藍染袴お匙帖シリーズ第三作
「父子雲」 長崎でシーボルトに引き合わせてくれ恩に なった井端が切腹 江戸にいる井端の家族はバラバラに 心痛める女医者 千鶴に シーボルトから井端の家族に会いたいという願いが―
だが井端の長男は誤解から シーボルトの命を狙っていた
「残り香」 亡き父の友人で 今は親代わりにも思う酔楽が 若い女に騙されている?!
千鶴は皆と 女の周辺を調べ始めるが・・・・・
無鉄砲な千鶴を心配する求馬 二人の恋の行方も気になります
藍染袴お匙帖シリーズ第三作
「父子雲」 長崎でシーボルトに引き合わせてくれ恩に なった井端が切腹 江戸にいる井端の家族はバラバラに 心痛める女医者 千鶴に シーボルトから井端の家族に会いたいという願いが―
だが井端の長男は誤解から シーボルトの命を狙っていた
「残り香」 亡き父の友人で 今は親代わりにも思う酔楽が 若い女に騙されている?!
千鶴は皆と 女の周辺を調べ始めるが・・・・・
無鉄砲な千鶴を心配する求馬 二人の恋の行方も気になります
藍袴お匙帖シリーズ第2作 千鶴は女医者 囚人 弱い者 虐げられた者へ 亡き父譲りの正義感と優しさで接し ゆえに事件にも巻き込まれていく
彼女に恋する求馬は 内心はらはらしながら 見守っている
千鶴先生は 心温かな知人達に囲まれ 頑張るのです
長谷川伸著「日本左衛門三代目」 取り手の囲みを破って逃亡した手段 その男の意外な現在
土師清二著「ありんす裁判」 事件の証人に呼び出し受け 花魁道中をするという その首尾は
山手樹一郎著「兵助夫婦」 婚礼の夜 新妻は言う 暴行されたことがあり生娘ではない と
事なかれ主義で呑気に生きてきた兵助だが 妻をかつて手籠めにした男の嫌がらせに ―斬る!―と決意してから生来の度胸 大胆さが 彼の人望を高める
村上元三著「狐の殿様」 急に大名になってしまった男は 生まれながらの大名とは 考え方 行動 まったく違っていたが なかなかに良い方へしたたかであった
故 市川雷蔵さんをイメージしつつ読みました
池波正太郎著「信濃大名記」 真田信之のある女性への恋情 堅実な生き方 その覚悟
湊 邦三著「藤馬は強い」 みかけが魁偉な為か 周囲から豪傑と思われている男は 戦いは苦手だったが 遂に戦う羽目に!
何処かユーモラスな作品です
戸部新十郎著「結解勘兵衛の感状」 落ち着かず主を決めず戦う男の人生は満足のいくものであったのだろうか
野村敏雄著「篝火と影」 父 斉藤道三を殺し 織田信長との戦いを 考える男の傍らには 裏切り者がいたのだ
新井英生「噂のぬし」吉良上野介は生きていたのだろうか?
松の廊下での刃傷の裏にあったものとは?
