
トランプ政権が関税をディールの武器にして諸外国に揺さぶりをかけています。輸入車に25%の関税をかけると表明すると、日本でも自動車など輸出関連株が大きく下落しました。
トランプ関税は今後、マーケットにどんな影響を及ぼしていくのでしょうか。三井住友DSアセットマネジメント・市川雅浩チーフマーケットストラテジストに河端 里咲さんがインタビューされています。
現状の国内株式市場は、トランプ政権の関税政策がどうなるかを見極めている段階です。日経平均株価は昨年9月下旬からおおむね3万8000〜4万円のレンジ相場が続いています。大きく崩れもしない一方、トランプ政権による関税政策への警戒感が強く、買い上がっていく展開にはなっていませんと、市川氏。
トランプ氏の発言により、自動車など輸出関連株が崩れました。実際に25%程度の関税となれば、自動車関連企業は競争力低下に追い込まれ、業績にもかなりのインパクトが出る恐れがありますとも。
トランプ第2次政権が現時点(2月18日時点)で発動しているのは、中国からのすべての輸入品への10%の追加関税のみです。
中国を米国のサプライチェーンから完全に切り離す「デカップリング」政策の一環という意味合いが強く、今後も段階的に引き上げていくだろうと見ています。関税の引き上げが中国に対してのみ行われるのであれば世界経済、米国経済への影響は限定され、過度に心配する必要はありませんと、市川氏。
延期されているカナダやメキシコなどへの追加関税が出てくる可能性はありますが、トランプ氏はすでに彼らに国境警備を強めさせたことが成果としてありますとも。
日本も自動車や鉄鋼・アルミニウムで関税の対象となる可能性はありますが、報復関税を発動して米国と戦うような姿勢は示していません。
結局のところ、トランプ関税の真の狙いは、米国内への生産回帰と雇用増、海外からの投資増、海外への輸出増と思われます。
石破首相が面談時に、日本の対米投資が多額であること。トヨタ自動車やいすゞ自動車が米国で進める最新の工場建設計画をアピール済ですね。
日米首脳会談、石破首相が対米151兆円の投資表明…「日本の投資は5年連続で世界1位だ」 : 読売新聞
日本はトランプ氏の狙いに応えているほか、中国や北朝鮮を見据えた時に安全保障面でも重要な位置にあることから、日本に対しては厳しい要求はしてこないだろうと見ていますと、市川氏。
すべての国の製品に一律10〜20%の追加関税を課すということは、世界経済にも大きな影響が出てきますし、米国への影響も大きい。
仮に一律10%の追加関税が発動された場合、米国の物価上昇率を1%ポイント程度、押し上げるインパクトがあると考えていますと、市川氏。
現状、トランプ政権は「一律関税」ではなく「相互関税」の導入を検討しており、個別の国と個別の商品について話し合う形となる公算が大きくなっています。日本は米国からの自動車輸入に対する関税はゼロとしていますが、トランプ政権は日本の車検制度や安全基準、補助金などを「非関税障壁」とし、関税以外に米国車の販売に妨げになっていると指摘することも想定されますと、市川氏。
トランプ氏は「インフレ非難」で選挙に勝った経緯があります。米国では2026年に中間選挙もあるので、インフレを招くような無茶な関税引き上げ政策は難しいと考えていますとも。
25年末に期限を迎える「トランプ減税」の延長、追加の法人税減税の動向を注視しています。法人税減税は議会を通す必要があり、大統領令のように簡単にできず時間はかかると思いますが、さらなる減税があれば米国株、間接的に日本株にも追い風になります。
イーロン・マスク氏による政府のスリム化による財政赤字削減への影響は、大幅に削減されるほどのインパクトはないと見ています、市川氏。
