夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「恋する魔法使い」-16-

2017-04-07 20:39:09 | 自作の小説
レイダンド王ディスタンは前もってベルナーに言われたように とびきり豪華で威厳あるように見える椅子に腰かけ無言のままアクシナティの兵達と皇帝コキンタクを見下ろしている
「他の事を考えていても思惑ありげに睥睨しているように見えたらよろしいのです」
とベルナーは言った
遅れてやって来たカズール・シャンデ将軍は ディスタン王に一礼してからレイダンドの軍人達の端に立つ
少しして姿を現したベルナーはロズモンドと一緒だった
ベルナーもディスタン王に対し優雅な一礼をしアクシナティの兵達へと体の向きを変えると 城中に響く声で話し始めた
「リシュウライ将軍と名乗る魔法使いログサールは死んだ
今 かの領域の掟に従い火葬にしてきたところだ

愚かにもお前達はログサールの術にかかっていたのだ
皇帝コキンタクはログサールに操られ あろうことか皇女ファナクをログサールに与える約束をした

ゆえに賢明なる皇女ファナクは同じ魔法使いであるわたしに光栄にも助力を求められた
父上を正気に戻さんが為に
皇女ファナクだけが・・・ログサールの企みに気付いていた
聡明なる皇女ファナクはレイダンド王の保護の下にある

皇女ファナクはこれからは こちらの大陸と同盟を結び その交換条件としてアクシナティの兵達が無事に国へ帰ることを希望しておられる
反対する者はいるか?!
おらるるならば名乗り出られるが良い」

激昂している状況が分からない馬鹿がいた「誰に向かって物を言うか!アクシナティの皇帝コキンタクこそが物事を決める」

「この状況下でも それを言われるか
アクシナティの兵士達よ わたしには皇帝コキンタクのみが 死せるログサールの術から覚めていないように見えるが・・・・・
いかがか?」

国へ帰りたくない人間など居ない
皇帝コキンタクはログサールにかけられた術が解けていない 正気ではない
この考えは彼等には受け入れやすかった

ベルナーが魔法使いアスタリオンとしての力を言葉に混ぜ込んでいる為もあるのだが
「ならば わたしは皇帝コキンタクがアクシナティで皇后シュランサイに会われるまで 帰りの船の中では幽閉されることを提案する
正気であられない皇帝は如何なる奇妙な命(めい)を出すやもしれず危険だからである

アクシナティの勇敢なる兵士達よ
あなた方は今後 お優しくて眩しいほど美しい皇女ファナク様に従われるように
このレイダンドへの旅で皇女ファナク様は御自分の素晴らしい資質にお目覚めになられた
近い将来ご立派な女皇帝になられるであろう」

声の魔法 その抑揚でかける術
確かに こんな術が使えるなんて狡いかもしれない
見た目良し 声良し そしてその魔法使いとしての力たるや・・・・・
底無しーであるのかもしれない

「うん あれはズルいなー」とリトアールは言った
兄弟達も無言で頷く


その声一つでアクシナティの兵を操り皇帝コキンタクを封じ込めていく魔法使いアスタリオン

「では・・・いま皇女ファナク様がお出ましになる
ファナク様はレイダンドの姫君達とも御姉妹のように仲良くなられた
この絆こそが平和をもたらす

アクシナティの兵士達よ 国への土産に麗しきレイダンドの姫様方のお姿も眺められると良い」


今日ばかりは生きた宝石の如く豪華に着飾ったレイダンドの姫達と皇女ファナク
何しろ「できるだけ思いっきり派手にお願いします」とベルナーから頼まれていた

まだ・・・夜は明けていないが太陽が登ったような眩い美しさ
いっそ美の暴力と呼ぶべきか

姫君達の姿は夢のよう

艶やかに装った姫様方とは逆に濃い紫色の衣装のみの女官長メリサンドも凜として美しい

四人の姫のこれぞお姫様といういでたちは その美しさに慣れた筈の四人の王子達にも爆弾を落とす
アンドールはマルレーネの女王そのものの威厳ある美しさに ロブレインはエルディーヌの美以外の何物でもないその気高い姿に
リトアールはアシュレインの浮世離れした透明感と愛らしさに ダンスタンは珍しく豪華極まりない姿のリザヴェートに見惚れ
それぞれ心を掴まれる