平岩弓枝「金唐革の財布」 詐欺にあった男が死んだ 事故か殺人か
世の中はせちがらい
髪結い伊三次捕物余話シリーズ
「薄氷(うすひ)」 親から売られそうな娘は 子さらいの手伝いを
「惜春鳥」 とうとう無頼派が押し込みを?! 八丁堀純情派 しだいに際立つそれぞれの個性
「おれの話を聞け」 おれの話を聞け~~~♪ あの歌から思い付いた題かしらんと
八丁堀純情派の一人 西尾左内の姉は病気で実家へ戻っている 離縁話しが出ていたが いったん広之助は両親の言いつけに従うが 「やっぱり駄目だ 別れることはできぬ」
「のうぜんかずらの花咲けば」 捕まったお梅は売女でもないのに 身を売っていた と言う 何故なのか
若い娘好きの梅田は 見張りに外させ手を出そうとする
「本日の生き方」 辻斬りは自分の仲間すら斬った
八丁堀純情派は少しずつ成長している
「雨を見た」 無頼派の一人を捕まえたものの・・・
この戦いはまだまだ続きそうなのだった
髪結い伊三次捕物余話シリーズ
「妖刀」 刀を売ってくれと持ちこんだ相手を頼まれ探る 同心不破友之進の小者でもある髪結いの伊三次 女隠居の髪を結うのだが― 人を傷つけずにいられない刀は 存在するのか
「小春日和」 不思議な巡り合わせで 要領悪い男の片恋に頼まれもしないのに協力する シリーズの常連達
想い人 美雨を得て少し男らしくなった堅物の 手は尽くす?作戦も面白い
「八丁堀純情派」 働き始めた不破龍之進 本所無頼派に対し 同期6人で捕まえようと決意する
「おんころころ・・・」病が重い息子が気掛かりながら 役目にかどかわしらしき事件を探る伊三次は不思議な出来事に遭遇
「その道 行き止まり」 自分が言った為に 父の罪が露顕し憧れてた女性は長屋暮らしに
罪の意識覚える龍之進は その人あぐりに幸福になってほしいが 無頼派の一味が近付いていて・・・ 彼は苦悩する
「君を乗せる舟」 やはり無頼派の一人は あぐりを売って金にしようとしていた
かつて自分の娘を吉原から取り返せなかった不破家の下男 作蔵は あぐりを庇い凶刃を受け落命する
迷いからさめ あぐりは縁談相手に嫁いでいく
龍之進は嫁ぐあぐりが乗る舟となり 嫁ぎ先まで送りたかった と考える
座長になり懸命に過ごすうち 三十が目の前に来ていた
不思議な気がする
女座長に密着取材という番組の申し込みには驚いたけど 宣伝にもなるのだしと気持ちを切り替えた
今は結婚して旅館の若女将になっている友人へ 電話すると喜んでくれた
わたしは今も彼女が舞台に立つ道を選ばなかったことを少し残念に思っている アイデアとかも豊富な人だった
大切な友人の一人だ
テレビ局の人について来た人がある 二時間ドラマの脚本家だと言う
髭面 黒いサングラス 見るからにうさん臭い シナリオ・ライターは知り合いにいないけど テレビや雑誌で見る脚本家は もっとこざっぱりしているわよ
ぬっと無駄にでかいし 取材だと言って 座員から話を聞いていた
妙に鋭い視線をぶつけてくるので 体を切り裂かれているような気持ちになる
直接には話しかけてこないけど 胃に穴が開きそうだ
いい加減にして!と叫びそうになる
「座長 調子悪くない?顔色悪いような―」 「花琴ちゃん ありがと
次は迎え橋の先だから そうしたら少し休めるわ」
娘役が得意な小柄な相手が心配そうに見上げるのへ 「ここが終わり次第 あちらへ来ればいい そう言ってもらってるの」
ここの後 十日ばかり次の舞台まであいている
それなら早目にきたら と友人が言ってくれていた
あの脚本家もそこまでは追いかけてこないだろう
溜め息ついて向きを変え歩きだすと
「迎え橋って そこがパトロンさんなわけか」
腹立たしいほど知ったかぶりの声が かかった
「?」
「よせやい カマトトぶるのは 声かけられたら断れない売女揃いじゃないか 役者なんてのは 色恋を欲の算盤ではじきやがる」
こいつ 殴ってやろうかと思ったけど こっちの手を怪我しそうなんで 踏みとどまった
「この都藤のご贔屓には そんなケチな了見の方はいやしません 花扇は男など必要としておりませんのさ
てめぇの汚い心で醜い世界でっちあげるのは そちらさんの勝手 どうぞ ご自由になさいませ」