トランプ政権になりFRB(米連邦準備理事会)は利下げのタイミングを慎重に判断していくでしょう。1年ぐらいかけて、トランプ関税政策の動向を見極め、今年末12月ごろに利下げするのではないかと、市川氏。
日本株については、目先はトランプ関税の詳細が明らかになり、過度な懸念が後退しない限り、現状の3万8000〜4万円のレンジ相場が続く見通しです。関税政策が、米国のインフ圧力を再燃させるようなものでなく、日本を狙い撃ちするようなものでもなければ、日本株が大きく下落する恐れは小さいとも。
企業業績について、4月下旬から始まる3月期決算企業の24年度本決算では、25年度の会社見通しが注目され、業績の見通しに明るさが確認されれば、日本株を買う手掛かりになります。
今年は実質賃金の前年比プラスの伸びが定着するとみており、これが消費増など様々なルートを経由して日本株を押し上げる方向に作用すると考えていますと、市川氏。
トランプ関税の全体感が見え、かつ、これら日本固有の材料が、株価にとって良い方向に向かうことが確認できれば、4万円の突破は難しくないでしょうと、市川氏。
株価も賃金も上昇トレンドとなり、国内経済が活性化していくことを願います。
# 冒頭の画像は、対米投資をアピールしてトランプ氏からハンサムとヨイショされた石破首相

この花の名前は、スノーフレーク
↓よろしかったら、お願いします。

遊爺さんの写真素材 - PIXTA
トランプ関税は今後、マーケットにどんな影響を及ぼしていくのでしょうか。三井住友DSアセットマネジメント・市川雅浩チーフマーケットストラテジストに河端 里咲さんがインタビューされています。
トランプ関税で日本株はどうなる?自動車25%関税表明で輸出株は総崩れになったが…最も厄介なシナリオとは
三井住友DSアセットマネジメント・市川雅浩チーフマーケットストラテジストに聞く(1) | JBpress (ジェイビープレス) 2025.2.26(水) 市川 雅浩 河端 里咲
トランプ政権が関税をディールの武器にして諸外国に揺さぶりをかけています。輸入車に25%の関税をかけると表明すると、日本でも自動車など輸出関連株が大きく下落しました。トランプ関税は今後、マーケットにどんな影響を及ぼしていくのでしょうか。三井住友DSアセットマネジメント・市川雅浩チーフマーケットストラテジストに話を聞きました。
(河端 里咲:フリーランス記者)
■25%関税ならかなりのインパクトだが…
——トランプ氏が大統領に就任し1カ月が過ぎました。この間の国内株式市場の推移をどのように分析していますか。
市川雅浩・チーフマーケットストラテジスト:現状の国内株式市場は、トランプ政権の関税政策がどうなるかを見極めている段階です。日経平均株価は昨年9月下旬からおおむね3万8000〜4万円のレンジ相場が続いています。大きく崩れもしない一方、トランプ政権による関税政策への警戒感が強く、買い上がっていく展開にはなっていません。
——トランプ米大統領が輸入自動車への追加関税を25%程度にすると発言し、2月20日の日経平均株価は一時前日から600円以上値下がりしました。
市川氏:トランプ氏の発言により、自動車など輸出関連株が崩れました。実際に25%程度の関税となれば、自動車関連企業は競争力低下に追い込まれ、業績にもかなりのインパクトが出る恐れがあります。日本の米国向けの輸出総額のうち、自動車輸出が約3割を占め、日本株への影響が懸念されます。
ただ現状は一律に関税率を高めるのか、どの国のどの自動車に限るのかなどの詳細は出てきていません。
——関税政策全般の動向がどうなるかわからないので、マーケットは様子見の状況ということですね。
■日本には厳しい要求はしてこない?