アクシナティの兵達は皇女ファナクのあるべき姿での素晴らしい美しさにひれ伏した
この皇女が リシュウライ将軍の謀(はかりごと)を見抜き 自分達を国に無事に返す為に動いてくれたと言う

一人の兵が叫ぶ「皇女ファナク様の為に! ファナク様 万歳!」
他の兵達も後に続いた


ベルナーはアクシナティの兵達の様子を観察していたが 皇女ファナクの為に兵を選び護衛の任に就ける

皇女ファナクはベルナーのしてくれた事に感動しきりだった
頼りになる人間というものは・・・・

帰国するまでの限られた時間でベルナーの一挙手一投足をファナクは追い続ける
欲しい物が手に入るわけではないことはこの旅で学んだ
優しい眼の金色の髪の魔法使い
素晴らしく美しい声を持つ
まるで王のようなその佇まい
沙漠の砂の一粒までが従いそうな

ベルナー ベルナー
心の中で呼んでみる ベルナー

皇女ファナクが安全に国に帰れるように心を砕いてくれている
ーアクシナティに帰っても・・・きっと一生忘れない
その海のような瞳 どんな黄金よりも美しく輝く髪

「恋する魔法使い」-15-

2017-04-07 00:39:07 | 自作の小説
襲うとしたら夜かー
姿くらましの術をアクシナティの兵と皇帝コキンタクにもかけてレイダンドの城近くまで来た将軍リシュウライ

城に奇襲をかけて騒動の間に姫さん達にも術かけて連れ去ろうと考えている

アクシナティの兵がどうなろうが もう知ったことではない
面倒でしかなかった

煩いからコキンタクにもアクシナティの兵にも従うだけの術をかけている
ー馬鹿は術にかかりやすいーと将軍リシュライで元魔法使いのログサールは思う

レイダンドの魔法使いにも少しは意趣返しをしてやらねば

人の役に立つことは考えない人間だ

アクシナティの将軍としてアクシナティの兵を使い数え切れない人間を殺してきた
人の命を奪うことなど何ほどにも思わぬ

稀に術にかからない人間がいる
クリスタベルにはログサールの術は効かなかった

そうだ恋だの愛だのは人を弱くする
そんなものは人には俺には不要だ

それでも結局はクリスタベルへの執着を断ち切れていないログサール

似ているという噂のエルディーヌ姫

ログサールは自分の動機に気づいていない


人は愚かなものだ
己の愚かさに気づく 気付ける人間は少ない


夜 ログサールは覚めない眠りの魔法を城に向かってかける

静かな城へとログサールに操られたアクシナティの兵とコキンタクが襲い掛かる

「燃やせ! 襲え! 殺せ!」
コキンタクとアクシナティの兵士たちの頭の中にはログサールの言葉が響いている
善悪も何もない


殺戮を! 殺戮を! 殺戮を!