ついでに あっかんべ~もしたかったが我慢した
なんて嫌な奴なんだろう
男なんて そんな暇ありはしない・・・
この世界 早く結婚する人もいるけれど
旅役者って そんなふうに見られるものなのかしら
情けない 悔しいわ
啖呵をきっておきながら ひどく弱く脆くなっている自分を感じていた
次の仕事先の迎え橋 そこへ荷物を届けたら数日自由にして良いと 言ってある
わたしは逃げこもうとしているのだった
橋よ 橋よ いやな相手には 塩まいておくれ 渡らさないでおくれ
渡りながら呟いた
若女将である友人は その脚本家の話を聞くと
「近くに殴りやすい木刀は無かったの 埋めるにいい穴とか」と物騒なことを言う
で 脚本家の名前を言うと真顔で言う
「うちの旦那あの人なんか異様に物書きや芸能人の本名に詳しいんだけど 予約受けてるわ
どうしよ ブッキングでしたって断ろうか?」
「だって宿の信用問題でしょ 部屋にこもって出ないようにするわ」
心配そうな顔に笑顔を作った
「ごめん 逆さ箒のおまじないを その人の部屋に隠しておくわ」 真面目な顔して どっか面白い友は 変なイタズラは得意でもある ちょっと不安になった まさか・・・ね
若女将の旦那 英一郎さんは「ひっかかるな」と思案ありげに言ったとか 英一郎さんは日頃は趣味「奥さん」というくらいに 若女将の陰にいてサポートに徹している
妻である若女将は彼が怒りかけた顔すら見たことがない―と言う
穏やかな人なのだ
その日も英一郎さんと若女将とで 用事片付けがてら 開店した場所へ一緒に行こうと誘ってくれた
出しなになり子供が熱をだし 病院へ連れていくから 「用事は百合子 悪いけれど 私の代わりに片付けてきて」 若女将が拝んだ
用事済ませて 宿へ戻り先に小さな荷物持って車を降りた
例の やな奴が 唇歪めて こちらを見ている 後から車を降りトランク開けた英一郎さんと わたしを見比べた
「たいした荷物だ 貢がせるのは色恋に入らないってか」
「い・・・」 いい加減に!と殴ろうと手をあげた わたしをひょいとどけ
大きな背中が目の前いっぱいになる
そして嫌味な脚本家は尻餅をついていた
「安く見ないで貰いたい 妻の親友に手をだす男ではない だいたい妻に対しても百合子さんにも失礼だ 全ての男が 君の父親と同じではない
せせっこましい了見はあらためたまえ!
気になる好きなコをいじめたい 泣かせたい 悪口言っても振り向いてほしい― 小学生ならまだ可愛いが 格好悪すぎるというものだ」
「・・・」
「百合子さんは家族と同じだ」
穏やかでも怒ると怖い 迫力があることがわかった
英一郎さんが言うには あの脚本家の父親が旅の女役者に狂い 借金してまで貢いだ挙げ句 捨てられ 自殺した 借金を返す為 働き続けて 母は死ぬ
だから女役者は皆同じ と 恨みだらけで見るのだろうと
「お客に手をあげるなんて いけない事です」 照れて英一郎さんは笑った
案外この二人 似たもの夫婦では・・・と思ったのは夜のこと
若女将はお客様への挨拶に各部屋を回っていた
「当館の者が お客様に手をあげたとか 誠に申し訳ありません」若女将は あの脚本家に頭を下げた
「客を選ばないと宿の値打ちが下がりますな」
若女将は ころころ笑った「本当に お客様のおっしゃる通りですわ」
「分かっているなら話は早い 叩き出すんですね」
「そうされても かまわないと?」
「なにっ?!」
「お客様 私にとって百合子は身内も同じ
とやかく言われるのは私共に アヤつけるのも同じことです
百歩譲って 同じ客と言い張られるなら 他の客のこと とやかく言いあげつらうのは マナ―違反でございましょう」
「・・・」
「さて貴方様も仮にも物書き 職業が同じなら人間性も一緒などという考え方が理屈に合わないのはお分かりでしょう
仲良くなれた頃に転校する子の寂しさが分かりますか? 座長というのは大変な仕事です
私は友人として花扇が「百合子」という人間に戻れる場所をいつでも開けておいてあげたい 嫌な事を申し上げました
こんな宿泊まれないと思われましたら 他の宿を手配致しますので いつでもご連絡下さいませ
