この小品は、『この世に稀な錠剤を、たった一錠を服用すれば』と題して、
8月12日に【gooブログ】のサイトに投稿したが、他ブログサイトからの回覧数が圧倒的に多く、
この時にカテゴリー【掌(たなごころ)小説】未設定時期でもあり、
改めて少し加筆し、異例ながら再掲載をさせて頂く。
☆-----------------------------------------☆
1995年、ひとりの男がある大学の薬学部を何とか卒業でき、
劣等生であったが、ひとりの教授からは、余りにも独創性があると評価された推薦で、
ある大手の医薬メーカーに入社し、開発研究所に配属された。
入社後から遅刻はするし、開発プロジェクトの一員に加わっても、協調性も欠け、
周囲の開発研究員からも、次第に険悪されて、孤立化となっていた。
そして身なりも不衛生で、結婚もせず、風変わりな男と定評され、
やがて付近の若き研究員の女性も避けるようにされ、
この男は開発部の片隅に席に置かれていた。
そして20年過ぎた2015年、この医薬メーカーは業績が低迷し、
リストラが実施されて、営業本部をはじめ管理本部も削減され、
その後は開発研究所も対象となった。、
そして多くの研究員の誰から見ても、この男が解雇の最有力の対象と思われていた。
このような状況下の時、この男は入社以来初めて笑顔を浮かべて、
上司の席の前に立ちすくんだ・・。
『開発なかばですが・・この錠剤を・・一錠吞めば、
睡眠時間はわずか一時間に圧縮されます』
と男は上司に呟(つぶや)いた。
『普通の人は・・睡眠時間は7時間ぐらいだよねぇ・・
その錠剤で・・一時間ぐらいで、睡眠が満足されると言うのかい?』
と上司は男に言った。
『お疑いになると思われますので・・
私はこの一週間・・毎晩一錠吞みましたが・・
一時間ぐらい眠り、目覚めた後は、心身は至って満足しまして・・』
と男は上司に微笑みながら言った。
そして3年後の2018年の春、この医薬メーカーから、
ビタミン剤のような錠剤で、毎晩たった一錠を吞めば、睡眠時間はわずか一時間で、
誰でも充分に身も心も満足する人類初めての名薬として、販売された。
もとより一日は24時間である、と天上の神々から定められ、
古今東西、長き歴史から、人類の殆どの人たちが、7時間前後の睡眠時間を要してきた。
たとえローマ帝国時代のユリウス・カエサル、
ここ数百年に於いては、一時期ヨーロッパを制覇したナポレオン皇帝、
或いは中国人民共和国の毛沢東主席、
アメリカのケネディ大統領・・古今東西の偉人も、
この鉄則に采配されて、それぞれの時間をやりくりしてきたのである。
この一錠は10万円の高価であったが、
世界の富裕層の人たちから、この薬を吞めば残りの6時間前後は経済活動できると絶賛され、
やがて、この医薬メーカーは飛躍的に業績を伸長させ、
世界の大企業のITメーカーの各社を遥かにしのぐ世界有数な会社に躍進した。
まもなく、この稀(まれ)な薬はノーベル賞の栄誉に輝き、
この男は医薬メーカーの特別上級研究員として、社の首脳部から破格に待遇を提示されたが、
『恐れ多いのはもとより承知の上ですが・・この薬の売り上げの10パーセントを毎年頂きたいのですが・・』
と男はオーナーの名誉会長に言った。
『10パーセントって・・少なくとも5兆円になるが・・
このような巨額をどうするのよ・・』
と名誉会長は戸惑いながら男に言った。
『睡眠の短縮の薬は・・たまたま開発でき・・確かに多忙な方には貢献できましたが・・
世界では食べ物に困り・・餓死する人も多いのが実情です・・
せめて世界の子供たちに、毎年ユニセフを通して、寄付を致したく、お願い申し上げる次第でして・・』
と男は懇願するように名誉会長に言った。
やがてオーナーの名誉会長の英断により、毎年ユニセフに送金され、
男の願いは叶えられた。
その後から、この男は何かしら会社の中で浮いて、やがて退職金1000万円だけ受け取り、
退社した。
その後、かっての研究所のひとりが、
