かなりむかし
神様がたくさんいた
崩れそうな石段のうえの
空がだんだん近くなってくるところ
樹齢千年の銀杏の樹のてっぺんあたりに
もうひとりの神様は
いつも白いきものを着ていた
髪もひげも白い
かしこみかしこみと言った
ぼくたちも真似て
かしこみかしこみと言う
すると神様は笑う
神様はとにかく偉いから
ひとも車も白い紙でつくってしまう
神様がつくるものはぜんぶ神様だから
ひらひらの形代だって神様になる
かしこみかしこみ
五穀豊穣 無病息災 家内安全
秋祭りが終わると
神様はみんな帰ってしまうので
白い神様は淋しそうに落葉を掃いている
神様はどこへお帰りなのですか
山の奥だよ ほれ
山はもう沢山の神様で真っ白だった
夜更けの大銀杏は黒い化けもの
白い神様の夜番をしているようだった
千年のどでかい闇をかいくぐって
ぼくたちが目指すのは
かすかに湯気を吐きだしている小窓
斥候がくすりと笑って耳打ちした
かしこみかしこみもうす
ただいま神様はお風呂のなかで
モーニング娘を熱唱中
(2005)