それでは失礼致します」
後で そのやりとりを仲居さんから聞き わたしは泣きそうになった
若女将は一言も言いやしなかったから
人を庇って自分が矢面に立つ性格は 学生時代から変わってないのだった
クラスの反省会かで一人に非難が集中した時 「私達は そんなに偉いの?完璧なの? みっともない事するのなら 悪いけどイチ抜けるわ」
なんて強い人だろうと思った 級友のほとんどを敵に回しても
やがて芝居が始まり25日間
あの脚本家は余程暇なのか 毎回毎日舞台を見ていた 何を考えているのだろう
気にしないことにする そんな余裕はないのだ 時々テレビの取材の人が来る事もあってか いつも以上の入りだった
座員皆へ大入り袋が配られ 最後の日は二段重ねの豪華な弁当も出た
舞台が終わると「ご苦労様でした また来られる日を 今から首を長くして待っております」 挨拶をして宿へ戻っていく
座員は彼女の事を旅館の名前ではなく 近くの橋の名をとり{迎え橋の若女将}と呼ぶのだった
後を追った私は 彼女が脚本家に話しかけるのを見た
「ひと月近く芝居をご覧になっていかがでしたか? 人は悪くとろうとすれば 幾らでも悪く見ることもできましょう
そういう考え方 生き方も必要かもしれませんがつまらないと思うのですよ
楽しく生きるも不幸を求めて生きるも その人しだい また一つの選択ではあるのでしょう
私はしあわせになれる方がいいです」
女のわたしでさえ見惚れる艶やかな微笑残し影は遠ざかっていく
脚本家は ただ考えこんでいるようだった
できるものの荷造りを済ませ 湯に入り 宿へ戻り 朝まで覚えず眠った
出発を見送りにきた若女将は あの脚本家から手紙を預かってきていた
「車に乗ってから読んでほしいのですって」 「素直じゃない男だ」と英一郎さん
「あら 何 貴方?」軽く睨む若女将に 「経験者なんで 恋わずらいのバカ男はひと目でわかる」
「バカ男ねぇ」
じゃれ合いの痴話喧嘩など始めそうな雰囲気だった
そして手紙の中身は
[まず謝っておきたい 僕は無礼だった 何も見えていなかった こんなにも美しい女が 男がいないはずがない 日本中至る所で 男を騙し 貢がせ巻き上げているに違いない そんな思い込みがあった
そして ただ反感を募らせ ことあるごとに機会を捉え侮辱することに執念を燃やしていた
君の友人のご主人にひと目で見抜かれる底の浅い・・・情けない男だった
直接謝れず手紙で逃げている
あなたが あなたに恋をしていたのだ
あれだけひどい事を言い ひどい態度もとり続けた
役者 都藤花扇としても 百合子という一人の女性としても好きだ
恋をしていると自分に認めてから 楽になった
もし迷惑でなければ
君から 困りますの言葉がない限り 今度は恋する男として あなたを追いかけるつもりだ あなたをモデルにしたヒロインが登場する小説を書き始めた 完成したら送るので読んでほしい]
やっばり勝手な男だと思う
それなのに本の完成と 恋する男として どんな追いかけ方をしてくれるのか 楽しみにしはじめているのだった
橋よ 橋よ 今度は 楽しく渡ることが できるだろうか また来る日まで それまで さよなら 橋よ・・・
「桜花を見た」 入れ墨判官の異名もある遠山奉行 彼が父親であると教え母は死んだ 名乗りをあげる決心がつかぬ男の為 出戻りのお久美は 一計を
父に会った男は ある願いを口にする これがこの作品のタイトルにもつながるのだが 願いの叶った男は幸福に生き抜いた
「別れ雲」 借金を残し店を潰して出ていった婿養子 年下だが気になる男もできた頃 夫が姿を現し復縁を迫る お店の再建 筆作りの腕
一番好きな惚れた男と一緒にいちゃいけないのか 迷う女は―
そして後悔が残るのだ
「酔(え)いもせず」北斎の娘 お栄の絵ゆえに苦しみ ただ描き続ける 描くことで生きていく その業
「夷しゅう列像」 松前への復領に画家としても力を尽くした男は 自分の非力を知りできることで 頑張り抜いたのだった
「シクシピリカ」 前作と裏表のようでもある 同じ時代を舞台にした作品
知識欲に燃える元吉は蝦夷調査隊に加わり蝦夷語を覚える