市川氏:トランプ第2次政権が現時点(2月18日時点)で発動しているのは、中国からのすべての輸入品への10%の追加関税のみです。中国に対しての関税は、中国を米国のサプライチェーンから完全に切り離す「デカップリング」政策の一環という意味合いが強く、今後も段階的に引き上げていくだろうと見ています。関税の引き上げが中国に対してのみ行われるのであれば世界経済、米国経済への影響は限定され、過度に心配する必要はありません。
今後、延期されているカナダやメキシコなどへの追加関税が出てくる可能性はありますが、トランプ氏はすでに彼らに国境警備を強めさせたことが成果としてあります。
日本の自動車の場合、メキシコでの現地生産分を米国へ輸出するルートもあるため、メキシコなどに対する追加関税の動向も引き続き注視する必要がありますが、実際に追加関税をどこまで課すかはまだ明確になっていません。
日本も自動車や鉄鋼・アルミニウムで関税の対象となる可能性はありますが、報復関税を発動して米国と戦うような姿勢は示していません。
結局のところ、トランプ関税の真の狙いは、米国内への生産回帰と雇用増、海外からの投資増、海外への輸出増と思われます。ここに関してはすでに石破総理が「対米投資の1兆ドルまでの引き上げ」「液化天然ガス(LNG)の輸入拡大」を日米首脳会談の手土産にしました。
日本はトランプ氏の狙いに応えているほか、中国や北朝鮮を見据えた時に安全保障面でも重要な位置にあることから、日本に対しては厳しい要求はしてこないだろうと見ています。
現状日本は、米国に対して相互関税や鉄鋼・アルミニウム、自動車への関税適用除外を申し入れています。今後は日本政府の交渉力が試されるところです。
■関税による米国のインフレ再燃リスクは大きくない
——日本株にとって一番厄介なシナリオは。
市川氏:トランプ氏が選挙期間中に発言していた、すべての国の製品に一律10〜20%の追加関税を課すということを実際にされると、日本だけでなく世界経済にも大きな影響が出てきます。これが日本株のトランプ関税リスクとしては最も大きなものと考えます。
ただこれは米国への影響も大きいので、発動のハードルはかなり高いとみています。仮に一律10%の追加関税が発動された場合、米国の物価上昇率を1%ポイント程度、押し上げるインパクトがあると考えています。
現状、トランプ政権は「一律関税」ではなく「相互関税」の導入を検討しており、個別の国と個別の商品について話し合う形となる公算が大きくなっています。日本は米国からの自動車輸入に対する関税はゼロとしていますが、トランプ政権は日本の車検制度や安全基準、補助金などを「非関税障壁」とし、関税以外に米国車の販売に妨げになっていると指摘することも想定されます。
非関税障壁を口実に、日本車に追加関税が課せられるリスクはあり、警戒感が残ります。関税政策については具体的な内容がほとんど固まっていないので、投資家は詳細が明らかになるのを待っている状況です。
一方、トランプ氏は「インフレ非難」で選挙に勝った経緯があります。米国では2026年に中間選挙もあるので、インフレを招くような無茶な関税引き上げ政策は難しいと考えています。
関税の引き上げは、中国を除いた各国との、あくまで交渉材料であり、個別に交渉が行われる限り、関税による米国のインフレ再燃リスクは大きくないと思います。
■法人税のさらなる減税なら日本株に追い風に
——関税以外で株式市場へインパクトのある政策は。
市川雅浩・チーフマーケットストラテジスト:25年末に期限を迎える「トランプ減税」の延長、追加の法人税減税の動向を注視しています。法人税減税は議会を通す必要があり、大統領令のように簡単にできず時間はかかると思いますが、さらなる減税があれば米国株、間接的に日本株にも追い風になります。
一方、減税は財政赤字への負担も大きい。共和党内にも財政保守派はいるので減税規模はトランプ氏の要求額よりも縮小して決着すると見ています。
——イーロン・マスク氏による政府のスリム化のインパクトはないですか。
市川氏:財政赤字が大幅に削減されるほどのインパクトはないと見ています。米国の財政は、関税引き上げによる収入が多少増えるとは思いますが、それよりもトランプ減税や法人税減税等の赤字のインパクトの方が大きいでしょう。
——不法移民対策が経済に与えるインパクトは。
■日米の金融政策は今後どう動く?
