【ソウル=前田泰広】脱北者を装ってスパイ活動をしていたとして逮捕・起訴された元正花被告(34)が巡回講師として50回以上、韓国軍の講演会の演壇に立ち、「北朝鮮は自衛のために核開発をしている」と兵士らに教え込もうとしていたことが、検察当局などの合同捜査本部の調べでわかった。
元被告の発言は、核開発を正当化する北朝鮮の主張と同じで、韓国軍に対する工作活動の浸透ぶりに、軍首脳部は衝撃を受けている。
調べによると、元被告が韓国各地の軍部隊で講演活動をしていたのは、2006年9月~07年5月。北朝鮮の工作機関・国家安全保衛部から講師になるよう指令を受け、韓国内の脱北者支援団体と接触。講師になれるよう支援団体から韓国軍側に推薦してもらっていたという。
元被告は講演で「北朝鮮の核は自衛のためだ」などと説明。北朝鮮の体制を礼賛する歌などを収録したCDを持ち込み、兵士に聞かせるなどしていた。このCDは北朝鮮当局が製作したものだったという。
元被告は講演を通じて知り合った韓国軍幹部ら約100人の氏名や写真、軍部隊の所在地などの情報を保衛部に伝えていた。元被告に名刺を渡した幹部らの中には、電子メールが北朝鮮情報当局からとみられるハッカー攻撃を受けたケースもあったという。
30日付東亜日報によると、北朝鮮スパイとみられる50人以上の容疑者が軍内部に浸透して機密情報を集めている疑いがあるとして、軍当局は100件以上の内偵調査を進めている。 (2008年8月30日20時02分 読売新聞)