晩年 今まで得た知識を託す相手として シーボルトを選んだ
シクシピリカは蝦夷語で いいお天気―という意味だそうだ
日本人に虐げられたアイヌ―蝦夷人 より温かく独自の文化と誇り高さを持つ民族 だが松前藩を始めとして騙し迫害し続けたその歴史 かえようはないが 恥ずかしい―と思う
巻末にある作品リストは 未読作品チェックにも便利です
原案ポ―ル・T・シェアリング 翻訳 小島由起子
マイケルは無実の兄リチャードを救う為 脱獄の計画を立て 犯罪者となり 囚人となった
考え抜いた計画は 次から次に起こる不測の事態の為 変更を余儀なくされる
後にひけない状況で強行突破 だが 追っ手は そこまで迫っていた
兄弟の父が 正体不明の組織から狙われていることが明らかになります
やな女の副大統領が 大統領の急死により 大統領に
波乱含みで 更に続きます
春日局が竹千代を世継ぎとして立場を確立し 大奥を盤石揺るぎ無きものへ築きあげ 次の世代の者達に託し 亡くなるまで その時代が中心のドラマ
春日局を演じたのは松下由樹さん
25年ほど昔には三代将軍家光を 今は亡き沖 雅也が演じた
御台所を坂口良子 おまんの方 紺野美紗子 おらく 藤 真梨子 おたま 藤吉久美子
そんなキャストであったように記憶している
瀧山役 浅野ゆう子
解説によれば 4代の将軍に仕えた(家慶 家定 家茂 慶喜)とか ドラマのノベライズ
昔 作られた大奥モノに比べると 女性が強く描かれております
よよよ・・・と泣き崩れる女性も少ないし
東映の佐久間良子が三姉妹の次女で 将軍の寵愛を受けたがゆえに死に
将軍がその亡骸を抱えて歩く この場面が印象に残っています
「ちっちゃなかみさん」 三代続いた料理屋 向島の笹屋の一人娘お京 彼女が好きな見込んだ男は 担ぎ売りの信吉 彼は姉の子二人(お加代と治助)育てており その父親が堅気じゃないので お店に迷惑かかっては―と 話を断る 夜堪え切れず泣くほど 夢で呼ぶほど お京が好きでありながら
幼いながら叔父の苦しさを思う加代は治助を連れ せんに長屋へ訪ねてくれたお京の両親に頼む
自分達がいなくなるから叔父を お嬢さんと一緒にさせて下さい
話を聞いたお京の両親は ちっちゃなかみさんと呼ばれるお加代のいじらしさに
お京の代わりに 加代と治助を貰いましょう まだまだ子供の一人や二人育てられますよ
―久しぶりにいきいきしている妻に 嘉平は若やいだ気分になった―
あたたかな本当に良い物語です 私はこの話が大好きです
「邪魔っけ」早くに母が死に 幼い弟妹の為に懸命に母親代わりをこなし働きつめできたのに
上がいかないから あたし達みんな変になるのよ 大嫌い と言われる
生まれ育った店を追い出された長太郎は そんなおこうの言葉が胸に応え 生まれ直そうと思う 生きていくのに必要な女
長太郎により おこうも救われるのだった
八方丸くおさまるのだけど 弟妹達は誰のせいで 姉がいきおくれになったのか 感謝が足りないわ! と思うのでした
「お比佐とよめさん」 両親が早くに死んで 弟が良い家のお嬢さんを嫁に貰う ―それが夢だったのに
弟の好きな人は 過去のある女性
お比佐は それが許せず 酒を飲み・・・ 事件は起きる
「親なし子なし」 三河屋の嫁になりはしたが 姑からも夫からも人間らしい扱いをされず 前の夫の連れ子は 育てた志乃から金をむしりとろうとし 更には犯そうとまでし 幼馴染みの幸吉に刺される
同心 三枝のはからいが あたたかい
つんとくるあたたかさ しみじみと
「なんでも八文」 家つき娘は我が儘に暮らすうち孤立していく 馬鹿にしてきた相手にあわれまれる人間になってしまっていた 報いといえば報いですが ちょって残酷な話かもしれません
「かみなり」 冷たく勝手な男は 呆れられ妻子に去られる 一人になった男は 事情ありの身寄りない赤子を可愛がるようになるのだが
「遺り櫛」 はなからの役目とはいえ 夫を罪人とした妻 ひと言いたくてやってきた女の素姓は実は― 浅はかな嫉妬が得難い幸福を 醜く崩壊させてしまった
「赤絵獅子」 男が自分の素姓を知った時 それは死にもつながっていた
有田焼を巡る 加賀の隠密
遺された妻子の旅は哀しい