市川氏:不法移民は抑制方向ですが、約1100万人と推定される不法移民の強制送還を実現するのは困難だと思います。ある程度不法移民を減らしていくでしょうが、一気に人手不足になるほどの数ではなく、過度な懸念は必要ないでしょう。
——米国でのインフレ圧力はそこまでではないとのことですが、日米の金融政策はどう動くと見ていますか。
市川氏:インフレ圧力が大きくないとはいえ、トランプ政権になりFRB(米連邦準備理事会)は利下げのタイミングを慎重に判断していくでしょう。1年ぐらいかけて、トランプ関税政策の動向を見極め、今年末12月ごろに利下げするのではないかと予想しています。
一方、日銀による利上げは半年に1回を想定しており、次回は7月、その次は来年の1月と見ています。
——今後、日本株はどのように動くと予測していますか。
市川氏:目先はトランプ関税の詳細が明らかになり、過度な懸念が後退しない限り、現状の3万8000〜4万円のレンジ相場が続く見通しです。関税政策が、米国のインフ圧力を再燃させるようなものでなく、日本を狙い撃ちするようなものでもなければ、日本株が大きく下落する恐れは小さいと考えています。
マーケットもトランプ氏に慣れているところもあり、現状の株価がそこまで下がっていないのも説明がつきます。
あとは日本固有の材料が、株価にとって良い方向に向かうか否かです。
——株価に追い風となる期待できる要素があるとすれば、なんでしょうか。
■日経平均が4万円を突破する条件は?
市川氏:3月中旬に春闘の集中回答日があります。昨年の賃上げ率平均5.1%と同程度か、それを上回るような賃上げが確認できれば、株式市場にとっても追い風です。
国内の政治についても、与野党の協議がまとまり、3月末までに25年の予算と税制改正関連法が成立し、政局に波乱のないことが確認できれば、安心材料です。
また企業業績について、4月下旬から始まる3月期決算企業の24年度本決算では、25年度の会社見通しが注目され、業績の見通しに明るさが確認されれば、日本株を買う手掛かりになります。
今年は実質賃金の前年比プラスの伸びが定着するとみており、これが消費増など様々なルートを経由して日本株を押し上げる方向に作用すると考えています。また、投資家が高く評価するような資本効率改善の取り組みと開示の動きが、より多くの企業で確認されれば、海外投資家による日本株の再評価につながりやすくなります。
トランプ関税の全体感が見え、かつ、これら日本固有の材料が、株価にとって良い方向に向かうことが確認できれば、4万円の突破は難しくないでしょう。
----------------------------------------------
市川 雅浩(いちかわ・まさひろ) 三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト
日系・米系銀行で、株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を長く担当。現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
三井住友DSアセットマネジメント・市川雅浩チーフマーケットストラテジストに聞く(1) | JBpress (ジェイビープレス) 2025.2.26(水) 市川 雅浩 河端 里咲
トランプ政権が関税をディールの武器にして諸外国に揺さぶりをかけています。輸入車に25%の関税をかけると表明すると、日本でも自動車など輸出関連株が大きく下落しました。トランプ関税は今後、マーケットにどんな影響を及ぼしていくのでしょうか。三井住友DSアセットマネジメント・市川雅浩チーフマーケットストラテジストに話を聞きました。
(河端 里咲:フリーランス記者)
■25%関税ならかなりのインパクトだが…
——トランプ氏が大統領に就任し1カ月が過ぎました。この間の国内株式市場の推移をどのように分析していますか。
市川雅浩・チーフマーケットストラテジスト:現状の国内株式市場は、トランプ政権の関税政策がどうなるかを見極めている段階です。日経平均株価は昨年9月下旬からおおむね3万8000〜4万円のレンジ相場が続いています。大きく崩れもしない一方、トランプ政権による関税政策への警戒感が強く、買い上がっていく展開にはなっていません。
——トランプ米大統領が輸入自動車への追加関税を25%程度にすると発言し、2月20日の日経平均株価は一時前日から600円以上値下がりしました。
市川氏:トランプ氏の発言により、自動車など輸出関連株が崩れました。実際に25%程度の関税となれば、自動車関連企業は競争力低下に追い込まれ、業績にもかなりのインパクトが出る恐れがあります。日本の米国向けの輸出総額のうち、自動車輸出が約3割を占め、日本株への影響が懸念されます。
ただ現状は一律に関税率を高めるのか、どの国のどの自動車に限るのかなどの詳細は出てきていません。
——関税政策全般の動向がどうなるかわからないので、マーケットは様子見の状況ということですね。
■日本には厳しい要求はしてこない?
