と肩を叩かれた
同時にボストンと紙袋にも手が伸びてきた
「おかえり でもって ただいま」
先輩・・・大山隆史だった
「な・・・んで・・・」
「美智留さんから聞いた 今日帰って来るって 会いたかったんだ」
荷物を強引に取り返す「じゃ望みは叶ったわね さよなら!」
向きを変えるとついて来た
「話をつけたい」また荷物を取って 取り返せないように広い肩にかけてしまう
「話って何? そうそう美智留から聞いたわ 結婚決まりそうなのですってね」
「決まって欲しいとは 願ってるさ」
人くった笑顔
かっときて殴ってやりたくなる でもあたしには そんな権利ないのだ 逆に泣きそうになる
「・・・ですか お幸せに」涙見られないように下向いて呟く
急いでタクシーに乗り込んだ
「おい荷物!」
「あげるわ 好きにすれば」
動揺!駄目だわ 小娘みたいに体が震えている
あたしは まだ好きなのだろうか
それとも これは ただの未練
料金払って部屋へ 予期していなかったと言えば嘘になる 先輩の性格からして あのままで すまさないことも分かっていたような気がする
「荷物なんて いらないと言ったじゃない」
凭れていたドアから おもむろに身を起こし 一歩先輩がこちらに近付く
「荷物の持ち主も欲しいんだ」
「ざ・・・ざっけるんじゃないわよ あたしは非売品なんですからね こっこの すっとこどっこい おととい きやがれ」
なのに先輩は爆笑した 「変わらないな~その罵詈雑言の選択 相変わらず可愛い人だ」
こ・・・こたえない人だわ 何処まで厚かましいんだろう
「荷物を届けて戴いて有難うございました じゃ失礼します」 ドア開けて荷物を入れた 「話はすんでない」
「お土産配ったり用事があるんです 明日は学校だし」
「運転手タダでしてあげよう」
「じゃ準備するから車で待っていて下さい」 部屋には絶対入れない―って眼で睨む
降参降参・・・といったふうに両手を振り おどけた仕草で先輩は廊下を去っていく
まったく!あんな男相手にどうすればいいんだろう 幼馴染みで初恋の相手で・・・初めての男性(おとこ)
手早く買ってきたお土産を仕分けし 相手達の都合を確認する
先輩の車で行くことは―ついでに乗せてもらった だけでは すませられないかもしれない そういう鬱陶しい気分も含んでいた
先輩が何を考えているのかは分からない だから運転手がしたいなら してもらおう
「橋本栄三郎さんと珠洲香が結婚したのは知ってる? まずそこに行きたいの」
「店で会った 橋本って豪快な野郎だね~ 家なら知ってる 一度遊びに行った」
先輩は帰国してから随分忙しく時間を過ごしたようだ
「わ いらっしゃい」マタニティを着た珠洲香がいた 「お茶入れるの手伝うね」 ついて台所へ行く
先輩は栄三郎さんと居間で話していた
「赤ちゃんのこと 美智留に聞いたわ おめでとう どっちか分かってるの?」
「ん・・・たぶん女の子らしいの ありがと」 静かに珠洲香がほほ笑む で 表情を変え「急な旅行だったわね なんか大山さん焦ってたけど」
「焦って?」
「早智子には旅行に行くような恋人がいるのか―とかね 美智留も随分きかれたみたい」
余り立ち入らない性格の珠洲香は 何か気付いているにしても それ以上言わず あたしはそれが有り難かった 小一時間ほどして失礼をし 次は仁慶さんと美智留のいる寺へ
そこも先輩は勿論知っているのだった
「坊さんへの認識をあらたにしたよ 侮れないな~」
先輩は屈託がない「君は我が家の関西電力だ!って 口説いたんだってね」
「とても良い台詞 言葉だと思うわ ご家族の方みんなに受け入れられて 美智留は幸せだわ」
運転席で先輩は少し黙り込んだ
しばらくして 「仲良し三銃士も残りは一人か―」
「職業病かしら 女教師はオールド・ミスになりやすいもの」
「あるもんか そんな事」 先輩は少し怒ったようだった
何考えているのだか わかりゃしない 気分屋なんだから
珠洲香と同じよに 美智留もお寺の駐車場まで 迎えに出てくれていた
「ショーファーつきだ~ 一人旅行なんてズルイんだから」
部屋へ入ると仁慶さんが鉢巻きして 胡麻をすっていた 「や!今うまい団子ができるからね」
「里芋潰して胡麻まぶして揚げた団子 美味しいのよ
食べてってね」 さっと紙袋受けとり 「お土産お土産なっにかな~」と美智留がガサゴソ開けていく
「あ それはね こちらのおかあさまへ 香り玉なの 美智留のは青い箱よ これがお菓子でね
そっち仁慶さんにキーホルダー 形が面白いでしょ? で仁慶さんのお父様には扇子にしたわ どうかしら 気に入ってもらえるといいのだけど」
「うわ~お金使わしたね ごめんね早智子」 つついと腕ひっぱって他の部屋へ
「逃げたんだって早智子? スーパーの前から自転車で 先輩てば むきになってね 早智子いないものだから 面白かったわよ
それだけ気になるんなら こんなにほっとくんじゃないわよ ねぇ」 美智留は やんちゃな顔で笑った
「おかしいよねぇ」
あっけらかんと笑い飛ばしてくれる美智留
友人それぞれの持ち味で気遣ってくれているのだった
団子ができると仁慶さんのご両親も加わり 思いがけず賑やかな時間を過ごした