人が倒れている 傷口から溢れ出る血を猫が舐める
血は止まらない
死が訪れた時 猫は空を仰ぎ ひと声鳴いた
死体は やがて朽ち果てる
「生きている?」話しかけられた男の声が少し高くなる
横目で相手を睨む「誰か 会ったのか」
相手・・・新井浩(あらい ひろし)は小声になる「姿を見かけたそうだ」
ー邪魔だったから殺した 確実に倒れて動かなくなったー
新井浩はおどおどしていた
ー小心者め!ー柳智(やなぎ さとし)は舌打ちをする
ーいちいち言いにくることか 使えない奴
あの女の持つ土地が必要だった
先祖代々の土地とか言い張り手放そうとしなかった女
迷惑だった こちらの計画の邪魔だ
邪魔なものは消せばいい
売買の書類はでっちあげる
その手続きに巻き込んだ新井
こっちも片付けた方がいいかもしれん
秘密を知る人間はいない方がいい・・・・・
他人の空似だろうが 姿を見かけた奴がいるのなら
それは あの女を「生きている」ことにできる
かえって好都合じゃないかー
柳智はほくそ笑む
それから間もなく 新井浩の死体は川に浮かんでいた
何に襲われたものか顔には傷跡
片目は抉られていた
ひどく怯えた表情のまま凍り付いた死に顔
手を汚すまでもなかったかと柳智は喜んだ
ー金儲けの為に殺した女
所有する土地はいただいた
書類をつくらせた新井も死んだ
あの女の死体は とうに朽ち果てたはず
暗い森の奥でー
柳智は高笑いをする
道徳心も良心も持ち合わせてない男
己の心が醜く歪んでいることの自覚もない
自分中心 壊れている人間なのだ
十階建てマンションの最上階のベランダから空になったビール缶を投げ捨てる
ー奪われる奴 盗まれる奴の方が馬鹿なのだ
世の中は盗ったもん勝ち
間抜けな連中の相手などしてられるかー
もう少し飲もうと缶ビールを取りに部屋へ入る
冷蔵庫の扉をあけて缶ビールを取り出そうとする
背後で猫の鳴き声「みゃ・・・おぅ」
柳智が振り向くと 部屋の隅に長い髪の女
「なんだ お前 何処から入って来た」
にいぃっと女は笑ったか ー見覚えのあるような・・・・
そうだ 俺が殺した女だ
新井に手伝わせ 騙して呼び出し・・・捨てて来た
ただ目が違う
丸いのに吊り上がったこの目
妙に光る
まるで猫の目のようなー
猫?! あの女は白い猫を飼っていた
車にも乗せて連れてきていたか
あの時・・・・・
まさか まさか 化け猫など昔の映画だ
こんなモノに殺(や)られてたまるかー
だがー男は動けないのだった
殺した女の顔を持つモノは近づいてくる
笑いを浮かべた口が大きく裂けて 鋭い牙が現れる
構えた手が5倍ほどの大きさになる
長い爪が男の両目に食い込み抉る
抉られた目玉が床に転がる
顔の皮膚もぺろりと剥がれた
男はまだ死ねない
両目が無くなり何も見えなくなった男は もがきながらどうにか逃れようとし 部屋の外へ
ベランダに出て
喉を食い破られ バランスを崩し 落ちて行った
残ったモノは ひと声鳴いて
そして 居なくなった
殺された女の怨念か
それとも飼い主を殺された猫の仕返しだったのか