ソラが聞いたところによれば、洋館の住人は一人暮らしのおばあさんで、いつも黒い服に身を包み、小学生の子供ほどもある大きな人形を重そうに抱え、なにかブツブツと、いつも不機嫌そうに独り言を言っている、ということだった。
しかし子供達の間では、それは人をあざむく仮の姿で、その正体は、夜な夜な怪しげな呪文を唱え、不気味な儀式を繰り返している魔女に違いない、と信じられていた。
去年の夏休みにも、ソラのクラスメート達が、勇敢にも探検隊を結成し、屋敷の中に忍びこんで、魔女の証拠を発見しようとしたが、冒険のかいもなく、身の毛もよだつような笑い声に恐れをなして、腰を抜かして逃げ帰ってきたのが、いまだに笑い話として語られていた。
残念ながら証明することはできなかったが、もしもその話が本当なら、ソラが目の前にしている女の人こそ、洋館で一人暮らしをしているという魔女、シルビアに間違いなかった。
「あ痛たたた……」
と、メイド服を着せた子供のマネキンのような人形を、大事そうに脇に抱えたシルビアが、腰の辺りを押さえるように言った。
「まったく、轢かれてペシャンコになるところだったじゃないか」
運転席から降りてきたシェリルは、なぜか落ち着いた様子でシルビアに近づくと、長い髪を揺らしながら、掛けていたサングラスをはずして言った。
「どうして、車の前にわざと飛び出してきたんですか?」
「なんだって」
と、シルビアは怒ったように言いながら、抱えていた人形を地面に立たせた。
のぞき窓からは遠くにしか見えなかったが、魔女は“おばあさん”というより、どちらかというとソラの母親に近い年齢で、“おばさん”と言った方がいいように見えた。
「脇見運転してたくせに、変な言いがかりつけるじゃないか――」
「困った人ね」と、シェリルは、ため息をつくように言った。「あなたでしょ、つい何日か前から、私の回りをしつこく探っているのは」
「さぁ、なにを言っているのか、まったく身に覚えがないね」と、シルビアは笑いながら言った。
「まったく、その人形がなければ、大怪我してたところじゃないですか」と、シェリルはあきれたように言った。「いくら私を調べたからって、青い鳥の手がかりなんか、見つかりっこありませんよ」
ソラははっと息を飲んだ。(魔女も、青い鳥を探してるんだ……)
「なにが人形だい」と、シルビアは両手を腰にあてて言った。「私のかわいい娘にぶつかっておいて、その言い草はないだろう」
シルビアがぐいっと胸を張り、挑発するように顎を突き出して、上目遣いで背伸びをすると、
「やめてください」
誰かよその人の声が、不意に聞こえた。
しかし子供達の間では、それは人をあざむく仮の姿で、その正体は、夜な夜な怪しげな呪文を唱え、不気味な儀式を繰り返している魔女に違いない、と信じられていた。
去年の夏休みにも、ソラのクラスメート達が、勇敢にも探検隊を結成し、屋敷の中に忍びこんで、魔女の証拠を発見しようとしたが、冒険のかいもなく、身の毛もよだつような笑い声に恐れをなして、腰を抜かして逃げ帰ってきたのが、いまだに笑い話として語られていた。
残念ながら証明することはできなかったが、もしもその話が本当なら、ソラが目の前にしている女の人こそ、洋館で一人暮らしをしているという魔女、シルビアに間違いなかった。
「あ痛たたた……」
と、メイド服を着せた子供のマネキンのような人形を、大事そうに脇に抱えたシルビアが、腰の辺りを押さえるように言った。
「まったく、轢かれてペシャンコになるところだったじゃないか」
運転席から降りてきたシェリルは、なぜか落ち着いた様子でシルビアに近づくと、長い髪を揺らしながら、掛けていたサングラスをはずして言った。
「どうして、車の前にわざと飛び出してきたんですか?」
「なんだって」
と、シルビアは怒ったように言いながら、抱えていた人形を地面に立たせた。
のぞき窓からは遠くにしか見えなかったが、魔女は“おばあさん”というより、どちらかというとソラの母親に近い年齢で、“おばさん”と言った方がいいように見えた。
「脇見運転してたくせに、変な言いがかりつけるじゃないか――」
「困った人ね」と、シェリルは、ため息をつくように言った。「あなたでしょ、つい何日か前から、私の回りをしつこく探っているのは」
「さぁ、なにを言っているのか、まったく身に覚えがないね」と、シルビアは笑いながら言った。
「まったく、その人形がなければ、大怪我してたところじゃないですか」と、シェリルはあきれたように言った。「いくら私を調べたからって、青い鳥の手がかりなんか、見つかりっこありませんよ」
ソラははっと息を飲んだ。(魔女も、青い鳥を探してるんだ……)
「なにが人形だい」と、シルビアは両手を腰にあてて言った。「私のかわいい娘にぶつかっておいて、その言い草はないだろう」
シルビアがぐいっと胸を張り、挑発するように顎を突き出して、上目遣いで背伸びをすると、
「やめてください」
誰かよその人の声が、不意に聞こえた。