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普通解雇・懲戒解雇において解雇権濫用の有無を判断する具体的事情

2010-11-16 | 日記

Q2普通解雇・懲戒解雇において,解雇権濫用の有無を判断する具体的事情として,どのような事情を立証すればいいのですか?

 普通解雇・懲戒解雇において,解雇権濫用の有無を判断する具体的事情としては,実務上,以下の①②が争われることが多いとされています(東京地裁労働部の裁判官によって執筆された『労働事件審理ノート』)。

① 勤務成績,勤務態度等が不良で職務を行う能力や適格性を欠いている場合か
  当該企業の種類,規模,職務内容,労働者の採用理由(職務に要求される能力,勤務態度がどの程度か),勤務成績,勤務態度の不良の程度(企業の業務遂行に支障を生じ,解雇しなければならないほどに高いかどうか),その回数(1回の過誤か,繰り返すものか),改善の余地があるか,会社の指導があったか(注意・警告をしたり,反省の機会を与えたか),他の労働者との取扱いに不均衡はないかなどを総合検討する。 
② 規律違反行為があるか
  規律違反行為の態様(業務命令違反,職務専念義務違反,信用保持義務違反等),程度,回数,改善の余地の有無等を同様に総合検討する。懲戒解雇の場合は,普通解雇の場合よりも大きな不利益を労働者に与えるものであるから,規律違反の程度は,制裁として労働関係から排除することを正当化するほどの程度に達していることを要する。 

 ここで注意しなければならないのは,会社が①②の具体的事情を検討してみたところ,解雇を有効と判断すべき事情が多いように思えた場合であっても,解雇しても大丈夫だとは直ちには言えない点です。
 実際には勤務成績,勤務態度等が不良であったとしても,それを訴訟で立証できるようにしておかないと,解雇が無効と判断されることが多くなります。
 「彼の勤務成績,勤務態度が悪いことは,本人が一番良く知っているはずだ。このことは社員みんなが知っていて証言してくれるはずだから,裁判にも勝てる。」といった安易な考えに基づいて問題社員を解雇する事例が見られますが,訴訟になれば,労働者側はほぼ間違いなく自分の勤務成績,勤務態度には問題がなかったと主張してくるのが通常です。
 当事者双方の主張に争いがある場合,立証活動が必要となりますが,社員等の利害関係人の証言は経営者が思っているほど重視されません。
 客観的な証拠がほとんどないまま解雇した場合,解雇が無効と判断されるリスクが極めて高くなりますので,ご注意下さい。
 弁護士の目から見ていると,「解雇を有効と判断すべき事情があるか?」という点についてはそれなりに検討されているのですが,「解雇を有効と判断すべき事情を立証できるだけの客観的資料がそろっているか?」という点については,検討が不十分な事例が多い印象です。
 問題社員を解雇するにあたっては,立証を意識した下準備が必要であることをよく覚えておいて下さい。

弁護士 藤田 進太郎

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