中年オヤジNY留学!

NYでの就職、永住権取得いずれも不成功、しかし、しかし意味ある自分探しに。

平成くたびれサラリーマン上海へ行く (その10)一条の光

2018-07-30 21:00:00 | 小説
(ここまで)主人公、松尾次郎は上海での嫁さん探しに失敗し、困りに困っています。

若い時は人間は年をとると馬鹿みたいな”ヘマ ”はやらないと思っていました。
先日、個人的に約30年振りに一時期、一緒に働いた仲間(従業員)と同期会を催しました。
嬉しいことに皆、経済的にも、家庭的にもマアマアらしく明るく酒を飲んでいました。

ただ皆、一様に酒の勢いも手伝って、”俺は幸せだった、家庭にも恵まれて”との自己紹介が大勢をしめていたので、私は辛めに”お前達、未だ50前後で、俺の人生は満更でもないと総括するのは、早すぎるぞ!と脅かしておきました。

皆さんはどう?お思いでしょうか






(その 10)
( 一条の光

松尾次郎の自分探しやら、幸せ探しが転じて、あたかも“アリ地獄”へ自ら落ち込んだ様相を呈してきました。

今や、次郎の当面の目標は彼の籍をきれいにする事になってしまった。
訳のわからぬ女性の、例え名義上であれ夫であるわけにはいかない。
このまま、ほってはおけない。
しかし、どのようにして、それを成就させたら好いか、次郎には全く見当もつかなかった。
そして、この闘いは何時になったら終るのか、1年後か、2年後か、民法上の通常失踪の効力が発する5年後か? 全く、当てがない。
次郎の身近に、騙されて国際結婚に失敗したキトクナ友達などいるわけもない。
どうして好いか、なんの手がかりもないのだ

あたかも山を登れど登れど、峰は現れず・・・ 
次郎は霞ヶ関の家庭裁判所の相談窓口を訪ねてみた。
中はグレーの色で落ち着いた、色調の空間である。
“ここが一般の人も、顔が売れた芸能人も、家族のもめ事を相談あるいは裁いてもらう場所なのか?”と次郎。

順番を待ち、静かに面接室へ入っていく女性を数人見る。
“あの人達も?・・・”と次郎は一種の仲間意識を感じる
それほど長く待たされることなく、次郎も個室の相談窓口に入るように呼ばれる。
白髪の担当官が中に座っており、相談の主旨を訪ねられた次郎は事の次第を話した、結論は籍をきれいにしたい気持ちを伝えた。

話を一通り聞いた担当官は、残念だがと言う顔で、“実は当事者(夫婦)で揃って協議に来なくては、家庭裁判所は審判も裁判もできないんですよ。”
担当官は続けて“その奥さんに当たる中国女性は何処にいるのかも、分らないわけですよネ? その方は当然、裁判所に出てくることはできないですよネ?”
次郎は“正直言って、東京の何処かにいるのは確かと思いますけど、何処にいるかも分りませんし、又彼女を見つけても裁判所なんか来ないでしょう”

担当官は言う“そうすると、離婚等を審理できるのは地方裁判所ということになります
次郎は、一瞬開いた口が塞がらなかった。
それまで、夫婦関係を裁くのは、全て家庭裁判所と思っていた。
いきなり地方裁判所と聞き、事件のハードルが高くなったことを知る。
“困った、振りだしだ…”と次郎。
仕方なく霞ヶ関界隈を歩く。

もう一人の自分との対話
疲れている。
背中を丸め霞ヶ関の官庁街をトボトボ歩く次郎の姿があった。

もし何処かに、椅子でもあるなら座ろうか?と次郎。
そういえば、上海でも同じように力なく、歩いた時があった
一人の次郎が気に入った中国女性をモノにすることは見込みなしと諦め、夕方人気のまばらになった上海の外灘(わいたん)から南京路の繁華街の人ごみに逃げ込むような形で歩いたのを憶えている。

その結果、その後に会った上海女性と結婚したものの、彼女が日本に来て数日で次郎の出勤中にキャリー・ケースごと姿を眩ました。
それが、次郎にとっての劉さんだった。
人生の多少なりとも山や谷を経験した次郎が、ましてや自ら中国へ出向き、いとも簡単に墓穴を掘るのであろうか?