この男を伊豆の下田の外れのボロ小屋に独り住んでいるのを偶然に見かけた、
と言ったりしたが、定かでない。
《終り》
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劣等生であったが、ひとりの教授からは、余りにも独創性があると評価された推薦で、
ある大手の医薬メーカーに入社し、開発研究所に配属された。
入社後から遅刻はするし、開発プロジェクトの一員に加わっても、協調性も欠け、
周囲の開発研究員からも、次第に険悪されて、孤立化となっていた。
そして身なりも不衛生で、結婚もせず、風変わりな男と定評され、
やがて付近の若き研究員の女性も避けるようにされ、
この男は開発部の片隅に席に置かれていた。
そして20年過ぎた2015年、この医薬メーカーは業績が低迷し、
リストラが実施されて、営業本部をはじめ管理本部も削減され、
その後は開発研究所も対象となった。、
そして多くの研究員の誰から見ても、この男が解雇の最有力の対象と思われていた。
このような状況下の時、この男は入社以来初めて笑顔を浮かべて、
上司の席の前に立ちすくんだ・・。
『開発なかばですが・・この錠剤を・・一錠吞めば、
睡眠時間はわずか一時間に圧縮されます』
と男は上司に呟(つぶや)いた。
『普通の人は・・睡眠時間は7時間ぐらいだよねぇ・・
その錠剤で・・一時間ぐらいで、睡眠が満足されると言うのかい?』
と上司は男に言った。
『お疑いになると思われますので・・
私はこの一週間・・毎晩一錠吞みましたが・・
一時間ぐらい眠り、目覚めた後は、心身は至って満足しまして・・』
と男は上司に微笑みながら言った。
そして3年後の2018年の春、この医薬メーカーから、
ビタミン剤のような錠剤で、毎晩たった一錠を吞めば、睡眠時間はわずか一時間で、
誰でも充分に身も心も満足する人類初めての名薬として、販売された。
もとより一日は24時間である、と天上の神々から定められ、
古今東西、長き歴史から、人類の殆どの人たちが、7時間前後の睡眠時間を要してきた。
たとえローマ帝国時代のユリウス・カエサル、
ここ数百年に於いては、一時期ヨーロッパを制覇したナポレオン皇帝、
或いは中国人民共和国の毛沢東主席、
アメリカのケネディ大統領・・古今東西の偉人も、
この鉄則に采配されて、それぞれの時間をやりくりしてきたのである。
この一錠は10万円の高価であったが、
世界の富裕層の人たちから、この薬を吞めば残りの6時間前後は経済活動できると絶賛され、
やがて、この医薬メーカーは飛躍的に業績を伸長させ、
世界の大企業のITメーカーの各社を遥かにしのぐ世界有数な会社に躍進した。
まもなく、この稀(まれ)な薬はノーベル賞の栄誉に輝き、
この男は医薬メーカーの特別上級研究員として、社の首脳部から破格に待遇を提示されたが、
『恐れ多いのはもとより承知の上ですが・・この薬の売り上げの10パーセントを毎年頂きたいのですが・・』
と男はオーナーの名誉会長に言った。
『10パーセントって・・少なくとも5兆円になるが・・
このような巨額をどうするのよ・・』
と名誉会長は戸惑いながら男に言った。
『睡眠の短縮の薬は・・たまたま開発でき・・確かに多忙な方には貢献できましたが・・
世界では食べ物に困り・・餓死する人も多いのが実情です・・
せめて世界の子供たちに、毎年ユニセフを通して、寄付を致したく、お願い申し上げる次第でして・・』
と男は懇願するように名誉会長に言った。
やがてオーナーの名誉会長の英断により、毎年ユニセフに送金され、
男の願いは叶えられた。
その後から、この男は何かしら会社の中で浮いて、やがて退職金1000万円だけ受け取り、
退社した。
その後、かっての研究所のひとりが、
この男を伊豆の下田の外れのボロ小屋に独り住んでいるのを偶然に見かけた、
と言ったりしたが、定かでない。
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