兄は姿を消した
いっぷう変わった祖父からの兄と私への遺産
それを見にいったあと 兄は志望を変えた
医学部へと
それから獣医をめざすのだと
「考えたら あのワライグマとか達は病気になったら そのまま死ぬしかないんだ どうにかしてやりたい」
兄は あの生き物達に憑かれてしまったようだった
兄が無事に獣医となり 私たちが子供の頃から家の生き物を診てくれた 動物病院に就職した頃 母が死んだ
乗ったバスが事故で 中に小さな子供が残っていて
母はいったんは外に出たのにー その子供を助けに戻って その子供を火からかばって 致命的な火傷を
その小さな子供の両親は同じ事故で死んでて 祖父母という人間たちが母を見舞に
母は苦しい息の下から こう笑った
「麻酔がきいているから お医者様と看護師さんのおかげで痛みはないんです
お孫さんにやけどがなくてよかった
どうか ご無事に育ちますように」
母はいつもは自分で運転していたのに 眼科の検査がある日で その日に限ってバスを利用した
母は私と兄のことを案じながら亡くなり
父にはこう言った「さっさと再婚なさいね」
すっかり寂しそうになった父
そして母が助けた子供の祖父母は ちょっと大きな会社の会長さんとかで ひどく責任を感じ何かと気にかけてくれて
まるで親戚のような間柄になって
母が助けた女の子は私にやたらとなついてー
その女の子の叔父になる人が 私の夫になった
私が結婚して 一人目の子供が生まれた頃
兄は この世界を捨てた
孫を猫かわいがりするようになった父は 再婚することなく死に
私の子供たちもそれぞれに結婚してー
兄がいなくなってから ずいぶんと長い時間が過ぎた
一枚の葉書が届き 私は兄の死を教えられる
「オンジン シス 」
長い時間 兄は字を教えたのだろう
時間は十分にある
兄は 幸せだったのだろうか
今になれば祖父が兄と私を あの場所の相続人にした意味が分かる気がする
夏休みの宿題も 夏休みが始まる前から片づける計画的な兄はリアリストに見えたけど 本当のところは夢を追う人だった
そして私は 夢物語を追うようで現実も忘れない人間
この二人が必要だったのだ
孫の中の一人を私は あの場所の相続人に決めている
一度 見せておこうと思う
あの場所を
葉書が届いたのだから まだ人の言葉を話す生き物は残っているのだろう
あの場所を訪ねて 兄がどのように生きて死んだのか 話を聞きたいと思う
父もこの世にはいない
夫も死んだ
私も 少しくらいは 夢を追ってみてもいいだろう
あの場所の最後の一匹が死んでしまうまで 見守ってあげたい
いっぷう変わった祖父からの兄と私への遺産
それを見にいったあと 兄は志望を変えた
医学部へと
それから獣医をめざすのだと
「考えたら あのワライグマとか達は病気になったら そのまま死ぬしかないんだ どうにかしてやりたい」
兄は あの生き物達に憑かれてしまったようだった
兄が無事に獣医となり 私たちが子供の頃から家の生き物を診てくれた 動物病院に就職した頃 母が死んだ
乗ったバスが事故で 中に小さな子供が残っていて
母はいったんは外に出たのにー その子供を助けに戻って その子供を火からかばって 致命的な火傷を
その小さな子供の両親は同じ事故で死んでて 祖父母という人間たちが母を見舞に
母は苦しい息の下から こう笑った
「麻酔がきいているから お医者様と看護師さんのおかげで痛みはないんです
お孫さんにやけどがなくてよかった
どうか ご無事に育ちますように」
母はいつもは自分で運転していたのに 眼科の検査がある日で その日に限ってバスを利用した
母は私と兄のことを案じながら亡くなり
父にはこう言った「さっさと再婚なさいね」
すっかり寂しそうになった父
そして母が助けた子供の祖父母は ちょっと大きな会社の会長さんとかで ひどく責任を感じ何かと気にかけてくれて
まるで親戚のような間柄になって
母が助けた女の子は私にやたらとなついてー
その女の子の叔父になる人が 私の夫になった
私が結婚して 一人目の子供が生まれた頃
兄は この世界を捨てた
孫を猫かわいがりするようになった父は 再婚することなく死に
私の子供たちもそれぞれに結婚してー
兄がいなくなってから ずいぶんと長い時間が過ぎた
一枚の葉書が届き 私は兄の死を教えられる
「オンジン シス 」
長い時間 兄は字を教えたのだろう
時間は十分にある
兄は 幸せだったのだろうか
今になれば祖父が兄と私を あの場所の相続人にした意味が分かる気がする
夏休みの宿題も 夏休みが始まる前から片づける計画的な兄はリアリストに見えたけど 本当のところは夢を追う人だった
そして私は 夢物語を追うようで現実も忘れない人間
この二人が必要だったのだ
孫の中の一人を私は あの場所の相続人に決めている
一度 見せておこうと思う
あの場所を
葉書が届いたのだから まだ人の言葉を話す生き物は残っているのだろう
あの場所を訪ねて 兄がどのように生きて死んだのか 話を聞きたいと思う
父もこの世にはいない
夫も死んだ
私も 少しくらいは 夢を追ってみてもいいだろう
あの場所の最後の一匹が死んでしまうまで 見守ってあげたい