夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「その衣なかりせば・2」

2006-10-06 14:05:20 | 自作の小説

妻が常人にあらず―気付かぬというも大概鈍い話だが 男は古今の文献を調べた

何とか妻を人界にとどめる術(すべ)やないものか

されど・・・されど!答えは得られず

せめても残り少ない時間(とき)を ただ楽しく過ごさんと

二人は決心したのだ

このひとときは二度と帰らぬ時

未来永劫

思えば その尋常でない美しさ 声も姿も このような女性が この世に おのれが腕の中にある不思議に 何故気付かなかったものか

愛しき妻よ

「子供を残してまいりますゆえに 何卒 なにとぞ・・・」

十六夜の月が 照り輝く 余呉湖のほとり

天女達が舞う

これが最後と 羽衣まといし その女性(ひと)も また・・・・・

想いを込めて 涙流しつ 美しくも悲しい舞いを

零れた涙は真珠となりて 湖に降る

そうして天女達は 天帝のもとへ 帰り

是善のもとに残った二人の子のうちの一人が 後年 菅原道真という人物になる

さればこそ 彼にまつわる不思議な物語 伝説も 納得できようというもの

彼は 天女の 子供であったのだからして

そうして月の貴人たる道真へ 藤原道長が抱く畏れは また別の話になります

望月のかけたることの―

その望月を欠けさせ 陰らせたかもしれぬ貴公子が 菅原道真でありました

ゆえに彼の死後 こりゃ道真の怨霊よ―と その仕業よと―

むざむざ道真を死なせた天女達の嘆きゆえの災いと 誰が知ろうか

いずれ昔むかしの 確かめようすらない お話でございます

―おしまいです―


ロバート・クレイス著「ホステージ」(上・下)講談社文庫

2006-10-06 12:08:14 | 本と雑誌

ロバート・クレイス著「ホステージ」(上・下)講談社文庫
ブルース・ウィリス主演で映画化されています

展開とラストの方は 原作と映画では 視覚的な効果もあり 多少違います

三人の若者が 金持ちの家に押し入り

そこが犯罪組織のボスの会計士の家であった為 今は田舎警察の署長タリー(ブルース・ウィリス)の妻子が 誘拐され 彼らのいうことを聞くように 脅迫されます

タリーは 元SWAT隊員 人質解放の交渉のスペシャリストでしたが ある事件で犯人に年端のいかぬ少年を殺されてしまいます

タリーはその少年を死なせた心の痛手から立ち直れず 家庭内も以来うまくいっていません

そのうえチンピラ三人組の一人マーズが 別名を持つ とても凶悪な猟奇殺人の犯人であると分かります

マーズは映画でも不気味な奴でしたが 原作では熊のような大男 なる描写があります

でかくて変態で凶暴

映画でも小説でも犯罪組織の裏をかき人質を救出し 妻子も助ける

のですが 臨場感は映画にあります

会計士スミスが 映画のほうが人間味溢れる役です

自分の子供達も自分もタリーに助けられ

タリーの捕まっている妻子の写真を見て涙を流します

それから 最後の対決へ

スミスの息子トーマスは かつてタリーが死なせた少年と同じ年頃 同じ金髪で

今度はタリーは間に合ったのです

映画か小説かと 聞かれたら 今回は映画に軍配をあげます

トーマス少年の活躍

マーズ役の俳優さんの役づくりに この方 いい役すれば 素は結構二枚目では?という顔立ちです


「その衣なかりせば・1」

2006-10-06 01:32:59 | 自作の小説

文章博士 菅原清公には四人の息子があった 三男善主は遣唐使となり

四男 是善(これよし)は 父と同じ文章博士となる

だが私生活では恵まれず 三人の男の子を喪った 時に844年春

そう これは たいそうな昔むかしの物語

こんなことがあったのかと 思し召せ

その男は三十代半ば

分別盛りの年頃と 言うてもよいに それがゆえに 取り返しつかぬと 苦しんだのかもしれぬ

余呉湖へ ずぶずぶ進み その男は沈んだ

死ぬのは勝手だが 驚いたのは 夜の湖で水浴びをしていた乙女達である

彼女達は白鳥となり舞い降りて 月を眺め歌い踊っていた

そこへ・・・

しかし このまま ほうってもおけない

一人の乙女は男を助けた

「ほうっておきや」

「人間の男はな 我らには哀しみしかもたらさぬ」

「妹よ・・・」

一番上らしき乙女が言う

「三年あげよう 天帝様に お願いしてあげよう 我らが人と交わり暮らすには それが 精一杯 過ぎれば死んでしまうゆえに」

天女の衣は畳まれ隠された

男は・・・ 己を看病する乙女に心身共に癒され 山奥の粗末な小屋と寺を 行き来して 幸福なうちに 二年が過ぎた 二人の子供もでき

その頃から 男の妻は 様子がおかしくなった 夜 空を見上げては 溜め息をつく

男は 妻が天女であることを知らなかった

いつまでも隠してはいられず 彼女は言う

「実はわたくしは天帝に使える者でございます」

愕然とする男に頼み込む 「子供たちを・・・」