鏡のなかに母がいた
ていねいに髪をすき
眉や唇が整えられて
すこしずつ母は女になってゆく
おかあさん
と呼んでみるが声は届かない
母はガラスの向こうにいる
美しい人になって
美しい人の視線のさきには
美しい人しかいなくて
ひとりでうなずいて
美しい人は美しい人と消える
*
鏡のなかに小さな部屋が残される
みにくい顔の少女が立っている
部屋のなかにも部屋があり
少女のうしろにも少女がいる
少女は幾人もいるが
ひとつの部屋にはひとりしかいない
*
鏡のなかに私がいる
まゆ毛をぜんぶ剃って
唇をていねいにかく
私はすこしずつ女になって
すこしずつ美しくなる
やがて美しい人になった私は
ガラスの部屋から消える
(2005)