・・・<椅子に座ったせいか、眠気も・・・なぜか走馬燈のように、次郎の脳裏は今回の件を回顧し始める。
次郎の体に宿るもう一人の自分(心の主)が問い詰め始める。
(心の主):“次郎、お前の結婚で彼女(劉さん)が、来てからは少しずつ日本の文化に慣れ、彼女が将来日本の生活も悪くは無かったと思ってもらえればと、控え目な事をぬかしていた。
心の主は更に畳みかける):“お前の結婚の思いは、そんなに薄っぺらいのか? 彼女が少しでも成長してくれたら嬉しい? ペット飼育のゲームソフトではあるまいし馬鹿じゃないのか?”・・・お前の結婚(人生)は他人(ひと)の子供や青少年を預かり躾や食事の世話し、彼らの旅立ちに涙を流すあたかも寮長役で終わって良いのか? お前も主人公でなくて良いのか?“
主は続く):“愛情(≒結婚)とはカップルの何気ない言葉や仕草の中に新鮮さ優しさ、そして好奇なメッセージを感じるものだ勿論性格の合わない同士では言葉は喧嘩の道具でしかないが。 それは愛し合うカップルに安堵感を与え、セックスすらいずれ滅びる者達に、短い夏に昇華する他の生きもの同様、激しく燃えそして素晴らしいと感じさせるものだ。”

主は次郎の昔の彼女の話題を持ち出す):ところで、そうそうお前が何年か前に付き合っていた彼女とは、どうして別れた?
器量はともかくとして、お前自身も彼女の前では自然体でいられ、そして彼女はそれとなく、お前と結婚したいという思いを投げかけていたのと違うか? ワシはお前には最高の人と思っていたが。“
(心の主):”次郎、すまん、もう終わったことだ。 ただ、お前が彼女と別れた事で、運をつかみ損なったのは確かだが・・・・。“
主は最後に):”お前は自分自身を中年のジジイと称していたが、実際、頭の中は30代の派手さも捨てきれず、また以前の彼女と一緒になるとしたら負担となるだろう彼女の娘を引き取ることにためらっていたのだ。だが待てよ、今回お前から姿をくらました劉さんも子供がいたのでは?
(次郎):“劉さんの子供については、お互いはっきり日本に直ちに連れて来る来ないは決めていなかったが、何れそう言う事になると覚悟はしていたが。”

(心の主):“人間とはもちろんお前の事だが、気の毒な生き方をしてしまうものだな!
僅か数年前は他人の子を引き取るのを負担に感じ、お前は最良の人を捨てた
今度は他人の子を引き取るまで妥協できるように成長だか?変に浪花節かぶれしたか?階段を一段降りたのに、それでも元もこうも無くなってしまった
良いか?これからは劉さんのことも、お前の嫁さんになるべきだった昔の彼女の事も忘れ、まるっきり違う生き方をしたら良いだろう・・・・・・・・。“






“はっ”と気が付くと次郎は、日比谷公園の片隅のベンチで暫くデイ・ドリーム(白昼夢)状態だったことに気が付く。
さも有りなん・・・”と、頭の整理ができたのか次郎は大きく深呼吸・・・。

“さて、どうする?これから・・・”
次郎“いや、せっかくの機会だ、日比谷図書館が近い、何か手がかりになる本があるかも”

しかし日比谷図書館と言えば、昔は受験生の勉強場所の聖地だったが、思ったより、幾分こじんまりしているかなと言うのが次郎の印象だった。
あちら、こちら捜しあぐね、やっと国際結婚に関する書架のコーナーを見つける。
だが残念な事に、日比谷図書館といえども次郎が必要としている、国際結婚に関するトラブル、離婚手続を懇切丁寧に解説している本などは、不思議なほどない。どちらかという、いかに文化の違いを乗り越え結婚生活を続けるかと言った、前向きな本が、それも数冊と淋しいものだった。

