夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「しんしんと・・・―聡―2」

2007-02-25 16:16:30 | 自作の小説

それぞれに家族を持つ不思議 また持てずにいる事

その境界線は何なのだろう

妹などは 死ぬの生きるの大騒ぎして一緒になった

三才違いの妹は小学六年の女の子かしらに 実に四人の子持ちだ

翌日凝りもせず様子を見に行くと 先客がいた

しかも日本人じゃない 随分整った顔をした男の子が 史織ちゃんの枕元にいた

カシムという名前で近所に住んで 史織ちゃんを可愛がっているそうだ

「大山をご両親が知っていたらしいの 日本暮らしなのは ちょいとワケありでね」 カシムの母親は日本女性で 派手な夫婦喧嘩の末の里帰りが数年・・・・・ でもって石油王か何かの大々富豪の亭主はたまに 会いに来るらしい

実は裏に事情がある事まで気付かず 聞き流したが

カシムは史織ちゃんが気に入り いっぱしのナイト(騎士)を気取っているらしい

「見せてあげたいな 悪者は入ってこれない 美しい庭園

一緒においでよ いつか」

その様子は リトル ラブ ロマンス

あの調子で成長したら どんなプレイボーイになるんだか

「だいぶ 元気になったみたいだね」

早智子さんも嬉しそうだった

「高倉さんのお陰です 有難うございました」

非常に嬉しい~っと 財津一郎さんみたいに叫ぼうか 気でも変になったのかと思われるのが落ちだな 自重しよう

底知れぬ深い美しさを湛えたこの女性が欲しい! 堪らなく―

そんな気持ちは小学五年生の子供にすら 見透かされるモノだったらしい

「言葉は気持ちを伝える為にあるんだよ」 そうカシムに言われた 日常生活に複数のボディガードを連れ歩く子供って 一体何なんだ?!

どっかの国の王子様か?

どうやってせせこましい日本の道を走るんだ?! そんなデカイ車がカシムに近付く カシムの用事が済むまで 近所で待機していたらしい

物々しい警備 それに慣れている子供 怪訝な表情に早智子さんが言う

「あれでね ガードしてくれてるらしいのよ」

「?」

「結局 大山の死って ヒーローの死 みたいに扱われたでしょう? その会社 業種の横取りを狙っていた国は それが許せない らしいの

だから 何かしでかしてくるのでは?と 守ってくれてるみたいなの」

「あの常識と良識と謝罪が死んでる国の事か? 国ぐるみで泥棒かっぱらいを正当化している?」

「そう」

こともなげに早智子さんは微笑むが そりゃ~大変じゃないか

「大丈夫よ」

十年 大山が帰国できなかったのも その辺の事情が関係していたのか キナ臭い動きとは無縁な呑気な人生を送っているから 難しいことは判らないが

あの お気楽そうだった大山隆史は どれだけのものを内に抱えこんでいたのか 妨害者を罠にかけ 捕まえようと 失敗しても自分の命と心中にしようと

その男が愛した女性なのだ 早智子さんは

どうするよ?自分に尋ねる

平凡な男にすぎない 勝てる点は生きてるってだけの

「おかしな事があれば 気のせいなら 笑い話ですむ いつでも呼んでくれ」 それだけしか 言えなかった


高村薫著「地を這う虫」文春文庫

2007-02-25 00:34:51 | 本と雑誌

高村薫著「地を這う虫」文春文庫
「愁訴の花」殺人現場に花一輪 リンドウの花が飾られていた 荒らされた部屋の中

現場検証が終わり片付いた部屋の中

変わらずに咲いていた 若い刑事の妻が殺され その放埒な私生活 過去が浮かぶ

そして夫は妻を殺したのか ただ それだけの事件だったのか 月日は流れ 刑事は刑期を終え かつての上司は死にかけていた 反転 鮮やかな幕切れ 人はみかけによらないのだ 主人公はあらためて思う

「巡り逢う人びと」元刑事は今は取り立てや だが 過去に関わりあった人間達に出会い

その中で自分を見つめ直す

人は いつでも変わることができる生き物なのだ たぶん

「父が来た道」父が逮捕され刑事を辞職し 政界の大物の運転手をする男 この先は分からないが 何かを悟った主人公は 無事に人生を泳ぎきっていくだろうか

「地を這う虫」二つの職を持つ元刑事は その勘と地道な調べで 自作自演の事件に気付く

仕事変わるとも 自分という人間の本質は変わらないのだと 見失っていたものを再発見し 自信も ささやかだが取り戻す