風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

2010年04月22日 | 詩集「母の肖像」
Ageha_2


鏡のなかに母がいた
ていねいに髪をすき
眉や唇が整えられて
すこしずつ母は女になってゆく


おかあさん
と呼んでみるが声は届かない
母はガラスの向こうにいる


美しい人になって
美しい人の視線のさきには
美しい人しかいなくて
ひとりでうなずいて
美しい人は美しい人と消える


     *


鏡のなかに小さな部屋が残される
みにくい顔の少女が立っている
部屋のなかにも部屋があり
少女のうしろにも少女がいる
少女は幾人もいるが
ひとつの部屋にはひとりしかいない


     *


鏡のなかに私がいる
まゆ毛をぜんぶ剃って
唇をていねいにかく
私はすこしずつ女になって
すこしずつ美しくなる
やがて美しい人になった私は
ガラスの部屋から消える


(2005)



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