「女ぶり」 実在の人物の若き日
男を恨み 武士へ反感を持つ女は娘の父の名を 誰にも言わない
粒揃いの作品集です
今年は箱と籠いっぱいに柿が成りました 一本の富有柿の木で こんなに実がなるものなのですね
少し知り合いに配りましたが中なかへりません
働いていたホテルが小規模な改装をする為 ぽっかり十日ばかりの休みが手に入った
久し振りに家へ帰ることにし マンションを出た
母の部屋からは三味線の音がし 小唄か何か歌う声がした
「ただいま」声をかけ入ると年配の婦人が三味線を置いて頭を下げた
「おかえり 須磨乃さん 息子の英一郎です」
紹介されて 須磨乃という人の孫が 今入っている旅役者の一座に臨時で応援に出ているという
母は須磨乃という女性と すっかり仲良くなっており その孫娘のことも「いまどき珍しいよくできたお嬢さん」と気にいっているのだった
一座の芝居も大広間での太鼓も評判がいいと言う
「一座のお嬢さんも華があって 自然に人をひきつけますねぇ 気取りがなくて明るくて」
その美しい娘達を 少しでも早く見たくなり のせられたと思いつつ 早々に部屋を出た 事務所で芝居の時間を確認する
芝居小屋のある別館へ走った
歌謡ショーが始まっていて どちらも女性だろうが 片方が浪人姿 片方が艶やかな花魁に扮していた
どきどきするのは舞台の演出のせいだ そう思い込もうとした
学生時代 ただ旅館の女将になりたかっただけの相手を そうと知らずに愛されていると思い込み 苦い思いをしたことがある
旅館の後継ぎ以外に自分に女性をひきつけるものなどない―自信を失ってもいた
だから姿を眺めるだけで満足なのだと自分に言い聞かせた
遠くから聞こえる笑い声 大抵一緒にいる二人の娘
一言でいいから言葉を交わしたいと願うようになり―
想うばっかしで 何もできないまま 彼女が帰る日になってしまった
「駅まで送る車 運転するよ」無愛想に言うと 母は呆れた目をし 後ろを向いて噴き出した 「せいぜい頑張りなさい」
駅まで送る車中で どう切りだそうか迷ううち 須磨乃さんの助け船もあり 朝市の案内とかで時間延ばしはしたものの 別れる時間が近付き 馬鹿みたいに「会いにいってもいいですか」それだけ言った
彼女は ただ呆れていたように思う その時初めてまともにこちらを見てくれたのだった
言いたいことは いっぱいあったのに
ただ見ていた
ふられて当たり前だと思っていたんだ
「お電話お待ちしています」 断らないのは彼女の優しさか その優しさに甘えることにして 休みがとれると 会いに行った
半年目なんとなく彼女の気持ちがこちらを向いてきてくれたような気がした
従業員のこと 旅館への夢 とにかく自分のことを知ってほしくて ひたすら話した
彼女は黒い瞳をこちらに向け 聞いていてくれる
「橋を渡り帰ってほしくなかった ずっと橋のこちらにいてほしかった
橋を渡って ずっと一緒に暮らして貰えないだろうか あなたと生きる人生が僕の願いです」
それから何の映画を観た帰りだったか 食事して駐車場まで歩く道 「いつかのお話ですけれど」と彼女が言い出した
「まだ お気持ちは変わっておりませんか?」
何の話か すぐにはピンと来なくて はっきり断られたら会えなくなる その恐ろしさの方が勝っていた
「会社をすぐに辞めるわけにはいきませんが―」
銀杏並木の下で彼女が足を止めた
長い髪が風に揺れた
時が一瞬凍り付き それが彼女なりの こちらの求婚を受け入れた言葉なのだと気付いた 愛しているとか好きという言葉は言い出しにくいものだったらしく 彼女がその言葉を言ってくれたのは 結婚して暫くたってからだった
互いに無器用なタチだったのかもしれない
鏡を見て妻が身支度を確認し 深呼吸して背筋をのばす
黒い瞳のまっすぐさも 笑顔も初めて会った頃と変わらない
この先何があっても妻がいれば なんとか頑張れる
そう思う
たまにふざけて運転手のまね事をすると 妻は笑う
そのたびに もう会えないかもしれないと 必死になって運転手のふりをした日の事を思いだす
あの日は橋を叩き壊したいとまで思った
