うんうん、とソラは何度もうなずきながら、ニンジンの顔をじっとのぞきこんだ。
「仕事上の秘密だから、どこの誰とまでは言えないが、今まで見たこともないような、立派なお屋敷からの依頼さ」と、ニンジンは胸を張るように言った。「今じゃ、ほとんど絶滅に近いほど数が少なくなった鳥で、遙か昔の時代に研究用として捕まえた数羽の鳥を、これまでずっと大事に育てて、少しずつだけど数を増やしてきたらしい。青い空のような色が特徴で、そのうちの貴重な一羽を、どんな巡り合わせなのか、依頼人が譲り受けたそうなんだ。だけど、子供の頃から体が弱くて、動物なんかろくに飼ったこともなかった依頼人は、ちゃんと鳥の世話をする自信がなくて、屋敷の人にまかせっきりにしていた。ところが、ふとした遊び心で鳥籠の扉を開けたとたん、その貴重な鳥が、ほんのわずかな隙を見て、屋敷の外に逃げ出してしまったんだ」
「それで、ニンジンが――」と、ソラは確かめるように言った。
「ああ、この町内じゃちょっとは名の知られた探偵が、選ばれたってわけさ」と、ニンジンは得意そうに胸を張った。「愛好家のあいだじゃ、空飛ぶシーラカンスとかなんとか言われて、かなりの大金で取引されることもあるらしい。騒ぎが大きくなる前に、さっさと探し出さなきゃ、誰かが先に捕まえて、ただ働きすることになっちまう」
「しーらかんすって、なに」と、ソラが首を傾げた。
「は?」と、ニンジンは目をぱちくりさせた。「知ってるよな、有名な魚」
「空飛ぶ魚なんて、トビウオしか聞いたことないよ」
「いやいや、そうじゃなくて」と、ニンジンが言った。「シーラカンスが飛ぶんじゃなくって、その青い鳥だよ」
「――鳥って、空飛ぶんじゃないの」
「だよ。魚じゃないからな」と、ニンジンが考えるように言った。
「なーんだ」ソラはちぇっと舌打ちをすると、くるりと背中を向けて歩き出した。「つまんないの……」
「はぁ?」ニンジンは、信じられないというように言った。「世界規模のこんな大きな仕事が、つまらないだって――」
「うそでしょ」と、ソラはニンジンを見上げて言った。
「いいや」と、ニンジンは急に真剣な顔をして言った。「――どうしてわかった」
「やっぱり……」ソラは残念そうにため息をつくと、ニンジンに背を向けて言った。「じゃあ、がんばってね」
「――おい、信じないのは勝手だがな、似たような鳥を見つけたら、いつでもいいから教えてくれよ」
「わかってるよ。じゃ、また公園でね」
背中を向けたまま手を振るソラを見て、ニンジンはやれやれ、といったそぶりで小さく肩をすくめると、くるりと回れ右をして歩き出した。
――――……
「仕事上の秘密だから、どこの誰とまでは言えないが、今まで見たこともないような、立派なお屋敷からの依頼さ」と、ニンジンは胸を張るように言った。「今じゃ、ほとんど絶滅に近いほど数が少なくなった鳥で、遙か昔の時代に研究用として捕まえた数羽の鳥を、これまでずっと大事に育てて、少しずつだけど数を増やしてきたらしい。青い空のような色が特徴で、そのうちの貴重な一羽を、どんな巡り合わせなのか、依頼人が譲り受けたそうなんだ。だけど、子供の頃から体が弱くて、動物なんかろくに飼ったこともなかった依頼人は、ちゃんと鳥の世話をする自信がなくて、屋敷の人にまかせっきりにしていた。ところが、ふとした遊び心で鳥籠の扉を開けたとたん、その貴重な鳥が、ほんのわずかな隙を見て、屋敷の外に逃げ出してしまったんだ」
「それで、ニンジンが――」と、ソラは確かめるように言った。
「ああ、この町内じゃちょっとは名の知られた探偵が、選ばれたってわけさ」と、ニンジンは得意そうに胸を張った。「愛好家のあいだじゃ、空飛ぶシーラカンスとかなんとか言われて、かなりの大金で取引されることもあるらしい。騒ぎが大きくなる前に、さっさと探し出さなきゃ、誰かが先に捕まえて、ただ働きすることになっちまう」
「しーらかんすって、なに」と、ソラが首を傾げた。
「は?」と、ニンジンは目をぱちくりさせた。「知ってるよな、有名な魚」
「空飛ぶ魚なんて、トビウオしか聞いたことないよ」
「いやいや、そうじゃなくて」と、ニンジンが言った。「シーラカンスが飛ぶんじゃなくって、その青い鳥だよ」
「――鳥って、空飛ぶんじゃないの」
「だよ。魚じゃないからな」と、ニンジンが考えるように言った。
「なーんだ」ソラはちぇっと舌打ちをすると、くるりと背中を向けて歩き出した。「つまんないの……」
「はぁ?」ニンジンは、信じられないというように言った。「世界規模のこんな大きな仕事が、つまらないだって――」
「うそでしょ」と、ソラはニンジンを見上げて言った。
「いいや」と、ニンジンは急に真剣な顔をして言った。「――どうしてわかった」
「やっぱり……」ソラは残念そうにため息をつくと、ニンジンに背を向けて言った。「じゃあ、がんばってね」
「――おい、信じないのは勝手だがな、似たような鳥を見つけたら、いつでもいいから教えてくれよ」
「わかってるよ。じゃ、また公園でね」
背中を向けたまま手を振るソラを見て、ニンジンはやれやれ、といったそぶりで小さく肩をすくめると、くるりと回れ右をして歩き出した。
――――……