山道をバスが行く 客はまばら
乗っているのは高齢者
老人ばかり
運転しているのは一応公務員になる
過疎を案じて特別課なるものが作られた
神室山(かむろやま)と隣り合った宮都山(みやづやま)は三つの橋で行き来出来るものの中腹から山頂までは 若者がいない
五十代なら若手に数えられる
この特別課のバス運転手に採用された一人が 一色(いっしき)のぞみ
報われること多いと思えないこの仕事を既に五年間続けている
すっきり細身で長身 都会的な美人の彼女に向いた仕事とも思えなかったのだが
男達が何人か辞めて入れ替わったあとも 彼女ばかりは続いている
朝6時から夜8時まで 神室山と宮都山にそれぞれ麓にある古比津(こひつ)駅と田加(たか)駅を巡回する
神室山中腹にある診療所の敷地内の別棟がバスの車庫かつ運転手の住居に充てられている
診療所は災害が起きた時の避難所も兼ねていた
のぞみの仕事は運転だけではない
彼女の携帯には おつかいの依頼連絡も入っている
麓まで降りないとスーパーすら無い為 買い物や 迎えにきてほしい連絡まで入っている
診療所に行く手段も無い為 巡回バスは山に住む人々から おおいにアテにされていた
のぞみは女性らしい細やかさと優しさで それらをこなし五年経った現在は 人々からの信用も厚い
最初 彼女を胡散臭げに見ていた診療所の変わり者の毒舌家の医師もある程度 認めてきている
特別課は次なる試みに取り掛かろうとしていた
両親がいない子供達を育てる施設「優愛園(ゆうあいえん)」の子供達の仮りの家として 高齢者の家を貸してもらう
夏休みなど長期休暇など帰る家を作る
触れ合いの場としては田植えや稲刈りなど園の行事として子供達に体験させ ー
子供達の人生に関わることだけに思い付きで出来ることではない
仮り親として子供達を受け入れた高齢者には 特別課からのサポートもある
特別課の人間達の熱意と夢は空回りすることもあり 彼らも挫けて落ち込むこともある
育った土地への愛が彼らを動かしていた
帰る家も家族もいないのぞみにとって この仕事は渡りに船だった
住む場所
仕事
かえってくる笑顔と有り難うの言葉
ややこしい事は何もない
出来ることだけすればいい
馴染んでみれば 人々は温かかった