映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

人間の境界(2023年)

2024-05-16 | 【に】

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv85495/


以下、公式HPよりあらすじのコピペです。

=====ここから。

 「ベラルーシを経由してポーランド国境を渡れば、安全にヨーロッパに入ることができる」という情報を信じて祖国を脱出した、幼い子どもを連れたシリア人家族。

 しかし、亡命を求め国境の森までたどり着いた彼らを待ち受けていたのは、武装した国境警備隊だった…。

=====ここまで。

 アグニエシュカ・ホランド監督作。原題は「Green Border」


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 前回の記事「エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命」を見に行った際に、劇場前にポスターが掲示されていて、よく見たらホランド監督ではないか、、、! ということで、そう言えばこれ見たいと思ってたんだわ! と思い出して、公開直後に見に行ってまいりました。

 ほとんど予備知識なく見に行ったのですが、あまりに悲惨な内容で、メチャクチャ疲れました。


◆ポーランド東西国境の明暗

 私がポーランドに行ったのは、2017年の7月だったが、当時、既にポーランドは右傾化していると言われていた。もちろん、たった2泊でワルシャワを垣間見ただけでは、それが本当かどうかなんて全く分からなかったが、私がフォローしているX(旧Twitter)のアカウントで、おそらくポーランド在住(それも相当の長期間)している日本人の方のものがあり、その方のツイートをずっと拝読していると、それはかなりヤバいと感じるものがあった。

 そのフォロイーの方は、長年、懸念(というか、当時の政府に対する悪口)のツイートをされていて、昨年、選挙で政権交代したときのツイートは、ホッとした感アリアリだった。

 で、本作で描かれているのは、ベラルーシとの国境付近において2021年、つまり極右政党による政治体制だった頃に起きていたことである。ベラルーシの大統領は、あのルカシェンコ。ならば、このような事態が起きていたのも不思議ではない、、、知らなかったけれども。

 冒頭、飛行機内のシーンから始まり、着陸寸前に「ベラルーシへようこそ」とアナウンスが流れる。なぜ、ベラルーシ、、、? と思ったら、それがルカシェンコの巻いた疑似餌であったと分かるのは、しばらく後。乳飲み子を抱える5人家族とアフガンの女性が国境までどうにか辿り着いたと思ったら、なぜかベラルーシから鉄条網をくぐりぬけて追い出される。アフガン女性がスマホで位置確認すると、なんと亡命を希望するポーランドに入国できているではないか! 喜ぶ女性と家族。

 私も、ポーランドに入国できたのなら良かったではないか、、、と見ていて思った。けれど、それは大間違いであった。

 つまり、ポーランド極右政府は移民・難民排斥が基本であり、ベラルーシから不法入国してくる難民は受け入れたくない。だから、ベラルーシに全力で送り返すのである。それはもう、、、酷いやり方で。

 ベラルーシは、というか、ルカシェンコは、、、というか、背後で糸を引くプーチンはそんなことは百も承知。それを狙ってこの移民・難民送り込みを行っているのだ。EU攪乱が狙い。

 プーチン、、、考えることが陰険過ぎる。相当ヤバい奴だとは分かっていたが、なんかもう、タガが外れている感じ。いやでも、これはロシアがウクライナへ侵攻する前の話である。

 ウクライナ侵攻後、ウクライナから逃れた人々をポーランドが大量に受け入れたのは、世界中にニュースで流れた。けれど、その反対側の国境では、同じ国とは思えない方法で祖国から逃れた人々を蹂躙していたことは、日本のニュースではほとんど流れなかった。

 ネットで検索したら、3年前のロイターの記事が出て来た(そのうちリンク切れすると思うので、テキストを貼っておきます)。

[ワルシャワ 2日 ロイター]
 ポーランドは2日、ベラルーシから大量の不法移民が送り込まれているとして、国境の2地区に非常事態を宣言した。
 同国と欧州連合(EU)は、ベラルーシのルカシェンコ大統領が制裁に圧力をかけるため数百人単位の移民をポーランドに送り込んでいると非難している。
 共産主義時代以来となる今回の非常事態宣言では、30日にわたって多人数による集会が禁止され、国境から3キロまでの地域で移動が制限される。
 移民支援団体は、ここ数日で既に該当地域でポーランド警察や装甲車が増えているとし、非常事態宣言により支援活動が制限され移民が打撃を受けるのではないかと懸念を表明している。
 ポーランド大統領報道官は、国境の情勢は「困難かつ危険だ。ポーランドは、国家とEUの安全保障を確保するための措置を講じなければならない」と述べた。
 

◆本作の意義とは、、、

 中盤以降は、この家族や女性たちと同様の扱いをされている人々も大勢登場し、見ているだけで脳みそも気持ちも疲弊するシーンが続く。

 ポーランド国内では、このような人権蹂躙に対して行動を起こす人々も当然おり、しかし、政府は彼らを徹底的に排除しようとする。そんな政府の意向の下に動く国境警備隊の若い男性隊員は精神に支障を来してしまう。難民支援グループに加わった女性も、一時拘束される。正直言って、何やってんだよ、、、という感じである。そこまでして排除しようとした難民たちの人数は、その後、ウクライナから避難してきた人々をはるかに下回るという。

 ネットの感想を拾い読みしたら、こういう描写がホランド監督がポーランド人であるが故の“言い訳”であり、本作の中では“雑音”である、、、という内容がいくつか見られた。

 そんな風に受け止める人もいるのか、、、と驚いた。

 この映画は、政権交代前のポーランドでは上映禁止になったそうだし、ホランド監督も保守派に脅迫されていたという。それでもこの映画を撮ったという事実よりも、ポーランド人でこの事態に心を痛めたり病んだりしている人の描写を入れたことを言い訳とか言っちゃうって、何というか、木を見て森を見ずというか、じゃあどんなんだったら満足だったの? と聞きたい気分。それに、そういう描写だって必要だし、本作では、ポーランドの欺瞞もちゃんと描かれており、たった24日間で撮影したとは思えない重厚な内容だと思うんだけど。

 人間が人間として扱われていない、虐殺が起きているのは、何もガザだけじゃない。本作で描かれていることも、これぞ文字通りの虐殺といっていいのではないか。 

 高校か中学の社会の授業で見せても良いくらいだ。

 パンフレットが充実している、、、というか、ポーランド映画といえばこの方、、、久山宏一氏の論文みたいな詳しい解説が掲載されている。監督の長文インタビューや、ベラルーシ国境に取材で滞在していたジャーナリストのコラムもある。映画のパンフは、やっぱしこうであって欲しいよね。映画ライターや畑違いの監督の感想文なんか必要ない。これで900円なら安いとはいわないけど、高くはない。

 

 

 

 

 

 


Wプーに翻弄される西側諸国、相手にもされていない我が国、、、トホホ。

 

 

 

 

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