風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

アイスランド

2010年04月21日 | 詩集「恋する地球」
Iceland


アイスランドのポストマンは
白い氷の地平を越えてやってきます
彼女のところには
世界中からラブレターが届くんだそうです
毎日カバンいっぱいの愛の言葉を
ポストマンは顔を真っ赤にして運びつづけます
まるで恋人のもとに通うみたいでした


ある日
今までなかった川が彼をさえぎりました
川幅はどんどん広がっていきます
しかたなく手紙はぜんぶ
紙ヒコーキにして飛ばしました
いくつかは向こう岸にとどき
いくつかは川におちました
そしてついには
向こう岸も見えなくなりました
ポストマンは泣きながら大声で叫びました
きみのことが好きだよう


かつて白い山は白く輝き
太陽はやさしく傾いていました
いま広い海原をさ迷っているのは
紙ヒコーキではありません
せっせとラブレターを書きつづけている
白熊のポストマンです


(2008)



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