Q 回転焼っていろんな呼び名があるみたいですが、なぜでしょうか?

A 回転焼とは、小麦粉でつくった皮であんこを挟んで焼いた丸い形のお菓子。 他にも大判焼・今川焼など地域によってさまざまな名称で呼ばれています。

 皆さんはどう呼んでいますか?

回転焼は、どうやら★江戸時代に江戸の★今川橋付近にあった店が売り出した「今川焼」というお菓子がルーツなんだそう。 その後、全国各地にこのお菓子が広まっていった際にたくさんの呼び名が生まれていったようです。

たくさんの名称があってびっくり!
たくさんの名称があってびっくり!

 こう並べてみると、「○○焼」「○○饅頭」という名称が多い中、「御座候(ござそうろう)」だけなんだか他と違うのが気になります。 そこで、詳しく話を聞くために、兵庫県姫路市にある「株式会社御座候」を訪ねることにしました。

2020年で創業70年になる御座候本社
2020年で創業70年になる御座候本社
代表取締役専務の山田さん
代表取締役専務の山田さん

 代表取締役専務の山田さんにお聞きしたところ、御座候は昭和25年に山田さんの祖父が兵庫県姫路市で創業した会社で当初は「今川焼」だったとのこと。     この屋号には「お客さまに対して、お買い上げいただきありがたく御座候」という気持ちが込められています。創業当初はごく普通の回転焼を売るお店でしたが、戦後の物資不足の中でもお客さまは「本物の味」を求めていると感じ、★希少だった上白糖や北海道産小豆などの高価な材料を使った回転焼を販売するようになりました。 

当時は一般的な回転焼が5円程度だったところ、御座候は★倍の10円。にもかかわらず、この本物志向の回転焼は大ヒット! そして、御座候ならではのおいしさに魅了されたお客さまたちは、「回転焼をください」ではなく「“御座候”をください」と注文するようになったそうです。

創業当時の店舗。右上に「御座候」の看板が見えます
創業当時の店舗。右上に「御座候」の看板が見えます

山田さんは、当時の状況についてこのように話します。「御座候の回転焼は高級感がありますので、他店のものと区別するために、お客さまからそう呼ばれるようになったと考えています。 また、聞いただけではなんだかわからない(回転焼だとはわからない)“ござそうろう”という名称だからこそ、お客さまの心に強く残ったのではないでしょうか」

ところで、なぜ回転焼にはこんなにも多くの呼び名があるのでしょうか?「それは……、私にもわからないんです」と山田さん。 過去に同じような疑問を抱いた山田さんは、全国にどんな名称があるのかリストアップしてその数の多さに驚いたそうですが、理由までは深く追求しなかったそうです。

焼きあがっていく様子が目の前で見られるのも楽しい御座候の店舗
焼きあがっていく様子が目の前で見られるのも楽しい御座候の店舗

探偵たちは謎を解明しようと引き続き調査を進めると……、なんと「回転焼の名称に関する調査研究」を行ったことがあるという方言学の大学教授を発見! ★奈良大学文学部で日本語の諸方言をテーマに研究されている岸江信介先生を訪ねてみることにしました。

さまざまな方言を調査・研究している岸江先生
さまざまな方言を調査・研究している岸江先生

岸江先生が見せてくれた回転焼の名称分布図によると、★全国レベルでは「大判焼」という名称が主流のように見えます。その理由を、岸江先生は得意げに「大判焼の名称は、実は小説が関係しているんですよ」と教えてくれました。えっ、小説と回転焼にどんな関係が!?

呼び方がこんなに違う!?※岸江信介 奈良大学教授の調査資料をもとに作成
呼び方がこんなに違う!?
※岸江信介 奈良大学教授の調査資料をもとに作成

「昭和31~33年ごろ、★愛媛を舞台にした『大番』という小説がベストセラーになりました。 そこから着想を得た愛媛の松山丸三という会社が、従来よりサイズをひと回り大きくした回転焼を『大番焼』と名づけ、それを焼く機械を販売しようとしたのです」と先生は話します。 しかし、同社では小説のタイトル「大番」をそのまま使用するのでは芸がないと考え、大きなサイズ(判)という意味の「大判焼」に名称を変更。これが評判となり、日本全国に広がったのです。

松山丸三が販売した大判焼セット(株式会社松山丸三提供)
松山丸三が販売した大判焼セット(株式会社松山丸三提供)

さらに、その他の名称についても岸江先生から解説をうかがいました。「“回転焼”は生地を回転させて焼くという焼き方に由来する名称で、他には“御座候”に代表されるような➊店名に由来するもの、“太鼓焼”のように➋形状に由来しているものなどに大別されます。 他にも、もっともっといろんな呼び名がありますよ。実は回転焼だけでなく、たとえばトウモロコシやカタツムリなども各地でさまざまな呼び名があります。 長年方言を研究していますが、日々、日本語の表現の豊かさや奥深さには驚かされますね」。

日本語の表現の豊かさについて熱く語る岸江先生
日本語の表現の豊かさについて熱く語る岸江先生

トウモロコシにカタツムリ!?この他に、一体どんな変わった呼び名があるのでしょう。新たなナゾが気になる探偵たちですが、今回はこのあたりで一旦調査を終了したいと思います。

今回は回転焼のいろいろな名称について調査を進めましたが、印象的だったのは「各地でそれぞれ回転焼が愛されてきた結果、それぞれ独自の呼び名が生まれた」ということ。シンプルで素朴な回転焼は、どこでもみんなの人気者でした。皆さんも、いろいろな地方出身のお友達と回転焼を食べながら、「このお菓子、なんて呼ぶ?」というテーマで盛り上がってみてはどうでしょうか。

「このお菓子、なんて呼ぶ?」と盛り上がって楽しくおいしいひとときを
「このお菓子、なんて呼ぶ?」と盛り上がって楽しくおいしいひとときを
調査完了
今回取材したところはこちら
御座候 
岸江信介研究室   (出展;/マイ大阪ガス)