長い事勤めてくれた仲居が一人抜けた 生け花やお茶の心得もある人で いつのまにか頼みにもし 重宝していたから 一人抜けた穴は 思いの他に大きかった
少し相手が年上の事もあり 相談したり愚痴ったりしていたようだ 事情のある人―というのは判っていた
その人の穴埋めに 少し若い人を二人入れることにした
続いてくれるといいのだが
旅館の近くにある橋は縁起を担ぎ{迎え橋}と呼ばれている
誰が言い出したものか 朝に夕に霧が流れることが多いこの街では 朝日や夕日を浴びて輝く赤い欄干のある橋は ここを訪れる人の記憶に残るものの一つとか 川を渡り他の土地へ出ていく― 街を出るには橋を渡らなければいけない
裏道もあるにはあるのだが それは山を回り随分と細い道で危険だ
土砂崩れもよくある
最初にこの橋を渡った時は この街に住むようになるとは 思っていなかった
あれは随分と遠い昔の話になる・・・
一時の事だけどクラスメートだった百合子と再会したのは卒業を控えた三月の事
芝居が好きな祖母を近くの健康センタ―へ連れていった時のこと
「都藤一座・・・これって高校の時に転校生がいたわ」
思い付いて花屋さんへ連絡し飾りのお花をお願いした
お風呂に漬かり料理を食べながら 旅役者の芝居を見る たまにはおばあちゃま孝行ということで おっかなびっくり若葉マークの運転でやってきたのだ
按摩もしてもらって祖母はくつろいでいた
日舞も三味線 民謡も最初はこの祖母にてほどきを受けた 長唄 浪曲と趣味の広い人である
百合子と私を親しくしたのも 互いに踊りをするからだった
今日のだし物は 芝居が「瞼の母」で 役者による歌謡ショーと
百合子は主役の忠太郎を演じていた 長身なので男役も似合う
芝居と歌謡ショーの合間に一座のカレンダー 手ぬぐい グッズを売りにくる
今度は芸者姿の百合子が つついと近寄ってきた
「お花ありがと~ びっくりしちゃった ね ね 電話して良い? ご飯食べ行こうね」
早口で言って 紹介した祖母にそつなく挨拶をする
手ぬぐいとカレンダー うちわを祖母が買った
歌は客の世代を考えてか 演歌や軍歌が多かった
百合子とは 次の仕事場所へ移動する前に会うことになった
駅前の喫茶店へ少し遅れてきた百合子は 両手を合わせ「ごめん~」と言いながら席についた
「何かあったの?」
「片付けしていて 荷物が変な落ち方してね 二人ほど骨おっちゃったの 当分動かせないっていうから
お母さんは風邪で声が出ないし・・・ 応援を他の一座に声かけてるのだけど・・・」 軽く額を押さえる
急に嫌な笑い方をした 「ね ね これって運命だと思わない」
「な・・・何?」
「このタイミングで歌って踊れる級友に再会するなんて」 百合子は瞳をキラキラさせた
「お願い~十日で良いから 芸者やらない? 元相撲取りのやくざは私 あなた懐メロも得意じゃない」
のるまいと思いながら私は言ってしまった 「だしモノは 一本刀土俵入り・・・ね」
「ご名答~さすがアイドルより時代劇の渋好み~~~」
「殴るわよ」 そして二人で笑い転げた
就職前に旅役者のバイトは両親がイイ顔してくれないので 祖母が同行し別に部屋を取ることに
「何事も経験」と 祖母の方が嬉しそうだった 宿泊する旅館の近くには 祖母が大好きなパチンコ屋さんもあると言う
大広間で夕食後に娘太鼓のステージも 百合子はこなすと言う
「少し教えとく」 こう持って こう構えて 打ち方のリズムはと・・・楽しそうに教えてくれた
「都藤花扇(みやこふじ かせん)綺麗な名前ね~」
「そうだ あなたも本名でなしに 名前・・・ 客演だから 夢屋姫雪 どう?」
と 名前もいただいた お芝居になったら 厳しいのだが 百合子はいつも楽しそうだった
「だって引っ越しばかりで やっと打ち解けた頃に転校で 手紙もいつしか やりとりできなくなるし
こんなふうに 同い年の友人と長く過ごすことなかったもの 無理言ってごめんね そして有難う」
百合子は孤独なのだった 家族 身内同様の役者仲間の中にいて
近いうちに座長になるのだと言う
「責任がね~やれるという気持ちと 不安と 時々眠れなくなるわ
どうやれば お客様に喜んでいただけるだろう 見て良かったと思ってもらえるだろう」
