「白鯨」 1956年 アメリカ
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監督 ジョン・ヒューストン
出演 グレゴリー・ペック レオ・ゲン
リチャード・ベースハート オーソン・ウェルズ
ジェームズ・ロバートソン・ジャスティス
ハリー・アンドリュース バーナード・マイルズ
ストーリー
1814年、北米捕鯨業中心マサチューセッツ州ニュー・ベドフォード。
海にあこがれを求めてやってきた、風来坊のイシュールは“捕鯨館ピーター・コフィーン”に宿を求め、同室の銛打ちクィークェグと無二の親友になる。
翌日イシュメールは、教会で昔は銛師だったマップル神父の説教を聴いた後、奇妙な男エリジャーの警告にも屈せず、エイハブが船長の老朽捕鯨船ピークォド号の乗組員に傭われる。
エイハブは以前、モビイ・ディックと呼ぶ白鯨に片足をもぎ取られて以来、復讐の一念に凝り固まっていた。
何も知らずに乗組んだ荒くれ船員達は、一日、彼の白鯨追跡宣言に驚いたが船長の狂熱ぶりに感染、賞金のスペイン金貨を得んものと夢中になる。
唯一人理性を失わぬ一等運転士スターバックは、神を恐れぬこの行為に反対したが一蹴された。
鯨群を追うピークォド号は、途中、ロンドンに船籍を持つサミュエル・エンダビイ号に出会う。
船長のブーマーが白鯨を捕り逃したというと、エイハブは怒って彼を自分の船に追い帰す。
やがて同じ捕鯨仲間のレイチェル号にも邂逅。
ガーデナー船長は、12になる息子を先日、海で見失い、血眼になって探し廻っている。
だが彼の協力の懇請も、エイハブには時間の浪費としか思えない。
数刻後、嵐が船を襲ったが強風にもエイハブは帆を下せと命じない。
怒ったスターバックとエイハブは豪雨の中に対立。
だがエイハブの形相と白鯨への執念に、スターバックもたじろぐうち、嵐は去る。
遂に宿敵のモビイ・ディックを発見し、4隻のボートが下され、巨鯨との戦闘が開始される。
モビイ・ディックの背中へよじ上り憎悪のモリをぶちこむエイハブはモリ綱に巻き込まれ海中に姿を没する。
寸評
時は1814年、日本では徳川幕府11代将軍の徳川家斉の時代である。
捕鯨は日本でも古くから行われており、ここで描かれたようにモリを打ち込んで捕らえていたようだが、やがて網を使った捕鯨も行われるようになったようである。
古式の捕鯨を描いた絵図を見るとここで描かれたような手法での捕鯨が行われていたのだと思う。
僕が子供の頃には日本においても捕鯨は盛んに行われており、クジラは貴重な食料でもあり、油も取れたりして捨てるところがない貴重な資源の一つであった。
学校給食にはクジラ肉がよく出ていたことを思うと安価でもあったのだろう。
おでん屋行けば、クジラの皮下脂肪を鯨油で揚げて乾燥させたコロと呼ばれるものが必ず煮込まれていた。
当時の小学校では脂肪不足を補うために肝油という飴玉の様なものが配られていたのだが、原料は鯨油だったのではないかと思う。
それほどクジラは貴重な生き物だった。
大間のマグロではないが一攫千金が狙える生き物で、描かれたような鯨獲りの男たちが存在していたと言うことは想像に難くない。
ピークォド号に乗り込んでいる漁師たちは正にそのような男たちだ。
船長のエイハブは過去にモビイ・ディックと呼ばれる白鯨に片足をもぎ取られて以来、復讐の一念に凝り固まっていて、その鯨を仕留めることに執念を燃やしている。
狂気の船長なのだが、エイハブ船長の狂気性はイマイチ伝わってこない。
おそらく演じたグレゴリー・ペックに似つかない役柄だったからだと思うので、僕はミスキャストだったと思う。
船員たちに対する態度は高圧的だが、船員たちから嫌悪されているわけではない。
ボートに乗って行方不明になっている息子を探すレイチェル号のガーデナー船長から協力を依頼された時には、少年の命よりもモビイ・ディック追跡を優先させる非情さを見せるのだが、僕は彼を情けを知らない狂人と言う風には感じ取れなかった。
復讐の一念と呼ぶには、その気持ちの激しさは描き切れていたとは言えない。
同じく巨大な獲物との格闘という観点で言えば、ジョン・スタージェスが監督し、スペンサー・トレイシーが主演した「老人と海」の方が、主人公の心の内が描けていたように思う。
特撮は今となっては稚拙に思えるが、制作時期を考えるとよくできていたと言えるだろう。
エイハブが鯨に飛び移ってモリを打ち込むが、ロープに絡まれて鯨に縛り付けられてしまう。
鯨が海中に潜り込むことで息絶えたようだが、波に打ち付けられた手は漁師たちを招いているように見える。
鯨獲りは鯨を目の前にして引き返すことはできないと叫んで、漁師たちが白鯨に挑んでいくシーンは感動的だが、もう少し盛り上げる演出は出来たと思う。
教会での長い説教シーンがあったり、予言者が出てきたりしているから、白鯨は神の化身だったのかもしれない。
僕は人間が神に挑み、神によって成敗されたような印象を持った。
現在は捕鯨が制約されているのだが、捕鯨大国だった我が国は鯨文化のない国に敗北したのだと恨みに思っている。
アメリカ等では、鯨肉は一切食べず、鯨油を機械油に使っていたのですね。
大映の『鯨神』なんか、絶対に無理ですね。この原作は、あの「私、・・・なんとかです」の宇野鴻一郎先生で、芥川賞作品なんですね。
鯨などはヒゲに至るまで利用し、命をもらった食べ物を捨てるようなことはしません。
小学生の頃、給食に出てくる肉と言えば鯨肉でした。