風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

もうすぐ冬やなあ

2010年04月28日 | 詩集「母の肖像」
Jizou


洞窟礼拝堂には2階も階下もないそうやが


私は2階で寝ている
階下でこつこつと母の杖の音がしている
小さな昆虫のような音
背中もまがり指もまがり
母はだんだん昆虫に似てゆく


幼児よりも歩くのが下手になって
幼児みたいに泣きながら
きっとまた祈るような声で
いたいいたいと言っている
歩幅も小さくなり
声も小さくなり
いっぱい葉っぱが落ちよる
もうすぐ冬やなあ
などと
ひとりごとを言ったりもしているだろう


私の言葉は母をとがめるので
私はすぐに2階に上がってしまう
母は冬の着物を2階に置いたままだが
もう階段を上がってくることもできない


切支丹には夏も冬もないそうやが
そんな話を母から聞いたのは
ずっとむかし


(2004)


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