弁護士、あたかも手術の苦手な外科医の様相
あの劉さんが姿をくらました時期の半ばパニック状態から次郎の精神状態は次第に落ち着きを取り戻しつつあった。
しかし月日は流れて行くが、なんの手がかりもなくダラダラと過ぎる、次郎の気持ちは少しばかりの焦り。

どうにかして解決したいと。 そして、何か手がかり有ればと、ある朝、出勤前に霞ヶ関の弁護士会館常設の法律相談所へ行って見る。
もちろん有料である、三十分五千円。
朝、開設時間前と言うのに早くも、次郎の整理番号は20番以降、人は更に続々詰め寄せる。 詰め掛ける人々の悩みもそれぞれ、金銭の人、もちろん夫婦関係の人達。
はたして、次郎の問題は何に属するのか、夫婦関係か?国際結婚・・・関係か?
それは何処にも属しない、新種の問題か? それを病気に例えたら、奇病か?
法律相談所はあたかも、総合病院の受付風景にも似ている、個人カードを渡され患者がそれぞれの科目、内科、外科に散るように、相談者達もカードを持ち各専門の所へ別れる。
次郎は、渡されている個人カードを提出し待つこと更に30分で、弁護士の待つ個室へ通された。

そこで、ワラにもすがる思いで来た次郎はガッカリした。
弁護士の看板を揚げていて、こう言った総合病院にも似た法律相談所に座しても、なんと担当弁護士は、この手の国際結婚の法律相談には、全くの素人だった。
彼はただ、次郎の話をむしろ面白がるだけで、“それで、…・それで…・”話の先を聞いては喜ぶだけ。 三面記事に喜ぶ庶民と変わらぬ弁護士先生であった。
何の手がかりも得られないまま、時間切れとなった。
次郎のような事件が、まだ一般的にならないだけ日本はまだ平和なのかもしれない
またまた霞ヶ関の官庁街のビルの間を、重い足を引きずりながら歩く次郎。
“こまった、弁護士でもあの程度だからな”

(時巡り、木枯らし吹く・・・)
ふと街路樹に目をやると、もうすっかり落ち葉が散乱し、冬が近いことを告げていた
駄目押しに、次郎は東京地方裁判所へ向かった。
生まれてこの方、こんな所へ来る用事などなかった。
建物の内部は裁判所のイメージと言うより大きな会社のようでもあり。
中途ハンパな者には、無言のうち押し返すような迫力すらある。
次郎は、一瞬ためらったが、ドアを引き受付カウンターへ近づいていた。

カウンターの向かいにいる女性担当官に頼みかけるように次郎は実情を話した。
彼女はほんのわずか、考える仕草を示したかと思うと、“貴方の場合は、民法の婚姻の無効に該当し、本来は、一般の方にはお教えしないのですが、この様式で訴状を提出することができます”と次郎に、婚姻無効を例にとったヒナ型のコピーを手渡してくれた。

そのコピーを見た、次郎は何故か急に力が沸いたのを覚える。
警察よりも、弁護士よりも、入管よりも、何か力を覚えた。
易しくはないだろう、でも何か、次郎にも出来そうなそんな予感を覚えた。
多分、その裁判所の女性担当官は上司の目をはばかりながらコピーを次郎に手渡してくれたのだろう。
次郎は、深深と頭を下げ、礼をいい東京地裁を後にした。

そのコピーを手に、今まで、次郎は自分では出来ないかもしれない、難しいと思っていた裁判を、自分自身の手で、やろうという気持ちになっている。
この件は、例え裁判になっても、何時終るのか、いくら費用が掛かるのか分らない。
あの法律相談所の弁護士すらこの事件の勝手が分らなかった。
弁護士が分らないなら、次郎と同じスタート・ラインにいると考えても好いではないか?
この件に関し、訳のわからない弁護士に、自分の人生を託すことは出来ない。

何時終るか分らない戦いを、続けられるのは、自分しかいないと次郎は思った

(つづく)



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