市川氏:トランプ第2次政権が現時点(2月18日時点)で発動しているのは、中国からのすべての輸入品への10%の追加関税のみです。中国に対しての関税は、中国を米国のサプライチェーンから完全に切り離す「デカップリング」政策の一環という意味合いが強く、今後も段階的に引き上げていくだろうと見ています。関税の引き上げが中国に対してのみ行われるのであれば世界経済、米国経済への影響は限定され、過度に心配する必要はありません。
今後、延期されているカナダやメキシコなどへの追加関税が出てくる可能性はありますが、トランプ氏はすでに彼らに国境警備を強めさせたことが成果としてあります。
日本の自動車の場合、メキシコでの現地生産分を米国へ輸出するルートもあるため、メキシコなどに対する追加関税の動向も引き続き注視する必要がありますが、実際に追加関税をどこまで課すかはまだ明確になっていません。
日本も自動車や鉄鋼・アルミニウムで関税の対象となる可能性はありますが、報復関税を発動して米国と戦うような姿勢は示していません。
結局のところ、トランプ関税の真の狙いは、米国内への生産回帰と雇用増、海外からの投資増、海外への輸出増と思われます。ここに関してはすでに石破総理が「対米投資の1兆ドルまでの引き上げ」「液化天然ガス(LNG)の輸入拡大」を日米首脳会談の手土産にしました。
日本はトランプ氏の狙いに応えているほか、中国や北朝鮮を見据えた時に安全保障面でも重要な位置にあることから、日本に対しては厳しい要求はしてこないだろうと見ています。
現状日本は、米国に対して相互関税や鉄鋼・アルミニウム、自動車への関税適用除外を申し入れています。今後は日本政府の交渉力が試されるところです。
■関税による米国のインフレ再燃リスクは大きくない
——日本株にとって一番厄介なシナリオは。
市川氏:トランプ氏が選挙期間中に発言していた、すべての国の製品に一律10〜20%の追加関税を課すということを実際にされると、日本だけでなく世界経済にも大きな影響が出てきます。これが日本株のトランプ関税リスクとしては最も大きなものと考えます。
ただこれは米国への影響も大きいので、発動のハードルはかなり高いとみています。仮に一律10%の追加関税が発動された場合、米国の物価上昇率を1%ポイント程度、押し上げるインパクトがあると考えています。
現状、トランプ政権は「一律関税」ではなく「相互関税」の導入を検討しており、個別の国と個別の商品について話し合う形となる公算が大きくなっています。日本は米国からの自動車輸入に対する関税はゼロとしていますが、トランプ政権は日本の車検制度や安全基準、補助金などを「非関税障壁」とし、関税以外に米国車の販売に妨げになっていると指摘することも想定されます。
非関税障壁を口実に、日本車に追加関税が課せられるリスクはあり、警戒感が残ります。関税政策については具体的な内容がほとんど固まっていないので、投資家は詳細が明らかになるのを待っている状況です。
一方、トランプ氏は「インフレ非難」で選挙に勝った経緯があります。米国では2026年に中間選挙もあるので、インフレを招くような無茶な関税引き上げ政策は難しいと考えています。
関税の引き上げは、中国を除いた各国との、あくまで交渉材料であり、個別に交渉が行われる限り、関税による米国のインフレ再燃リスクは大きくないと思います。
■法人税のさらなる減税なら日本株に追い風に
——関税以外で株式市場へインパクトのある政策は。
市川雅浩・チーフマーケットストラテジスト:25年末に期限を迎える「トランプ減税」の延長、追加の法人税減税の動向を注視しています。法人税減税は議会を通す必要があり、大統領令のように簡単にできず時間はかかると思いますが、さらなる減税があれば米国株、間接的に日本株にも追い風になります。
一方、減税は財政赤字への負担も大きい。共和党内にも財政保守派はいるので減税規模はトランプ氏の要求額よりも縮小して決着すると見ています。
——イーロン・マスク氏による政府のスリム化のインパクトはないですか。
市川氏:財政赤字が大幅に削減されるほどのインパクトはないと見ています。米国の財政は、関税引き上げによる収入が多少増えるとは思いますが、それよりもトランプ減税や法人税減税等の赤字のインパクトの方が大きいでしょう。
——不法移民対策が経済に与えるインパクトは。
■日米の金融政策は今後どう動く?