ログサールは一人 別行動を取る


城は眠ってはいなかった

それをログサールは まだ知らない
自分の術が生きていると信じている


故に故に彼は叫んだ
「現れよ レイダンドの美しき姫よ!」


「そこまでだ 」

現れたのはクリスタベルと同じ色の髪の・・・・・

「な・・・なんだ 貴様は 何者だ」

「アスザールの弟殿とお見受けする」
ーとベルナーは言った


「おまえがレイダンドの魔法使いー!」

万事休すかーとベルナーの様子に感じ取ったかーログサールは身を翻す

その方向にはベルナーの様子を心配して来たロズモンド

ログサールはロズモンドを捕まえた
ベルナーに向かって叫ぶ「お前がかけた術を解け!さもなければ この女の首を折るぞ
この女の体をバラバラにしてやる」


「私にかまわないで! 殺しちゃって!」

「僕は魔法では人を殺さない」

「甘いことを言うものだ」
ログサールは鼻で笑う


「その人を離した方がいいと思うけどなー」とベルナーが言い終わらないうちだった

ログサールの首が落ちたのはー

近寄ったベルナーがロズモンドを抱きしめる

「????」事態が理解できてないロズモンド

ころころとログサールの首が転がっていく

「こんな奴には問答無用だ」剣を収めて吐き捨てるように言うカズール・シャンデ将軍

夜襲が始まってすぐ将軍はロズモンドの護衛についた
それがベルナーの頼みだったので

ずうっと少し離れてロズモンドについていて ログサールがロズモンドを捕えると背後から音もなく近寄り その首を斬り落としたのだ


カズールにすれば やっと会えた自分の娘を殺されてたまるか!でもあったが

ベルナーは自分の弱味はロズモンドだとシャンデ将軍に言った
邪悪な魔法使いは相手の弱味を見つけるのが巧みだ

ベルナーはロズモンドの身に密かに守護の術をかけてはいるがーそれでも保険をかけた

「嫌な役目ですが魔法使いを殺すなら素早く 非情であらねばなりません
それにはシャンデ将軍をおいて他にはないと」

「有難うございます シャンデ将軍」
任を終えたシャンデ将軍をベルナーはねぎらった

無言で頷くとシャンデ将軍は庭へと向かう
そこにアクシナティの兵達が全員捕えられているはずであった


ベルナーはロズモンドがカズール・シャンデの娘であることは知らぬままに 最も適任の人間をロズモンドの護衛につけたと言える
喪った眼のことでもカズールはログサールの卑劣さを知っていた

自分の一番の弱点がロズモンドだと認めた魔法使いの青年 
あの男はロズモンドに恋しているのか!?
ひどく複雑な思いのカズールでもあった

親子であることについて詳しい話はまだロズモンドとしていない
アイーシャ メリサンド女官長も交えて今後の生活についても「家族」で話し合わないといけないだろう
願わくばー
もう離れて暮らしたくないとカズールは思っている
存在も知らなかった娘 会ったばかりの娘をベルナーは望んでいるのか
そしてロズモンドの気持はー

一度強くロズモンドを抱きしめたベルナーは 転がったログサールの首を拾い死体をまとめるというゾッとしない作業をしていた
「これを燃やすのに良い場所を知りませんか」とロズモンドに尋ねる

それから済まなそうに小声で言った「ごめんね 今はやる事ばっかりで追われてるんだー済んだら ゆっくり・・・ね」

燃やしても安全な場所でログサールを火葬にし 人をつけて見ていてもらってベルナーとロズモンドもアクシナティの兵が居るはずの庭に向かった

アクシナティの言葉が分かるのはベルナー一人

皇女ファナクはレイダンドの姫君達と一緒に塔に匿われている

四人の王子とベルナーとで説得して姫達は塔に篭ってもらった
姫君達を説得するにあたり ベルナーは少しだけ言葉に力を混ぜた
ベルナー「勝利を祈っていて下さい レイダンドの者達に犠牲がないように 祈りの力を頼りにしております」
ロズモンドも姫達と塔にいたはずだったのだがー


庭ではログサールが死んだ事により術も解け これからの事に怯えているアクシナティの兵と皇帝コキンタク

「アクシナティの皇帝に対して無礼な!」
とまだ この後に至っても威張っている


「あいつ うるさいんだけど舌を引っこ抜いてもいいかな」とアンドールに言ってみるロブレイン
戦い足りなくて元気が余っている

四人の王子達はアクシナティの兵士たちを捕える作戦の指揮をしていた
「しょぼい戦いだった」と振り返るダンスタン

「早く魔法使い殿が来ないかな 退屈だ」と欠伸するリトアール

暫くコキンタクの様子を眺めていたアンドールは ただ「みっともないな」と言った