「数週間前のことですね。不覚にも、私とヴィータが食べ物のことでつまらぬ諍いをはじめたのがきかけでした」
「そやそや。そーやったなぁ。ふたり専用のミニ冷蔵庫置くことで、解決したように思うてたんや」
「はい。主のご配慮のおかげで、お互いわだかまりもなく、過ごせております」
「でもな、私、その一件で考え直したんや。そんなことしたら、逆にシグナムとヴィータ、気持ちが離れてしまうんやないかてな」
「そのようなことは。我ら、守護騎士、主はやてのためとあらば互いのことなどかなぐり捨てて、主の元に集い、言葉に従いますものを」
「うん。でも、それはなぁ、『八神はやてのために』なんやろ?」
「主あって守護騎士が存在するものです。主の身になにかかあれば、我らの身命にも関わってきますゆえ」
「でもなぁ、私がゆうたから喧嘩やめる。私がゆうたから、冷蔵庫分ける。それでええんかな、と思うて。私もな、一家の家長としてあんたら五人を束ねる責任感は捨てるつもりはないよ。ないけどな、私だけが絶対で、みんなの私生活おさえとかなあかん、ちゅうのもおかしい気がして。現に、シグナムはいま言えんことを抱えてしもうとる」
「それは、…」
はやての声がなんとなくまろやかになる。
「私、きっと我がままなんや」
「主が我がままなどと…とんでもない! 守護騎士が数千年とつかえた王のなかで、主ほどすぐれた王はおりません」
「ううん、やっぱり、ずるいんや。十二年前の闇の書事件のときも、私の知らんとこでシグナムたちが大変な思いしてくれたんや。私、なんも気づかんかった。今でもときどきふっとな、ある日、みんなが帰ってこんようになったらどないしよ、って思ったりしてな」
むりに声を明るくしようとしてはいるが、寂しさの滲んだ顔つきだった。
「だから、みんなの行動知りたがったりして、縛ってしまうんやろなぁて。ひとつ屋根の下で、おなじモン食べて、おなじ時間を共にしてたら、それで家族なんやと信じてた…」
「それが、主の望む家族なら、私は喜んで」
「うん。でもな、もの心ついたときから、ほとんど独りきりやったから。それが、一気に大家族になったから、嬉しい反面、もう絶対に手放したくなかったんや。一家の主づらしてな、家族ってかたちにしがみつきときたかったんや。そのうえ、ひとつの部隊も」
「しかし、我らは、すくなくとも私は主に一生ついていく所存です」
「そやろか? 家族っていうもんは、分裂と再生をくり返していくもんやと思う。なのはちゃんも、フェイトちゃんもそうやった。一人になって、また新しい家族を自分でつくっていったんや」
「主はひょっとして、我らとの関係を解消したいと?」
「そやないで。私はずっと、ずうっとみんなといたいんや。でも、そんな永遠なんてあらへん。いつか別れがきたりするもんや」
「離れたりなぞするわけがありません!」
「まあ、強がらんでもええねんで。シグナムもこれやという人がいたら、出ていってもかまわへんのや」
シグナムの目が点になった。言葉を失った。
「主、もしや…なにか、勘違いをされているのではありませんか?」
【目次】魔法少女リリカルなのは二次創作小説「Fの必要」シリーズ