市川氏:不法移民は抑制方向ですが、約1100万人と推定される不法移民の強制送還を実現するのは困難だと思います。ある程度不法移民を減らしていくでしょうが、一気に人手不足になるほどの数ではなく、過度な懸念は必要ないでしょう。
——米国でのインフレ圧力はそこまでではないとのことですが、日米の金融政策はどう動くと見ていますか。
市川氏:インフレ圧力が大きくないとはいえ、トランプ政権になりFRB(米連邦準備理事会)は利下げのタイミングを慎重に判断していくでしょう。1年ぐらいかけて、トランプ関税政策の動向を見極め、今年末12月ごろに利下げするのではないかと予想しています。
一方、日銀による利上げは半年に1回を想定しており、次回は7月、その次は来年の1月と見ています。
——今後、日本株はどのように動くと予測していますか。
市川氏:目先はトランプ関税の詳細が明らかになり、過度な懸念が後退しない限り、現状の3万8000〜4万円のレンジ相場が続く見通しです。関税政策が、米国のインフ圧力を再燃させるようなものでなく、日本を狙い撃ちするようなものでもなければ、日本株が大きく下落する恐れは小さいと考えています。
マーケットもトランプ氏に慣れているところもあり、現状の株価がそこまで下がっていないのも説明がつきます。
あとは日本固有の材料が、株価にとって良い方向に向かうか否かです。
——株価に追い風となる期待できる要素があるとすれば、なんでしょうか。
■日経平均が4万円を突破する条件は?
市川氏:3月中旬に春闘の集中回答日があります。昨年の賃上げ率平均5.1%と同程度か、それを上回るような賃上げが確認できれば、株式市場にとっても追い風です。
国内の政治についても、与野党の協議がまとまり、3月末までに25年の予算と税制改正関連法が成立し、政局に波乱のないことが確認できれば、安心材料です。
また企業業績について、4月下旬から始まる3月期決算企業の24年度本決算では、25年度の会社見通しが注目され、業績の見通しに明るさが確認されれば、日本株を買う手掛かりになります。
今年は実質賃金の前年比プラスの伸びが定着するとみており、これが消費増など様々なルートを経由して日本株を押し上げる方向に作用すると考えています。また、投資家が高く評価するような資本効率改善の取り組みと開示の動きが、より多くの企業で確認されれば、海外投資家による日本株の再評価につながりやすくなります。
トランプ関税の全体感が見え、かつ、これら日本固有の材料が、株価にとって良い方向に向かうことが確認できれば、4万円の突破は難しくないでしょう。
----------------------------------------------
市川 雅浩(いちかわ・まさひろ) 三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト
日系・米系銀行で、株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を長く担当。現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
現状の国内株式市場は、トランプ政権の関税政策がどうなるかを見極めている段階です。日経平均株価は昨年9月下旬からおおむね3万8000〜4万円のレンジ相場が続いています。大きく崩れもしない一方、トランプ政権による関税政策への警戒感が強く、買い上がっていく展開にはなっていませんと、市川氏。
トランプ氏の発言により、自動車など輸出関連株が崩れました。実際に25%程度の関税となれば、自動車関連企業は競争力低下に追い込まれ、業績にもかなりのインパクトが出る恐れがありますとも。
トランプ第2次政権が現時点(2月18日時点)で発動しているのは、中国からのすべての輸入品への10%の追加関税のみです。
