人が倒れている。
場所はウォーター・ルー駅の構内である。
倒れているのは初老の女性で、連れの男性が雑誌で扇いで風を送っている。
しかし、そんなことは役には立たないだろう。
気温は38度を超えている。
時は2003年8月9日、駅の時計は午後4時38分を指している。
駅構内の空気が、あまりの暑さのために澱んでいる。
普段は大人しくしているはずの埃たちが辺りを闊歩しているのだ。
初めての渡英し、その日のうちにロンドンのヒースローからポーチェスター(ポースマス)へ移動し、ゆるい右回りの楕円書いて観光をしてきたので、ある意味初めてのロンドンである。
ここ数日、35度を超える気温に体が疲れているのが分る。
ウォーター・ルー駅構内
例年ならば気温は8月でも20度ちょっとと聞いていたので避暑旅行になるとたかをくっていたが、とんでもないことになってしまった。救いだったのは、冷房がついていないと聞いていた、レンタカーに冷房がついていたこと。まあ、夏でもそんなに暑くはないから問題はないと聞いていたが、今回ばかりはうれしい誤算である。
ヒースロー空港のレンタカー受付の兄ちゃんからはトヨタがあるよと言われていた。店舗に行き、店員から好きなのを選べと指を指された場所はグレードCの駐車場。トヨタなく、殆どがプジョーであった。初渡英を果たしたその日、すでに気温は36度あった。選んだ車に乗ると、エアコンがついていたのである。それから4日間は車の中は快適であった。なんとホテルにも冷房はついていなかったからである。
女房ののりたんがホテルを探してくれた。それはヴィクトリア駅から歩いて10分の所というのを歩いて10分と勘違いしたために、約1時間の散歩が始まった。
感動したビッグ、、、、ミネラル・ウォーター?
ウォーター・ルーからヴィクトリアに向かうと言う事は、ウエスト・ミンスターを通るということである。テムズ川沿いにそびえる国会議事堂や、その北端にあるビッグ・ベンを見て感動するコースである。あの中学校1年生の時の英語の教科書にのっていたトムとナンシーの会話の脇役で出会ったビッグ・ベンの本物に会えるのである。
ところが、初めて見るビッグ・ベンよりも川の柵の上に置いてあったミネラル・ウォーターに感動してしまった。理性を狂わせる暑さであったのだ。途中にスコットランド・ヤード(警察)やチャーチルの銅像があったが目に入らなかった。10分で着くはずのホテルが全然見えてこないのである。日は西に傾いているというのに、その輝きはギラギラのままである。ここはイギリスなのに、なんでこんなに暑いんだろうと考える余裕もないほどである。途中道行く人に片言の英語で尋ねながらお目当てのホテルは見つかった。
ヴィクトリア駅のすぐそばのイブリー通りにあるその名を冠したイブリー・ホテル。
すぐに水のシャワーを浴び、一息ついた。テレビをつけるとどの番組でも同様の言葉が聴けた。
「ヒート・ウェーブ・・・・・・・・」
イブリーホテルの窓からの景色
ホテルの窓を開けっぱなしで寝た。久しぶりによく寝た感じがした。目が覚めてみた景色がこれである。朝の7時であるが、この日も太陽は頑張る予感がした。
2003年、ヨーロッパの熱波である。フランスで老人が10000人亡くなったというニュースは帰国後に知った。その原因が地球温暖化にあったことが分るのはその3年後のことであった。