私達は長い時間を一緒に過ごした
お昼の部と夕方の部と休みなしにこなし 早目に食事を摂り 大広間でのステージ なかなかに忙しいのだった
途中から片肌脱ぎ 最後はもろ肌脱ぎになる百合子のステージは人気だった 一座の女達が胸に晒巻いて半纏姿で従う
何もなければ ちょっとした冒険で終わるはずだった
祖母がパチンコで得た景品を仲居さんや一座に分けて いつの間にか宿の女将さんとまで仲良くなっている事を私は知らなかった
他の旅館へ働きに出ている女将の息子がたまたま帰ってきている事も
ましてや祖母がお得意の喉を聞かせた後に
「孫娘は節回しはまだまだだけど 声がいい」なんて自慢している事とか
やっと応援の役者さんが着き 私の俄かバイトも最後となった舞台で 百合子と寄席の真似事をした
ベンベンベベン ベン それは何かと尋ねたら
っていうのだ
三味線ひきながら互いに掛け合う
昔はお笑い番組にみかけたこの芸は残念ながらテレビ番組でも滅多に見られなくなった
両親の若い頃に流行った歌は面白いものが多い 五月みどりの「お暇ならきてよね」「一週間に十日来い」なんてのは コント仕立てのコミカルな振付けの踊りにできるし
百合子と どっちが古い歌知ってるかゲームみたいな競争したりもして
これ こんな振付けで踊ると面白いよね なんてして見せると 百合子は それ貰い!なんてメモするのだった
「帰っちゃうのよね 寂しくなるな~ やだ泣いちゃいそう」舞台が終わり化粧を落としてると 「帰っちゃやだ 捨てないで~」と 肩に抱き付いてきた
「これこれ 近くの町に来たら会いにいくから」 頭撫で撫でして いいこ いいこをしてあげた
「きっとよ きっと」と百合子は指切りをする
片付けが済んでから遅い時間に 百合子と私は風呂に入った
一座用の宿舎は別にあり 百合子はいつもは そちらで泊まっているのだが 今夜は女将さんの好意で 私の部屋に百合子の布団も用意してくれた
修学旅行の生徒のように私たちはずっと話をしていた
「じゃ また会おうね」 翌朝どちらも寝不足の赤い目をして 別れた 宿の人の運転で駅へ向かう
車はまっすぐ駅へ行かなかった 海岸沿いの道を走る
「朝市が見たいとお願いしたのよ 土産の一つにしたいし」と祖母が言う
運転手の若い男は 手際良く駐車場に車を停め「ここから歩きます」と祖母に手を出した 新鮮な貝や魚 干したの 加工品
色々買った品を運転手がまとめて送ってくれると言う
随分親切なのだった
色白 おっとりした雰囲気の青年は 駅のホームまで荷物を運んでくれた
名刺をくれて「また会いに行ってもいいですか?」 と訊いてくる
じれったげに祖母が 「旅館の女将の息子さんだよ 一目ぼれ 付き合って欲しい ってのが ギリギリまで言い出せなかったんだね~ あんた恐い表情(かお)してるから」
ぼけっとした私に解説つける祖母
男は見事に真っ赤になった
私と言えば 男性でも赤面するんだわと感心していた
縁は何処に転がっているか判らない
彼は休みの度に僅か数時間しか会えなくても 出かけてきた
まめに電話もくれた
いつしか彼と過ごす居心地の良い時間が一生続けばいいと思うようになり ずっと一緒にいたい―という強い気持ちに変わった
そして 私は橋を渡り 嫁いできたのだ
祖母はよく様子を見にきてくれ お産してからずっと殆どそばにいてくれた
曾孫にも三味線や踊りの手解きをして
その祖母が死んで十年―
気がつけば この街に住んで二十年を越える あと数年すれば 子供達の結婚を心配しなくてはいけないだろう
帯と着物のバランスを鏡で確かめていると ドアが開いた
「駅まで お送りします」 運転手に上着を着せかける
「お時間はありますの?」
「これから働いてくれる人達に少し街を案内して ゆっくりご飯でも食べさせてあげたいからね」
夫の優しさは今も変わらない
「綺麗な奥さんと駅までドライブできるし」 そう笑った
笑顔と優しさと―
「デートは久し振りだわ」
「早く子供に跡継がせて 旅行しよう」 あともうひと踏ん張りしたら 叶う夢だろうか
「元気でいてくださいね」
「君もね」
この街が好きだ 夫と暮らすこの街が
私は今でも夫が大好きだ