中国を米国のサプライチェーンから完全に切り離す「デカップリング」政策の一環という意味合いが強く、今後も段階的に引き上げていくだろうと見ています。関税の引き上げが中国に対してのみ行われるのであれば世界経済、米国経済への影響は限定され、過度に心配する必要はありませんと、市川氏。
延期されているカナダやメキシコなどへの追加関税が出てくる可能性はありますが、トランプ氏はすでに彼らに国境警備を強めさせたことが成果としてありますとも。
日本も自動車や鉄鋼・アルミニウムで関税の対象となる可能性はありますが、報復関税を発動して米国と戦うような姿勢は示していません。
結局のところ、トランプ関税の真の狙いは、米国内への生産回帰と雇用増、海外からの投資増、海外への輸出増と思われます。
石破首相が面談時に、日本の対米投資が多額であること。トヨタ自動車やいすゞ自動車が米国で進める最新の工場建設計画をアピール済ですね。
日米首脳会談、石破首相が対米151兆円の投資表明…「日本の投資は5年連続で世界1位だ」 : 読売新聞
日本はトランプ氏の狙いに応えているほか、中国や北朝鮮を見据えた時に安全保障面でも重要な位置にあることから、日本に対しては厳しい要求はしてこないだろうと見ていますと、市川氏。
すべての国の製品に一律10〜20%の追加関税を課すということは、世界経済にも大きな影響が出てきますし、米国への影響も大きい。
仮に一律10%の追加関税が発動された場合、米国の物価上昇率を1%ポイント程度、押し上げるインパクトがあると考えていますと、市川氏。
現状、トランプ政権は「一律関税」ではなく「相互関税」の導入を検討しており、個別の国と個別の商品について話し合う形となる公算が大きくなっています。日本は米国からの自動車輸入に対する関税はゼロとしていますが、トランプ政権は日本の車検制度や安全基準、補助金などを「非関税障壁」とし、関税以外に米国車の販売に妨げになっていると指摘することも想定されますと、市川氏。
トランプ氏は「インフレ非難」で選挙に勝った経緯があります。米国では2026年に中間選挙もあるので、インフレを招くような無茶な関税引き上げ政策は難しいと考えていますとも。
25年末に期限を迎える「トランプ減税」の延長、追加の法人税減税の動向を注視しています。法人税減税は議会を通す必要があり、大統領令のように簡単にできず時間はかかると思いますが、さらなる減税があれば米国株、間接的に日本株にも追い風になります。
イーロン・マスク氏による政府のスリム化による財政赤字削減への影響は、大幅に削減されるほどのインパクトはないと見ています、市川氏。
トランプ政権になりFRB(米連邦準備理事会)は利下げのタイミングを慎重に判断していくでしょう。1年ぐらいかけて、トランプ関税政策の動向を見極め、今年末12月ごろに利下げするのではないかと、市川氏。
日本株については、目先はトランプ関税の詳細が明らかになり、過度な懸念が後退しない限り、現状の3万8000〜4万円のレンジ相場が続く見通しです。関税政策が、米国のインフ圧力を再燃させるようなものでなく、日本を狙い撃ちするようなものでもなければ、日本株が大きく下落する恐れは小さいとも。
企業業績について、4月下旬から始まる3月期決算企業の24年度本決算では、25年度の会社見通しが注目され、業績の見通しに明るさが確認されれば、日本株を買う手掛かりになります。
今年は実質賃金の前年比プラスの伸びが定着するとみており、これが消費増など様々なルートを経由して日本株を押し上げる方向に作用すると考えていますと、市川氏。
トランプ関税の全体感が見え、かつ、これら日本固有の材料が、株価にとって良い方向に向かうことが確認できれば、4万円の突破は難しくないでしょうと、市川氏。
株価も賃金も上昇トレンドとなり、国内経済が活性化していくことを願います。
# 冒頭の画像は、対米投資をアピールしてトランプ氏からハンサムとヨイショされた石破首相

この花の名前は、スノーフレーク
↓よろしかったら、お願いします。

遊爺さんの写真素材 - PIXTA