おさらいをするかのように アラディンは家族の関係を説明する
第1夫人を母に持つ嫁いだディラシアとアラディン
第二夫人を母に持つ これも嫁に行ったアイラとオルク
そして第三夫人を母に持つカシム
第四夫人を母に持つリュディーネ
「オルクの母はアラブでも 中々ヤンチャな腹黒い国の出身で 熱出しちゃ寝込んでいる僕はどうせ死ぬものと相手にされもなかったが
父が本当に愛したのは皆の反対押し切って妻にした異国人のカシムの母親だ
でカシムは生まれた時から国民に人気があった
そして命を狙われ 派手な夫婦喧嘩に見せて 王は愛する妻子を日本へ送り出し 保護しておいて暗殺者達を徹底的にやっつけた
カシムは寝てる僕をしじゅう見舞いに来てくれて 枕元で色いろな話をしてくれた この国をどう変えるか そんな夢も
日本での暮らしのあれこれも
カシムの夢は僕の夢となり 生きたいと願うようになった僕は 少しずつ元気になった
母親は違うがカシムは僕の大切な兄弟だ 幸福になってほしいと 心から思っている
ここにいる妹 リュディーネにもね」 言い終えるとアラディンは 妹を見つめ優しく微笑んだ
史織と亜依香には 目に見えるようだった
部屋から出られない孤独で病弱な少年
太陽の匂いと輝き持つ少年が 元気出させようと あれこれ話し励ます姿が
「4人の妻を公平に満足させないといけない掟は アラディンには体力的にも無理だ 三日で死んじまうさ」 部屋の入口に背の高い青年が立っていた
漆黒の髪 やや吊り上がった茶色の瞳 薄い唇は皮肉な笑みに歪められていた
胸に片手を添え片足引いて腰を屈め 軽く一礼する 「はじめまして オルクと申します 美しい方達」
「用事は どうした?」 問うアラディンに 「美人が来てるっていうのに?」と笑う
少しルーズに結んだ派手なネクタイがよく似合っていた
「あらためて紹介する必要はないみたいだな」 カシムが部屋に入ってくる アリブ 一郎 小川も一緒だった
「今夜は親睦を深めたくて せせこましい食卓にさせてもらった」そうカシムが言う{せせこましい食卓}は 幅3メートル 長さ6メートルはあるのだった
「正式な歓迎会はまた安全になってから 日をあらためて開くからね」
すぐに料理が運ばれてくる
ほかほかの海老 伊勢海老の3倍はあろうかというのが ドッサリと盛られた大皿
何とも良い匂いのする野菜の炒めもの
ほろほろ柔らかそうな団子の浮かぶスープ
香り高いソースを添えられたロースト・ビーフ
焦げ目が絶妙なパイ皮被った器
生ハム巻いたメロンが出てくると史織は 思わずカシムを見た
微笑んでカシムも日本語で答える「小さい頃 大好きだったよね」
史織は真っ赤になった 子供の頃とは違うのだ 超ド級のハンサムの視線は心臓に悪い
一郎は隣りに座ったオルクと話しこんでいた この場の会話は英語が使われている
亜依香はリュディーネの世話をあれこれ焼いていた
見掛けに反し彼女は優しいのだ
アリブは話しかけられない限り自分から話すことはなく 周囲に目を配っている
小川は橋本一郎とオルクの会話を赤くなったり青くなったりして聞いていた
奇妙な夜 史織は何か焦れったい イライラする気持ちに襲われていた
よく可愛がってくれた優しいお兄ちゃんは 多分この国の次の王となる人なのだ
その埋めようのない遠い距離を あらためて感じていた
入国するなり襲撃された不安
疲れ
誰かに見張られているかのような不安感
後にこの奇妙な夜を ある種の感慨を持って史織は振返るようになる