つらつら日暮らし

『大般涅槃経』と菩薩戒について

拙僧自身、「菩薩戒」という大乗仏教の戒律を受けているが、もちろん、「菩薩戒」について概念上は釈尊入滅後の後代に出来た戒律だと理解している。日本では江戸時代には「大乗非仏説」が出て来ているため、もう、数百年くらいは疑わしい状態だったと見ることも出来る。ただ、そういった概念上の問題だけでは、個人的には片付けられないので、「菩薩戒」を勉強し直すべきだと思っている。

さて、そうなると「菩薩戒」は、『梵網経』とか『瓔珞経』とか、一部の経典を学ぶ場合が多いが、それらは「仏説」として信じられている(実際のところは、中国成立であることは間違いないが)。よって、「菩薩戒」は仏説として示されたと信じていることになる。また、他の経典にも説かれていて、今日は大乗仏典の『大般涅槃経』から見ていきたい。

 戒に復た、二有り。
 一には声聞戒。
 二には菩薩戒。
 初発心従り乃至、阿耨多羅三藐三菩提を成ずるを得ん、是を菩薩戒と名づく。
 白骨を観るがごとく、乃至、阿羅漢果を証得す、是を声聞戒と名づく。
 若し、声聞戒を受持する者有れば、当に知るべし是の人、仏性及び如来を以て見えず。
 若し、菩薩戒を受持する者有れば、当に知るべし是の人、阿耨多羅三藐三菩提を得て、能く仏性・如来・涅槃を見る。
    『大般涅槃経』巻二十八「師子吼菩薩品第十一之二」


このように、世尊は戒に声聞戒と菩薩戒とがあると示し、しかも、声聞戒を受持する者は、仏性や如来を見ることが出来ないという。むしろ、菩薩戒を修行する人は、阿耨菩提を成ずるのみならず、仏性・如来、そして涅槃を見ることが出来るとされている。或る意味、大乗仏教に特有の仏性や如来(声聞は最高位が阿羅漢だから)などに至るために、菩薩の修行として体系化されたことが分かる。

その初心に菩薩戒が必要で、しかも、『涅槃経』をそのまま採れば、声聞戒と菩薩戒とが、排他的関係にあると理解出来る。その後、中国では声聞戒と菩薩戒とを、両方守るという状況であり(ごくごく一部の禅僧は、菩薩戒のみ場合もあったとのこと)、日本では伝教大師最澄以降、天台宗系統では菩薩戒のみであり、更に曹洞宗でも菩薩戒のみであった(道元禅師御自身に於ける受戒の様子には、江戸時代以降の議論があるが、『宝慶記』には「菩薩沙弥」の問答がある)。なお、この戒体系の関係については、『涅槃経』自体、以下のように述べている。

是の大涅槃微妙経典亦復た是の如く八の不思議有り。一には漸漸に深まる。所謂、優婆塞戒・沙弥戒・比丘戒・菩薩戒なり。
    『大般涅槃経』巻三十二「師子吼菩薩品第十一之六」


つまり、優婆塞戒という在家戒から始まり、入道する場合の順番、沙弥戒から比丘戒(ここが、いわゆる二五〇戒とかいわれる)、そしてそこから菩薩戒に深まるという。ただし、この文章だけでは排他的関係なのか、増補的関係なのかが分からない。無論、声聞戒と菩薩戒とでは、戒の条数からいっても、増補的な関係にはならず、どうあっても理念、或いは実際の戒の実践方法に於いてのみ考察されるべきなのかもしれないが、そういえばこんな文献もあった。

声聞戒真浄なれば、菩薩戒登るべし。浄心に耽るを捨離して、広く利行を拡充せん。菩提心円満なれば、仏道定めて成るべし。
    『弘戒法儀(下)』


結局、心を浄める修行にのみ浸るのを捨ててしまい、ただ利他の修行を広めるために、菩薩戒を受けるべきだという。そして、利行を進めていけば、菩提心が円満になり、結果的に仏道がなるという。利行とは、自他一等に仏道への利益がある行いを進めることであり、その文脈からいけば、『涅槃経』の影響を伺うことが出来るし、大乗仏教で重視する菩提心とは、修行を志す気持ちであると同時に、菩提そのものの心でもある。

要するに、大乗仏教では声聞戒に基づく修行のみでは何か問題があると考えられていたはずである。だからこそ、菩薩戒に基づき、社会に於いて救済活動することが求められ、そのために菩薩戒という戒が体系化されたのだろう。思想的には、戒体の有無を超えることにあると思われる。更に、菩薩戒は生生世世にわたっても喪われることが無く、一切の衆生を仏道に導くものだといえる。よって、菩薩戒の場合には「今身より仏身に至るまで」といって、それを受ける。

結論として、菩薩戒の場合には、菩薩戒自体に仏道修行の継続を促す功徳があるから、それを受けて修行を続ける。これはこれで、必要に応じて体系化されたわけであり、これは、様々な菩薩戒関連資料を見るにつけ、強く感じるのである。

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