1956年のアメリカ映画「ジャイアンツ」(原題:Giant )は、ジェームズ・ディーンの遺作となった社会派ドラマ。第一次大戦後のテキサスを舞台に、誇りと情熱を胸にたくましく生きる人びと、州外から嫁いだ新妻を中心に描いています。三時間を越す大部なものなのですが、ディーンファンならば一度は観ておきたい一作ですね。ただし、彼はあくまで脇役なんですが。
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1920年代。
米国南部テキサスの大牧場主ベネディクト家の青年ビックこと、ジョーダン二世の元に、東部はヴァージニア出身の名家の次女レズリー・リントンが嫁いでくる。しかし、彼女は生まれ故郷との慣習や思想に違いに戸惑いを覚えることばかりで。
日本ですら東西間の文化に違いが叫ばれるくらいなのですから、ましてや大陸があんなにだだっ広いアメリカなら、なお云わんやと言ったところか。独立心が旺盛で、州それ自体がひとつの国家のように考える誇り高いテキサス人と、東部の都会育ちのお嬢さまでは少々部が悪いのか。下働きのメキシコ人への手ひどい差別や、家内を取り仕切る小姑然としたビックの姉ラズの威厳がことあるごとに幅を利かせ、良き妻にして人格者たらんとしたレズリーは意気消沈してばかり。ただひとり貴重な男手で屋敷に仕えるジェット・リンクだけは、主人と対等に付き合っていることでレズリーは一目置いています。また彼女の美貌に惹かれたジェットも。
やがてラズが亡くなり、ジェットもその遺産分けで土地を得てベネディクト家を離れます。
いっぽう、レズリーとビックは三人の子どもをもうけたというのに、夫婦仲は冷えきっています。自立心旺盛なレズリーは夫としばしば衝突、その寂しさを埋めるかのようにジェットに会いに行く。さらに育児をめぐっても夫婦の溝は深まっていきます。
やがて時が流れ、石油を掘り当てて富豪になったジェットと、牧場の経営に失敗したビックとが対決の瞬間に至ります。召使いであった男が出世して主君を見返し、さらに若奥様に横恋慕するという展開、「嵐が丘」と似ていなくもないですが、あれほどまで憎悪まみれの暗さがあるわけではありません。幾度となく訪れる夫婦の危機を乗り越えようとするレズリーのタフさに、母の強さを見てとれますね。
やがて三十年後、ベネディクト夫妻に生まれた双子の男女ジョーダン三世とラズ二世をまじえた二世代、いや三世代の物語となってきます。秀才肌で医者志望の長男と、お転婆で若い牧童に惹かれていく長女、生き方も考え方も異なる双子はまさに夫婦の亀裂を示すようなもの。
そして、今や立場が逆転したジェットが、レズリーの子どもたちにまで波紋を広げはじめます。物質的には豊かながらいまだ精神の欠乏をかかえているジェットに対し、老いてかつての威勢をうしなったビックは終盤になるととても頼もしいお爺ちゃんになっていくのがなんとも対照的。家族に支えられることがなにものにも勝る人生上の財産になると、教えてくれるエピソードです。
監督は「陽のあたる場所」のジョージ・スティーヴンス。本作でアカデミー監督賞を受賞。
出演は、エリザベス・テイラー、ロック・ハドソン。
準主役のディーン演じるジェットの切ない片想いがなんとも胸に沁みますね。ひねくれたところがあるのに、恋には純情で強引になれない。しかし、本筋は身分違いの不倫などではなく、子育てや夫婦の関係に悩む母親の懊悩や、古い価値観に縛られた父と子の対立、人種差別へのアンチテーゼを含んだ家族ドラマの大作。西部開拓時代の雰囲気の名残りがあるアメリカの田園風景がお好きな方なら楽しめるでありましょう。どちらかというと女性向けの内容ではありますよね。
そして、次世代の主人公たる夫妻の息子にはデニス・ホッパー、娘にはキャロル・ベイカーが扮しています。
原作は女流作家エドナー・ファーバーのベストセラー小説。
にしても24歳のディーンが演じる老境の男、実際の彼がその姿を晒すことはありませんでした。だからこそ、なおさらふしぎな味わいがする作品になっているともいえますよね。
「乾いた空気がなくても、人と人とのあいだに電気が通じあうことがある」という台詞が印象に残りました。
(2011年8月30日)