年4月1日施行の改正労基法では,一定時間以上の法定時間外労働に対する割増賃金の割増率を上げることで使用者の負担を大きくし,長時間労働の抑制を図ろうとしているようですが,割増率を上げたのでは労働者が残業するモチベーションを高めることになってしまいますから,長時間労働の抑制にはならないのではないでしょうか。
 所定労働時間に働いて稼ぐよりも,残業で稼いだ方が,効率がいいことになってしまいます。
 他方,使用者は,残業代支払の負担が増えた場合,賞与額をその分減額したり,基本給・手当の額・昇給幅を抑制する賃金体系を採用したりして,トータルの人件費が増えないよう工夫することでしょう。
 その結果,残業しないと生活できない労働者が増大することになりかねません。
 長時間労働による過労死等を防止しようとするのであれば,退社時刻から一定の休息時間を経過してからでないと翌日は仕事させてはならないといったような形で,休息時間の確保を義務づけるようにしなければいけないと思います。

弁護士 藤田 進太郎
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