Zinc log

文房具 コンピュータ 法 政治 軍事 など

「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」読了

2006-05-12 19:27:59 | essay
「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」読了。
以下は自意識過剰とも思える読後感をとりとめもなく綴ったものである。

読み進めるのが辛い作品だった。いや、多くの人はそうでなかったに違いない。愛に溢れる作品である。ユーモアの溢れる作品でもある。しかし、俺にはどうしようもなく辛かった。

一般的に本作品は、著者自身の人柄を射界に収めた上で、淡々と人情の機微を描写するものと評価されるようだ。俺は全くこれに同意するのだが、当惑することには、著者のそのスタンスと行動規範は俺のそれとほぼ同一だったのだ。彼のリアクションは鏡の中のデジャヴュのようで、大変居心地の悪いものであった。

しかし、それは大した事ではない。熱心なファンが陥る倒錯にも似ているし、リリーファンである俺には本当にそういう要因もあるのかもしれない。女に対する願望が似ていることから考えると当然なのかもしれない。
問題は別の所にあった。

これは単なる偶然だが、著者の苦しみは、他人のものとして客観視出来ないものだった。更に俺には著者と違って救われない事情もあった。彼の母は強く明るく賢明であったと思う俺の心には、余裕は無かった。

しかし、救われた面も無かった訳ではない。

馬鹿チンポマンコ野郎に対する怒り。怒りは優しさから。優しさの欠如に優しさは耐えられず、腹は煮えるのだ。著者の怒りは俺の優しさとして吸収出来た。そして著者の溢れ出るありきたりな優しさに泣いた。ありきたりな日常の素晴らしさをもう一度考えた。著者自身の涙が俺に降り注いだかのようだった。

著者自身による一枚限りの挿絵を眺めながら、彼の父のことを思った。


「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」リリー・フランキー (著)
単行本: 450 p ; サイズ(cm): 19 x 13
出版社: 扶桑社 ; ISBN: 4594049664 ; (2005/06/28)



最新の画像もっと見る